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第1話 「突然の婚約破棄宣告」
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第1話 「突然の婚約破棄宣告」
王城の大広間は、初夏の日差しが射しこみ、磨き上げられた床に光が揺れていた。
けれどその眩しさは、エテルナ・フェリシールの胸に落ちた影を晴らすことはできなかった。
「エテルナ・フェリシール。お前との婚約を、今日限りで破棄する」
玉座の前で、王太子アレクシオンが高らかに言い放った。
周囲にいた貴族たちが、驚きと興奮でざわめき立つ。
(……やっぱり。とうとう来たのね)
エテルナの胸は、不思議と静かだった。
恐れも、怒りも、屈辱さえも湧かない。
ただ、長く重かった鎖が外れる音が、静かに響いたように思えた。
だが表情には出さない。
ここは王宮。彼の面子を潰せば、もっと酷い未来が待っている。
「……理由をお聞かせ願えますか、殿下」
エテルナは礼儀正しく問いかけた。
その声音に怯えも取り乱しもないことが、一部の貴族の眉をひそめさせる。
アレクシオンは、隣に立つ少女の肩を抱き寄せた。
「お前は“完璧すぎて可愛げがない”。王太子妃に必要なのは、守りたくなる愛らしさだ。リーザのようにな」
リーザ・フェルサは、アレクシオンの腕にしなだれながら、小さく震えて見せる。
「殿下……わ、わたしのためにそこまで……?」
涙を浮かべる芝居がかった仕草。
貴族たちは「なんと純粋な娘だ」と好意的に見守る。
(……本当に、こんな理由で?)
エテルナの内心で小さくため息が落ちる。
彼女は幼いころから礼儀作法、魔法学、政治学を叩き込まれてきた。
“王太子妃として恥をかかないために”。
それもすべてアレクシオンのためだった。
けれど彼は、その努力を“可愛げがない”の一言で切り捨てた。
エテルナは静かに頭を下げる。
「……殿下のお気持ちは理解いたしました。長年婚約者としてお仕えできたこと、光栄に思います」
その瞬間、周囲の視線が刺すように向けられた。
「なぜ泣かない?」
「失望の色も見せぬとは……やはり冷たい娘だったか」
「リーザ様の方がよほど妃に相応しい!」
ざわめきは高まり、アレクシオンは満足げに微笑んだ。
「エテルナ、お前は明朝をもって城を去れ。……ああ、それと」
彼はさらりと言った。
「国外追放だ。もうこの国に戻ることは許さない」
その言葉に、広間の空気が凍りつく。
だが。
(ああ……ようやく、解放されるのね)
エテルナの胸は、ほんのわずかに軽くなった。
笑いそうになるのを、必死に堪えるほどに。
王太子妃教育に縛られ、息をひそめるだけの日々。
家族から「役立たず」と言われ続けた人生。
彼女の世界は狭く、灰色だった。
“国外追放”。
それは、エテルナにとって初めて与えられた“自由への道”だった。
しかし、彼女の感情など誰も気づかない。
アレクシオンはリーザの肩を抱いたまま、勝ち誇ったように言った。
「エテルナ。お前の代わりはいくらでもいる。だがリーザのような純真で愛らしい娘は二度と現れまい」
エテルナは静かに顔を上げる。
そして、微笑んだ。
「――そうですね、殿下。二度と現れないでしょう」
アレクシオンは一瞬、きょとんとした表情になった。
その微笑みに、なぜか“勝者の余裕”を感じ取れなかったからだ。
リーザがくいっと彼の袖を引く。
「殿下……この人、なんだか余裕ぶってません……?」
「気のせいだろう」
アレクシオンは笑ってみせた。
だが、ほんの少しだけ苛立ちが混ざっていた。
エテルナは深く一礼する。
「これまでありがとうございました。どうか末永くお幸せに」
その言葉には、皮肉も恨みもない。
ただ、ようやく重荷が外れた人間の、晴れやかな解放感だけが宿っていた。
(……さようなら、私の灰色の日々)
その微笑みの裏にある真意に気づいた者は、誰一人いなかった。
エテルナは静かに大広間を後にする。
まだ知らない。
この“追放”が、彼女を待ち受ける運命を大きく変えることになることを――
