華やかな異世界公爵令嬢?――と思ったら地味で前世と変わらないブラックでした。 ~忠誠より確かな契約で異世界働き方改革ですわ~』

ふわふわ

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第三十七話 均衡が崩れる時、誰が責任を負いますの

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第三十七話 均衡が崩れる時、誰が責任を負いますの

 秤は、公正である限り機能する。

 だが――秤を持つ者が誤れば。

 王家保証制度が定着し、能力係数も運用に乗り始めた頃。

 事件は起きた。

「王家保証局の若手監査官が、賄賂を受け取っていた疑いがございます」

 カイルの報告は、静かだった。

 だが重い。

「確証は?」

「証言が二件。帳簿の不自然な修正も」

 胸の奥が冷える。

 保証局は秤。

 秤が歪めば、すべてが崩れる。

「即時調査を」

「公表は?」

「隠しません」

 王宮会議。

 殿下の表情は険しい。

「内部不正か」

「はい」

「保証局設立から、初の重大事案」

 ざわめき。

 連合代表も地方代表も、緊張した面持ちだ。

 監査官は連行された。

 若い。
 優秀と評判だった。

「なぜだ」

 殿下が低く問う。

 監査官は俯いたまま答える。

「圧力を受けました」

「誰から」

「大手商会の一部です」

 室内が凍る。

 連合代表の顔色が変わる。

「証拠はあるのか」

 殿下が問う。

「書簡がございます」

 差し出された封書。

 確かに、口利きの示唆がある。

 連合代表が立ち上がる。

「連合の総意ではない!」

「だが加盟商会だ」

 辺境伯が言う。

 空気が険悪になる。

 わたくしは一歩前へ出た。

「責任は、個人と組織の両方にあります」

「監査官は処罰されます」

「ですが、圧力をかけた側も同様です」

 連合代表は唇を噛む。

「保証局の権限が強すぎるから、狙われたのだ」

「秤は、重いからこそ狙われます」

 静かに返す。

 殿下が立ち上がった。

「保証局の不正を、隠さず公表する」

 会議室がどよめく。

「王家の失点だぞ」

 財務官が低く言う。

「隠せば、もっと大きな失点だ」

 殿下の声は揺れない。

「秤が歪んだなら、正す」

「正せぬなら、廃する」

 沈黙。

 数日後、不正は正式に公表された。

 監査官は免職。
 圧力をかけた商会も制裁。

 王都は騒然とした。

 だが。

 暴動は起きなかった。

「隠さなかった」

 人々がそう言う。

 夜、殿下が言った。

「制度は守れたか」

「はい」

「だが信用は傷ついた」

「傷ついたからこそ、回復できます」

 殿下は静かに笑う。

「貴様は厳しいな」

「甘くすれば崩れます」

 秤は壊れやすい。

 だが壊れたことを認め、直すことができれば。

 それは強くなる。

「均衡が崩れる時、誰が責任を負うのか」

 わたくしは窓の外を見る。

「王家です」

 殿下は頷く。

「逃げぬ」

 その言葉があれば。

 王国は、まだ進める。

 契約は万能ではない。

 秤も完璧ではない。

 だが。

 歪みを認め、正す覚悟がある限り。

 王国の均衡は、保たれますわ。
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