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第20話: 姉の再会
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第20話: 姉の再会
辺境の領地に、冬の足音が近づいていた。
薬草園には霜よけのシートがかけられ、屋敷の暖炉にはいつも火が灯っている。
エルカミーノはラクティスと並んで、新しい温室の設計図を眺めていた。
「ここに魔力結界を張れば、冬でも月光花が育つわ」
「君の言う通りだ。材料はすべてエルドラントから取り寄せる」
二人が微笑み合う中、村の入り口で馬車の音がした。
今日はリンデル家の紋章が入った豪華な馬車。
扉が開くと、プラチナブロンドの美しい令嬢――ヴィオラが降りてきた。
厚手のマントを羽織り、顔は少し青ざめているが、目は決意に満ちていた。
エルカミーノが驚いて駆け寄る。
「姉上!? どうしてこんなところに……」
ヴィオラは妹を抱きしめ、声を震わせた。
「エルカミーノ……会いたかった。本当に、ごめんなさい」
二人は屋敷の応接間へ通された。
ラクティスは少し離れた椅子に座り、静かに様子を見守っている。
セシルがお茶を運び、緊張した空気を和らげようと笑顔を振りまく。
ヴィオラはカップを両手で包み、ゆっくりと口を開いた。
「王都の魔瘴病は、あなたの薬のおかげでほぼ収まったわ。
父上も母上も回復して……みんな、あなたに感謝してる」
エルカミーノは静かに首を振った。
「私はただ、苦しむ人を助けたかっただけです」
ヴィオラの目から涙がこぼれた。
「それなのに、私たちはあなたを追放して……
あの時、もっと強く反対していれば。
あなたが婚約破棄された時、私、世間体ばかり気にして冷たくして……本当にごめんなさい」
エルカミーノは姉の手を取り、優しく握った。
「もういいんです、姉上。
私はここで、幸せに暮らしています。
薬草園も村も、みんなが笑顔で……それが私の望みでした」
ヴィオラは妹の落ち着いた笑顔を見て、ようやく安堵の息を吐いた。
「……あなた、本当に強くなったわね」
その時、ラクティスが静かに立ち上がり、ヴィオラに向き直った。
「ヴィオラ・フォン・リンデル嬢。
エルカミーノは、もう貴女たちの家族だけのものではない」
突然の言葉に、ヴィオラが目を丸くする。
ラクティスはエルカミーノの隣に立ち、彼女の肩にそっと手を置いた。
「彼女は私の国へ移る。
僕が一生、守る。
もう、アルディアの過去に縛られる必要はない」
独占欲と溺愛がはっきりとした声。
ヴィオラは一瞬言葉を失ったが、すぐにラクティスの瞳の真剣さに気づいた。
「……あなたが、噂のラクティス公爵ですね。
大陸最強の魔導公爵が、妹にこんなに……」
ヴィオラは立ち上がり、深々と頭を下げた。
「どうか、エルカミーノを幸せにしてください。
私たち家族は、もう彼女を傷つける資格はありません」
エルカミーノが慌てて姉を止める。
「姉上、そんな……」
ヴィオラは微笑み、妹の頰に手を添えた。
「いいの。あなたが幸せなら、それでいい。
……時々、手紙だけでもくださいね」
二人は再び抱き合い、長い間離れなかった。
夕方、ヴィオラの馬車が見送られた後。
エルカミーノはテラスで、ラクティスに寄りかかっていた。
「姉上とちゃんと話せて、よかった……
ありがとう、公爵殿下。私を守ってくれて」
ラクティスは彼女を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「ラクティスでいい。
もう、君のすべては僕のものだ」
エルカミーノは頰を赤らめ、小さく頷いた。
「うん……ラクティス」
暖炉の火がぱちぱちと音を立て、
二人の影を優しく揺らしていた。
家族との和解を得て、
エルカミーノの心は、完全に新しい未来へと向かっていた。
辺境の領地に、冬の足音が近づいていた。
薬草園には霜よけのシートがかけられ、屋敷の暖炉にはいつも火が灯っている。
エルカミーノはラクティスと並んで、新しい温室の設計図を眺めていた。
「ここに魔力結界を張れば、冬でも月光花が育つわ」
「君の言う通りだ。材料はすべてエルドラントから取り寄せる」
二人が微笑み合う中、村の入り口で馬車の音がした。
今日はリンデル家の紋章が入った豪華な馬車。
扉が開くと、プラチナブロンドの美しい令嬢――ヴィオラが降りてきた。
厚手のマントを羽織り、顔は少し青ざめているが、目は決意に満ちていた。
エルカミーノが驚いて駆け寄る。
「姉上!? どうしてこんなところに……」
ヴィオラは妹を抱きしめ、声を震わせた。
「エルカミーノ……会いたかった。本当に、ごめんなさい」
二人は屋敷の応接間へ通された。
ラクティスは少し離れた椅子に座り、静かに様子を見守っている。
セシルがお茶を運び、緊張した空気を和らげようと笑顔を振りまく。
ヴィオラはカップを両手で包み、ゆっくりと口を開いた。
「王都の魔瘴病は、あなたの薬のおかげでほぼ収まったわ。
父上も母上も回復して……みんな、あなたに感謝してる」
エルカミーノは静かに首を振った。
「私はただ、苦しむ人を助けたかっただけです」
ヴィオラの目から涙がこぼれた。
「それなのに、私たちはあなたを追放して……
あの時、もっと強く反対していれば。
あなたが婚約破棄された時、私、世間体ばかり気にして冷たくして……本当にごめんなさい」
エルカミーノは姉の手を取り、優しく握った。
「もういいんです、姉上。
私はここで、幸せに暮らしています。
薬草園も村も、みんなが笑顔で……それが私の望みでした」
ヴィオラは妹の落ち着いた笑顔を見て、ようやく安堵の息を吐いた。
「……あなた、本当に強くなったわね」
その時、ラクティスが静かに立ち上がり、ヴィオラに向き直った。
「ヴィオラ・フォン・リンデル嬢。
エルカミーノは、もう貴女たちの家族だけのものではない」
突然の言葉に、ヴィオラが目を丸くする。
ラクティスはエルカミーノの隣に立ち、彼女の肩にそっと手を置いた。
「彼女は私の国へ移る。
僕が一生、守る。
もう、アルディアの過去に縛られる必要はない」
独占欲と溺愛がはっきりとした声。
ヴィオラは一瞬言葉を失ったが、すぐにラクティスの瞳の真剣さに気づいた。
「……あなたが、噂のラクティス公爵ですね。
大陸最強の魔導公爵が、妹にこんなに……」
ヴィオラは立ち上がり、深々と頭を下げた。
「どうか、エルカミーノを幸せにしてください。
私たち家族は、もう彼女を傷つける資格はありません」
エルカミーノが慌てて姉を止める。
「姉上、そんな……」
ヴィオラは微笑み、妹の頰に手を添えた。
「いいの。あなたが幸せなら、それでいい。
……時々、手紙だけでもくださいね」
二人は再び抱き合い、長い間離れなかった。
夕方、ヴィオラの馬車が見送られた後。
エルカミーノはテラスで、ラクティスに寄りかかっていた。
「姉上とちゃんと話せて、よかった……
ありがとう、公爵殿下。私を守ってくれて」
ラクティスは彼女を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「ラクティスでいい。
もう、君のすべては僕のものだ」
エルカミーノは頰を赤らめ、小さく頷いた。
「うん……ラクティス」
暖炉の火がぱちぱちと音を立て、
二人の影を優しく揺らしていた。
家族との和解を得て、
エルカミーノの心は、完全に新しい未来へと向かっていた。
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