そして、隣国で出会う一人の男が、彼女の世界を鮮やかに塗り替えることを。
王城の大広間は、初夏の日差しが射しこみ、磨き上げられた床に光が揺れていた。
けれどその眩しさは、エテルナ・フェリシールの胸に落ちた影を晴らすことはできなかった。
「エテルナ・フェリシール。お前との婚約を、今日限りで破棄する」
玉座の前で、王太子アレクシオンが高らかに言い放った。
周囲にいた貴族たちが、驚きと興奮でざわめき立つ。
(……やっぱり。とうとう来たのね)
エテルナの胸は、不思議と静かだった。
恐れも、怒りも、屈辱さえも湧かない。
ただ、長く重かった鎖が外れる音が、静かに響いたように思えた。
だが表情には出さない。
ここは王宮。彼の面子を潰せば、もっと酷い未来が待っている。
「……理由をお聞かせ願えますか、殿下」
エテルナは礼儀正しく問いかけた。
その声音に怯えも取り乱しもないことが、一部の貴族の眉をひそめさせる。
アレクシオンは、隣に立つ少女の肩を抱き寄せた。
「お前は“完璧すぎて可愛げがない”。王太子妃に必要なのは、守りたくなる愛らしさだ。リーザのようにな」
リーザ・フェルサは、アレクシオンの腕にしなだれながら、小さく震えて見せる。
「殿下……わ、わたしのためにそこまで……?」
涙を浮かべる芝居がかった仕草。
貴族たちは「なんと純粋な娘だ」と好意的に見守る。
(……本当に、こんな理由で?)
エテルナの内心で小さくため息が落ちる。
彼女は幼いころから礼儀作法、魔法学、政治学を叩き込まれてきた。
“王太子妃として恥をかかないために”。
それもすべてアレクシオンのためだった。
けれど彼は、その努力を“可愛げがない”の一言で切り捨てた。
エテルナは静かに頭を下げる。
「……殿下のお気持ちは理解いたしました。長年婚約者としてお仕えできたこと、光栄に思います」
その瞬間、周囲の視線が刺すように向けられた。
「なぜ泣かない?」
「失望の色も見せぬとは……やはり冷たい娘だったか」
「リーザ様の方がよほど妃に相応しい!」
ざわめきは高まり、アレクシオンは満足げに微笑んだ。
「エテルナ、お前は明朝をもって城を去れ。……ああ、それと」
彼はさらりと言った。
「国外追放だ。もうこの国に戻ることは許さない」
その言葉に、広間の空気が凍りつく。
だが。
(ああ……ようやく、解放されるのね)
エテルナの胸は、ほんのわずかに軽くなった。
笑いそうになるのを、必死に堪えるほどに。
王太子妃教育に縛られ、息をひそめるだけの日々。
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彼女の世界は狭く、灰色だった。
“国外追放”。
それは、エテルナにとって初めて与えられた“自由への道”だった。
しかし、彼女の感情など誰も気づかない。
アレクシオンはリーザの肩を抱いたまま、勝ち誇ったように言った。
「エテルナ。お前の代わりはいくらでもいる。だがリーザのような純真で愛らしい娘は二度と現れまい」
エテルナは静かに顔を上げる。
そして、微笑んだ。
「――そうですね、殿下。二度と現れないでしょう」
アレクシオンは一瞬、きょとんとした表情になった。
その微笑みに、なぜか“勝者の余裕”を感じ取れなかったからだ。
リーザがくいっと彼の袖を引く。
「殿下……この人、なんだか余裕ぶってません……?」
「気のせいだろう」
アレクシオンは笑ってみせた。
だが、ほんの少しだけ苛立ちが混ざっていた。
エテルナは深く一礼する。
「これまでありがとうございました。どうか末永くお幸せに」
その言葉には、皮肉も恨みもない。
ただ、ようやく重荷が外れた人間の、晴れやかな解放感だけが宿っていた。
(……さようなら、私の灰色の日々)
その微笑みの裏にある真意に気づいた者は、誰一人いなかった。
エテルナは静かに大広間を後にする。
まだ知らない。
この“追放”が、彼女を待ち受ける運命を大きく変えることになることを――
そして、隣国で出会う一人の男が、彼女の世界を鮮やかに塗り替えることを。
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