二世代の伝説の歌姫 〜ラストナンバーは終わらない〜

ふわふわ

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第2章‑4:プロジェクト始動

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第2章‑4:プロジェクト始動

 契約書に捺印されたインクがまだ乾かないまま、Cobalt Sound本社のプロジェクトルームに異例の熱気が満ちていた。戸川浩一はメインディスプレイに大きく映し出されたスケジュール表を指し示しながら、関係者を見渡す。

「さて、ここからは本格的に動いていきます。Yuuとしてのメジャーデビューは、この企画の成否にかかっています。まずは、90秒全国同時CMの放映日までに――」

 矢継ぎ早に飛び交う指示に、音楽ディレクター、クリエイティブディレクター、広告担当、そして当麻明と佐々木泉の姿もあった。いずれも業界の精鋭たちだが、その中で最も緊張感に包まれているのは、もちろん契約を交わしたばかりの“歌姫”白河優(Yuu)その人だった。

「企画の流れを整理します」
 プロデューサー室と直結した小会議室で、戸川が改めてプロジェクト全体像を説明する。

> 1. 楽曲最終マスタリング(1週間)


2. 90秒CM制作(企画案・絵コンテ制作:3日/撮影:2日/編集:4日)


3. メディアミックス・プランニング(ラジオPR/SNSキャンペーン/配信予約設定)


4. 全国民放キー局同時放送(放映日時:4月30日 22:00)


5. CM後の反響分析と追加プロモーション(緊急対応チーム編成)





 当麻明はメモを取りながらも、泉とさりげなく目を合わせ、「本当に間に合うのか?」と囁く。泉は小さく頷き返しながらも、優に気づかれないよう口元で「大丈夫」と励ます。

 「まず、楽曲の最終マスタリングチームはAスタジオに移動します。今日の夜から徹夜で仕上げを開始。明日にはマスタリング完了の予定です」
 音楽ディレクターが前に進み出て報告する。

 「その間に、CM制作チームは絵コンテの詰めを行います。Yuuさんには、ナレーション原稿の確認と、実際のCM映像で使用する“歌部分”のレコーディングをお願いしたい」
 クリエイティブディレクターがテーブル上の資料を指差す。

 優は前髪をかき上げ、か細く頷いた。マスク越しでもわかる緊張の色だが、彼女はプロとしての覚悟を胸に刻み込んでいる。

「ナレーション?  私、あの……声だけでいいですか?」
 優が恐る恐る尋ねる。

「もちろんです。台詞は最小限に抑え、あなたの歌声こそが主役です。ナレーションは裏声のように、短く流れるコールのみで構いません」
 戸川が温かく微笑む。その言葉に、優はほっと息をついた。

 「次に、撮影日程ですが、四月二十一日と二十二日の二日間、都内某所のスタジオで収録を行います。衣装はシンプルなモノトーンで、歌唱シーン以外は一切顔を出さない演出を徹底します」
 制作マネージャーがアジェンダを読み上げるたびに、会議室の空気が引き締まる。

 「そして、SNSキャンペーンでは“第一声はいつ流れる?”というティーザーを配信します。予告映像は5秒、音のみの仕様で、ファンが一斉にTwitterで盛り上がる仕掛けを用意しました」
 広告担当が画面に切り替え、サンプル投稿案を提示する。

 「肝は、放映直前の“歌声だけ”ツイートです。22:00の1分前から一斉に“#今夜はYuu”でカウントダウン。秒読み開始と同時にサーバー連携で動画サイトに誘導します」
 関係者からは「面白い」「これはバズる」と好評の声が上がった。

 「最後に、放映直後は緊急対応チームを編成します。予想以上の反響を逃さず、公式SNSアカウントとメディア窓口を即時稼働させる。そのため、深夜枠にも担当が待機します」
 戸川がプロジェクションを指さしながら総括した。

 会議が終わると、緊張と興奮が交錯する中、外では空がみるみる暗くなっていった。
 優は深呼吸をし、二人の支えを胸に刻む。

「――頑張ろうね」
 当麻明がそっと優に囁く。

「うん、歌声だけで、すべてを――」
 優は小さく言いかけ、視線を前に向けた。
 四月三十日の夜、日本中のテレビで彼女の歌声が流れるその瞬間まで、
 運命を懸けたプロジェクトは動き続ける。

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