異世界に突如召喚された、ごく普通の日本人女子――雪月風花(せつげつふうか)。 黒髪というだけで「聖女様!」と崇められ、魔物も災厄もすべて彼女

ふわふわ

文字の大きさ
4 / 20

第1章-4:聖女失格の烙印と、追放通告

しおりを挟む
第1章-4:聖女失格の烙印と、追放通告

 

「……やはり、“偽聖女”だったのだな」

 

国王グラディウスの言葉は、広い謁見の間に冷たく響き渡った。

 

雪月風花は、静かに視線を落としながら拳を握りしめた。否定も抗議も、もうしたくなかった。だって、この世界は“自分に都合のいいもの”しか見ようとしない。何度否定しても、それが届くことはなかった。

 

「魔力ゼロ、治癒能力ゼロ、聖印反応なし。もはや疑う余地はあるまい。黒髪であることのみが唯一の根拠であったが、それも先入観にすぎなかったのだ」

 

神官長が冷静な口調で語り、廷臣たちはざわめきもしない。ただ静かに、風花の価値を見限った目で見ていた。

 

「……偽聖女、か」

 

ぽつりと誰かがそう呟いたのが聞こえた瞬間、風花の中で何かがプツンと切れた。

 

「――偽聖女って、なに?」

 

その声は震えていた。けれど怒りで、それを押しとどめることはできなかった。

 

「最初から違うって言ってたよね!? 私、何度も“力なんてありません”って、言ったよね!? “私、ただの高校生なんです”って、ちゃんと説明したよね!? それなのに勝手に持ち上げて、“聖女様”“救世の乙女”って騒いで――それで、違うってわかった途端、“偽聖女”!? なにそれ、どういう理屈!?」

 

謁見の間に、沈黙が走る。誰もが、風花の怒りを予想していなかったのだ。

 

「“違う”って言った! 何度も、何度も言ったのに! 信じようとしなかったのは、あなたたちでしょ!?」

 

それは爆発だった。あまりに静かで、あまりに従順だった少女が、ようやく感情をあらわにした瞬間だった。

 

王も神官も、誰も言葉を返せなかった。自分たちの非を認める気などない彼らにとって、“偽聖女”という言葉は“責任転嫁”そのものだった。

 

「余は貴様に時間と資源を割いた。無駄だったとわかった以上、それを取り戻す必要がある」

 

国王が言い放つ。いつの間にかそれが“彼らの正義”になっていた。

 

風花は静かに言った。

 

「わかってます。だから、追放でも何でも、どうぞ。こっちだって、あなたたちと関わってると疲れるんで」

 

静かに、しかしはっきりと宣告された追放。
これで終わりなのだと、風花は思った。

 

――けれど、そのときだった。

 

「……君は、本当に、何もできないのか?」

 

その声だけは、優しかった。レオンハルト。騎士団長。彼だけが最初から「聖女様」とは呼ばなかった。ずっと“君”と呼んでくれた。

 

「何度言えばわかるの? 私は“聖女”なんかじゃない。ただの女子高生。特別な力なんて何一つない。掃除、洗濯、料理が得意なだけの、女子力高めの庶民ですよ」

 

「……女子力、か」

 

「バカにしてるでしょ?」

 

「いや。むしろ、そういう力こそ、この国にはなかったものだ」

 

レオンの目は冗談ではなかった。だからこそ、風花は思わず目をそらしてしまった。

 

「……変な人」

 

そう呟いたのは、自分のほうだというのに。

 

 

* * *

 

翌朝、まだ霧が立ち込める時間。王都の裏門には馬と、風花の小さな荷物袋が一つ。

 

宿も、食堂も、侍女たちの笑顔も――昨日すべて消えた。
今日からは、“追放された異世界人”。モブ中のモブ。

 

「……はぁ、普通の暮らしに戻れると思えば、気は楽だけど……」

 

そこに聞こえてきた蹄の音。現れたのは、やっぱりレオンだった。

 

「来てくれたんだ」

 

「護衛を命じられた。……いや、自分で志願した」

 

「……ありがと。女子力で護られる自信はなかったから」

 

風花は馬にまたがり、霧の中の道へと目を向けた。

 

その向こうに広がるのは、どんな未来だろう。
だけど、あの場所よりは、きっと呼吸しやすい。

 

そして彼女は、心のなかでそっと言った。

 

――さようなら、“偽聖女”。
――こんにちは、“ただの私”。

 



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

【完結】竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました

七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。  「お前は俺のものだろ?」  次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー! ※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。 ※全60話程度で完結の予定です。 ※いいね&お気に入り登録励みになります!

やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。 そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。 幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。 そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――? 「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」 鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。 精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。

裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです

ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?

引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~

浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。 御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。 「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」 自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。 だが彼に溺愛され家は再興。 見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。

勇者の婿取り~強面女性騎士と報奨の王子~

小西あまね
恋愛
国王が布告を出した。強大な魔物を倒した勇者に王女を与える-- クレシュは顔に大きな傷がある頑健な強面騎士。魔物討伐は職務を果たしただけだったのに、勇者として思わぬ報奨を得てしまい困惑する。 「……うちに美人がいるんです」 「知ってる。羨ましいな!」 上司にもからかわれる始末。 --クレシュが女性であったために、王女の代わりに王子ヴェルディーンを婿に与えられたのだ。 彼も彼なりに事情があり結婚に前向きで…。 勇猛果敢で生真面目な27歳強面女性騎士と、穏やかだが芯の強い美貌の24歳王子。 政争やら悪者退治やら意外と上手くいっている凸凹夫婦やらの話。 嫉妬や当て馬展開はありません。 戦闘シーンがあるので一応残酷な描写ありタグを付けますが、表現は極力残酷さを抑えた全年齢です。 全18話、予約投稿済みです。 当作品は小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...