婚約破棄? それより南方貿易が忙しいのですが

ふわふわ

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第十三話 市場崩落

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第十三話 市場崩落

三日目の朝。

王都の鐘は、いつも通りに鳴った。
だが響きは軽い。
重みがない。

金融街では、鐘が鳴る前から人が溢れていた。

王家証券の掲示板。
赤い数字が並ぶ。

「売りが止まらない!」

「引き受け手がいない!」

「王家債が暴落だ!」

怒号が飛び交う。

商人連合の代表は、青ざめた顔で帳簿を閉じた。

「南方の信用保証が消えた瞬間、資金が引いた」

当然だ。

保証は盾だった。
盾が外れれば、刃はそのまま届く。

王城の中は、まだ静けさを保っている。

だが報告は、容赦なく運ばれる。

「王家証券、半値を割りました」

財務卿の声は、掠れている。

玉座の間。

王太子ディルクは机に拳を叩きつけた。

「買い支えろ!」

「資金が……」

「国庫を使え!」

「国庫は、外債返済準備金が……」

彼は睨みつける。

「俺は王になる男だぞ!」

言葉は大きい。
だが市場は肩書きで動かない。

信用で動く。

「南方連合より通達が」

使者が跪く。

「期限内に担保提示なき場合、即時償還請求を実施」

即時償還。

重い言葉。

財務卿が小さく呻く。

「今の相場では、即時返済は不可能にございます」

「拒否だ」

王太子は即答する。

「拒否は契約違反」

私が静かに言う。

彼は振り向く。

「蛮族の契約だ」

「王家の署名にございます」

言葉は冷たい。

だが事実。

「俺は知らん」

彼は吐き捨てる。

「知らぬで済む問題ではございません」

市場は知っている。

商人は知っている。

各国大使は知っている。

「貴族を集めろ」

彼は命じる。

「資金を出させろ」

だが貴族たちは動かない。

昨日の発言は消えない。

「手足」

その言葉は広がっている。

貴族は王族の道具ではない。

道具は、使い捨てられる前に距離を取る。

「裏切り者ども」

彼は吐き捨てる。

裏切りではない。

計算だ。

損を避ける。

合理。

「ハーレイ」

彼は低く呼ぶ。

「お前なら、どうする」

初めての問い。

私は答える。

「謝罪し、交易を再開し、保証を再構築いたします」

簡潔に。

「誇りは」

「誇りは、国が存続してこそ意味を持ちます」

沈黙。

彼の拳は震えている。

だが謝罪は出ない。

「俺は屈しない」

繰り返し。

祈りのように。

「承知いたしました」

私は一礼する。

外へ出る。

王都の空気は重い。

市場では破産の噂が広がる。

砂糖商が店を閉めた。

薬草商が価格を倍にした。

兵糧商が納入を見直し始めた。

連鎖。

信用は連鎖する。

崩壊も。

港は空だ。

南方船は戻らない。

金融街では、商人が帳簿を抱えて座り込む。

「王家債が紙切れだ」

誰かが呟く。

紙切れ。

昨日まで金と同じ価値を持っていた。

今日、ただの紙。

王城の塔の上から王都を見下ろす。

静かだ。

だが足元は揺れている。

市場崩落。

これは始まりに過ぎない。

即時償還が発動すれば、王家は支払い不能。

支払い不能は、王権の失墜。

私は目を閉じる。

「選ばれました」

殿下。

あなたが。

侮辱を選び、孤立を選び、拒絶を選んだ。

市場は感情を持たない。

ただ計算する。

契約違反。

保証喪失。

信用低下。

結果。

鐘が再び鳴る。

昼の鐘。

だが誰も昼食を楽しんではいない。

甘い香りは消えた。

砂糖も香料も。

信用も。

玉座の間では、まだ彼が叫んでいる。

「買い支えろ!」

だが支えは、既に失われた。

私は塔を降りる。

静かに。

嵐はまだ序章。

本当の清算は、これから始まる。
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