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第6話 父は名門を語り、娘は事実を返す
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第6話 父は名門を語り、娘は事実を返す
実家からの使者が来たのは、夕暮れどきだった。
「公爵閣下がお呼びです」
その言い方で、だいたい分かる。
“家族の相談”じゃない。“決まった話を伝える”呼び出しだ。
応接室に入ると、父――マセラティ公爵は、窓際に立って外を眺めていた。
私が入っても、すぐには振り向かない。
「シャマル」
低い声が、先に来る。
「王宮での振る舞い、聞いている」
「うん」
私は椅子に腰掛けた。
立ったまま話す気はない。
「聖女が、呼び出しを断ったそうだな」
「緊急じゃなかったから」
それだけ答えると、父はゆっくり振り返った。
「……お前は、自分の立場を理解しているのか」
「してるよ。
公爵令嬢で、聖女で――たまたま、そうなっただけ」
父の眉がわずかに動く。
「王国開闢以来、我が家は王家を支え続けてきた。
お前も、その一員だ」
来た。
今日の主題。
「名門の娘として、王太子と力を合わせ、
この国を発展に導く責務がある」
私は、紅茶に手を伸ばした。
一口飲んでから、答える。
「そうは言ってもさ」
父がこちらを見る。
「婚約、破棄してきたのは向こうだよ?」
「それを今さら私に言われてもねえー」
語尾を曖昧にして、話を止める。
はっきり“困る”とは言わない。
ただ、受け取らない。
父は、一瞬言葉に詰まった。
「……それでも、国のためだ」
やっぱり、それか。
「国のため、って」
私は首を傾げた。
「私が我慢する前提で使う言葉じゃないよね?」
父の表情が硬くなる。
「聖女は、国の象徴だ。
個人の都合より優先される」
「象徴なら、なおさら無理」
私は即答した。
「象徴が倒れたら、全部止まるでしょ。
今のやり方、完全に属人化してる」
父は、何も言わない。
反論できないのが、分かっている。
「それに、婚約って協力関係でしょ」
私は続けた。
「片方が一方的に捨てて、
都合が悪くなったら戻すの、協力じゃなくない?」
沈黙が落ちる。
父は、深く息を吐いた。
「……では、お前はどうしたい」
「条件次第」
迷いなく答える。
「再婚約するなら、
王宮常駐なし。呼び出し制。時給制。休日は完全自由」
父は目を閉じた。
「それは、あまりにも――」
「現実的」
私は遮った。
「聖女でも、人だよ」
しばらくして、父は目を開いた。
「……国王陛下は、この話を簡単には受け入れまい」
「知ってる」
「強引に進める可能性もある」
「それなら、その時に断る」
脅しでも反抗でもない。
ただの選択だ。
父は、私をじっと見つめた。
「お前は……変わったな」
私は、少しだけ考えてから答えた。
「変わったんじゃないよ。
今まで、黙ってただけ」
立ち上がり、椅子を引く。
「名門とか、伝統とか、否定しない。
でも、それを理由に私の人生を使うなら、話は別」
扉に手を掛け、振り返る。
「協力はする。
でも、搾取はしない」
父は何も言わなかった。
廊下に出た瞬間、肩の力が抜ける。
「……さて」
私は小さく呟いた。
「次は、王宮側だね」
名門の理屈は出尽くした。
あとは、事実と契約の話をするだけだ。
安定したサブスク生活への道は、
まだ先が長そうだった。
実家からの使者が来たのは、夕暮れどきだった。
「公爵閣下がお呼びです」
その言い方で、だいたい分かる。
“家族の相談”じゃない。“決まった話を伝える”呼び出しだ。
応接室に入ると、父――マセラティ公爵は、窓際に立って外を眺めていた。
私が入っても、すぐには振り向かない。
「シャマル」
低い声が、先に来る。
「王宮での振る舞い、聞いている」
「うん」
私は椅子に腰掛けた。
立ったまま話す気はない。
「聖女が、呼び出しを断ったそうだな」
「緊急じゃなかったから」
それだけ答えると、父はゆっくり振り返った。
「……お前は、自分の立場を理解しているのか」
「してるよ。
公爵令嬢で、聖女で――たまたま、そうなっただけ」
父の眉がわずかに動く。
「王国開闢以来、我が家は王家を支え続けてきた。
お前も、その一員だ」
来た。
今日の主題。
「名門の娘として、王太子と力を合わせ、
この国を発展に導く責務がある」
私は、紅茶に手を伸ばした。
一口飲んでから、答える。
「そうは言ってもさ」
父がこちらを見る。
「婚約、破棄してきたのは向こうだよ?」
「それを今さら私に言われてもねえー」
語尾を曖昧にして、話を止める。
はっきり“困る”とは言わない。
ただ、受け取らない。
父は、一瞬言葉に詰まった。
「……それでも、国のためだ」
やっぱり、それか。
「国のため、って」
私は首を傾げた。
「私が我慢する前提で使う言葉じゃないよね?」
父の表情が硬くなる。
「聖女は、国の象徴だ。
個人の都合より優先される」
「象徴なら、なおさら無理」
私は即答した。
「象徴が倒れたら、全部止まるでしょ。
今のやり方、完全に属人化してる」
父は、何も言わない。
反論できないのが、分かっている。
「それに、婚約って協力関係でしょ」
私は続けた。
「片方が一方的に捨てて、
都合が悪くなったら戻すの、協力じゃなくない?」
沈黙が落ちる。
父は、深く息を吐いた。
「……では、お前はどうしたい」
「条件次第」
迷いなく答える。
「再婚約するなら、
王宮常駐なし。呼び出し制。時給制。休日は完全自由」
父は目を閉じた。
「それは、あまりにも――」
「現実的」
私は遮った。
「聖女でも、人だよ」
しばらくして、父は目を開いた。
「……国王陛下は、この話を簡単には受け入れまい」
「知ってる」
「強引に進める可能性もある」
「それなら、その時に断る」
脅しでも反抗でもない。
ただの選択だ。
父は、私をじっと見つめた。
「お前は……変わったな」
私は、少しだけ考えてから答えた。
「変わったんじゃないよ。
今まで、黙ってただけ」
立ち上がり、椅子を引く。
「名門とか、伝統とか、否定しない。
でも、それを理由に私の人生を使うなら、話は別」
扉に手を掛け、振り返る。
「協力はする。
でも、搾取はしない」
父は何も言わなかった。
廊下に出た瞬間、肩の力が抜ける。
「……さて」
私は小さく呟いた。
「次は、王宮側だね」
名門の理屈は出尽くした。
あとは、事実と契約の話をするだけだ。
安定したサブスク生活への道は、
まだ先が長そうだった。
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