『婚約破棄されたので玉座から降りました。――理で王国をざまあします

ふわふわ

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第十二話 信用という名の王冠

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第十二話 信用という名の王冠

 再建区画の石壁が、再び積み上げられ始めた。

 止まっていた槌の音が戻り、足場に人影が増える。職人たちの動きは慎重だが、確実だ。賃金は支払われ、資材は届く。

 王都は、表面上は安定を取り戻しつつあった。

 だが、私は報告書を閉じながら、小さく首を振る。

「回復ではなく、延命ですわね」

 執事クラウスが静かに応じる。

「はい。信用はまだ戻っておりません」

 市場価格は落ち着いた。港湾収入も持ち直している。

 だが、王立銀行の債券応募率は低いまま。利率は高止まり。

 商人は数字を見る。

 数字は、王太子の判断力に疑問符をつけたままだ。

「評議会の議事録は?」

「軍需拡張案、再び否決」

「当然ですわ」

 私は立ち上がり、窓の外を見る。

 王宮の塔が、青空に伸びている。

 王冠は金でできている。

 だが、その重さは信用で決まる。

 一方、王宮。

 財務評議会の二度目の会合が終わったばかりだった。

「港湾収益は回復傾向。しかし、債券応募率は依然低調」

 ガレインが報告する。

「理由は?」

 国王が問う。

「市場が、王太子殿下の将来的な財政方針を不安視しております」

 レオニードの表情が硬くなる。

「不安視、だと?」

「はい。制度が整っても、信用は即座には戻りません」

 その言葉は、刃のように鋭い。

「ならばどうすればよい」

 王の声は冷静だ。

「実績を積むしかありません」

 ガレインは続ける。

「三ヶ月間、安定運営を維持。突発的支出なし。合議を遵守」

 沈黙。

 それは、王太子にとって屈辱だった。

「私は……監視されているのか」

「監視ではございません。信頼回復の過程です」

 だが、その過程こそが、彼の誇りを削る。

 夜。

 ミレーヌは庭園で、月を見上げていた。

「殿下は、辛そうです」

 侍女が答える。

「王太子は重い立場ですから」

「わたくしに、何かできることは……」

 だが、彼女の“できること”は、慰めることだけ。

 王国の帳簿を黒に戻す術は持たない。

 一方、ヴァルテール公爵邸。

 私は新たな計画書に目を通していた。

「教育基金設立、準備完了」

「講師候補、三名確保」

「初年度予算、問題なし」

 クラウスが淡々と報告する。

「王妃教育機関の名称は?」

「まだ未定ですわ」

 私はペンを置く。

「王妃とは、王の隣に立つ者。感情と理の両立を学ぶ場に」

「王家は承認しますでしょうか」

「拒否すれば、信用がさらに落ちます」

 制度に反対することは、自らの未熟を認めること。

 それを王家は理解している。

 扉が叩かれる。

「シリウス公爵です」

 彼は書類を一瞥し、静かに言う。

「王太子は揺れている」

「揺れるのは自然です」

「だが、揺れ続ければ折れる」

 その言葉は冷たい。

「折れては困ります」

「困る?」

「王国はまだ必要ですわ」

 私は彼を見つめる。

「壊すのは簡単。立て直すのは難しい」

「君は本当に王国を守る気か」

「守るべきは、均衡です」

 彼は一瞬、黙る。

「王太子を完全に沈める道もあった」

「ええ」

「選ばなかった理由は」

「信用は一度壊れると、戻りませんもの」

 彼は小さく笑った。

「徹底しているな」

「理は徹底しなければ意味がありません」

 王宮。

 レオニードはひとり、書斎で報告書を読んでいた。

 赤字は減った。

 だが、商会の注釈欄にはこう書かれている。

『安定確認後、追加投資検討』

 確認後。

 信用は、まだ仮の状態。

「私は……」

 小さく呟く。

 王太子でありながら、証明を求められている。

 それが、いまの現実。

 翌朝。

 王都に新たな掲示が出た。

『王妃教育機関設立準備委員会発足』

 ざわめきが広がる。

「誰が主導だ?」

「ヴァルテール公爵家らしい」

「王太子妃は……」

 名前は出ない。

 空白のまま。

 私はその報告を受け、静かに微笑む。

 信用という王冠は、金では作れない。

 実績で編まれる。

 王太子がそれを理解するまで、時間は必要だ。

 そしてその間、私は制度を整える。

 玉座の隣は、まだ空いている。

 だが、空白は力を持つ。

 誰がその王冠を被るのか。

 答えは、まだ先だ。
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