『婚約破棄されたので北の港を発展させたら

ふわふわ

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【第7話 北方領地】

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【第7話 北方領地】

三日後。

クレスト公爵領の城が見えてきた。

北方の大地は王都とはまるで違う。

空は広く、風は冷たい。

遠くまで草原が続き、その向こうには雪を頂いた山々が連なっていた。

私は思わず呟く。

「……やっぱり好きですわ、この景色」

隣に座る執事アルフレッドが静かに答えた。

「お嬢様は幼い頃から北方を気に入っておられました」

「王都よりずっと落ち着きますもの」

王都は華やかだが、息苦しい。

ここは違う。

静かで、広くて、自由だ。

馬車はゆっくりと城門へ近づく。

すると。

城門の前に大勢の人が並んでいるのが見えた。

領民たちだった。

農民、商人、職人、兵士。

皆が整列している。

「……あら?」

私は驚いた。

「どうしたのかしら」

アルフレッドは少し微笑んだ。

「歓迎でございます」

馬車が止まる。

御者が扉を開けた。

私はゆっくりと降りる。

その瞬間。

「お帰りなさいませ!!」

声が響いた。

領民たちが一斉に頭を下げる。

私は少し驚いた。

こんなに大勢集まるとは思っていなかった。

人々の間から、一人の老人が前へ出る。

白い髭の老騎士だった。

「お久しぶりでございます」

「ベルク団長」

私は嬉しくなった。

ベルクはクレスト家の騎士団長で、幼い頃から知っている。

彼は深く頭を下げた。

「お待ちしておりました」

「皆、楽しみにしておりました」

私は周囲を見る。

領民たちは本当に嬉しそうだった。

「そんな……」

私は少し困った。

「私はただ帰ってきただけですわ」

すると農民の一人が言った。

「それでもです」

「お嬢様が戻ってきてくださると聞いて」

「皆、安心しました」

別の商人も言う。

「王都の話は聞きました」

「大変でしたね」

私は苦笑する。

「もう終わったことです」

ベルク団長が言った。

「ですが」

「これで領地は安泰です」

「え?」

「お嬢様が戻ってこられたのですから」

私は少し首をかしげた。

「そんなに変わります?」

ベルクは力強く頷く。

「変わります」

「王都の貴族は知らないでしょうが」

彼は真剣な顔で言った。

「この領地を立て直したのは、お嬢様です」

私は思わず笑ってしまった。

「昔の話ですわ」

数年前。

北方は大不作で困っていた。

私は新しい農法を導入した。

それだけのことだ。

だが領民たちは覚えていたらしい。

「今年の麦も豊作です!」

「ワイン畑も広がりました!」

「港の建設も順調です!」

次々に声が上がる。

私は少し照れてしまった。

「皆さんのおかげです」

その時だった。

遠くから馬の音が聞こえる。

振り向くと、騎士団が近づいてくる。

狼の紋章。

ディルハルト辺境伯の騎士団だ。

先頭にいるのは――

アシュレイだった。

彼は馬を降りて歩いてくる。

ベルク団長が驚く。

「辺境伯閣下!」

アシュレイは軽く頷いた。

「護衛任務です」

私は彼に言う。

「ここまでで十分ですわ」

「領地に入りましたもの」

アシュレイは静かに答える。

「念のためです」

「北方は広い」

私は少し笑う。

「確かに」

彼は城を見上げた。

「立派な城だ」

「古いですが」

私は肩をすくめる。

「それでも気に入っています」

アシュレイは私を見る。

その視線は相変わらず鋭い。

「王都に未練は?」

突然の質問だった。

私は少し考える。

そして答える。

「ありません」

即答だった。

アシュレイは少し驚いたようだった。

「本当に?」

「ええ」

私は城の方を見る。

領民たち。

騎士団。

広い大地。

「ここが私の居場所ですから」

アシュレイはしばらく黙っていた。

やがて小さく言う。

「なるほど」

「王太子は」

「本当に愚かだ」

私は笑った。

「そうかもしれません」

風が吹く。

北の冷たい風。

だが不思議と心地よかった。

私は城へ向かって歩き出す。

「さあ」

「仕事を始めましょう」

クレスト公爵領。

ここから新しい物語が始まるのだから。
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