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第18話 熟考と即決
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任務の前日、俺はワッグテールとチェスを打っていた。
特に深い理由はない。ただの遊びだ。
「チェックメイト」
結果は10連敗。ワッグテールには歯も立たなかった。
「ぐあぁ! また負けた。なんでだ? ハクにもクレインにもお前にも、まったくもって勝てない。俺ってひょっとしてバカ?」
「そんなことはない。お前、IQテストでは教室内で3位だったろ。テストでも良い点を取ってるじゃないか。間違いなく、お前の頭の出来は良いよ」
「じゃあなんで勝てないんだろうな」
「思考のタイプがこのゲームと合ってないのさ」
ワッグテールは時計を指さす。
「お前は他の人間に比べて極端に打つスピードが早い」
「そうか?」
「大体3秒から10秒、長くて30秒ってとこだ」
コイツ、良く観察してるな。
「それはお前が『即決タイプ』の思考をしているからだ。即断即決で物事を判断することに長けているが、時間を掛け深く考えることは苦手。逆に俺は『熟考タイプ』。咄嗟の判断に弱いが、時間を掛ければ最適解を出せる。チェスをやる時、俺たちは一手の時間とかは設定していないからな、このゲームは圧倒的に熟考タイプが有利というわけだ」
「あ~。言われてみれば確かに、長考とかあんまりしねぇな」
「一手の時間が無制限である限り、お前には負ける気がしない。だが」
ワッグテールは小さく笑い、
「一手10秒――いや、一手5秒なら、お前は誰よりも強いだろう」
---
「チェックメイト」
俺はとどめの一手をカルラオリジナルに繰り出す。
「……っ!!」
カルラオリジナルは薄ら笑いを潜め、ただ驚いた面で盤面を見ていた。
「教えてもらうぞ。お前が知っている限りの王卵の情報をな」
「くくっ……はーっはっはっは!!!」
カルラは腹を抱えて笑い出す。
「いいだろういいだろう!! よもや余が早打ちで負けるとはな! この屈辱の褒美に語ろうではないか!!」
……マジで変な奴だなコイツ。同じ顔なのに思考がまったく読めない。
「王卵は王族を3人喰らうと形態が変わる。そうなってしまえばもう手遅れ。影武者たちはどこに居ようと飲まれ、間引かれ、1人を除き吸収される」
「それじゃ、後1人王族の遺体を吸収されてしまえば、他が生きていようが関係なく、全部終わるってわけか」
「うむ。逆に言えば、お主らが全員生存している限りは王卵は脅威ではないということ。それ即ち、あの島における敵は現状、あの仮面の男のみということだ」
「ん? そっか。じゃあ王卵を止めるっつーか、俺達が脱出する方法は単純だな」
「うむ。奴を倒せば良い。それで全て終わる。奴が倒れたとして、それを王都の人間が察知するにはそれなりの時間を要する」
先生さえ潰せば、とりあえず一安心っつーわけか。
「これがお前の言う王卵を止める方法、か」
「ああ。しかしもう1つ、王卵を止める方法はある。王卵は王族の遺体を吸収する際、体が裂ける。その裂けた体の先に、黄金色に輝く水晶がある。水晶は王卵の胃袋のようなモノ。破壊すれば数十年は吸収機能は停止し、お主らを喰らうことも無いだろう」
そういや、ハクの遺体を吸収する際に王卵は裂けていたな。
「でも3体喰ったら形態変化しちまうんだろ?」
「喰ってすぐさま形態変化はしない。おおよそ30分ほどのラグはある」
それなら遺体さえあれば、王卵を止めることは不可能ではないな。
物理的に王卵を止めるにはこの方法しかないか。
「水晶は鉄程の硬さ。もしクレインドッペルにクレイン兄様と同程度の力があるならば、余裕で砕けるだろう」
「……でもそれって、王卵を止めるにはもう1つ王族の遺体が必要ってことじゃねぇか。論外だな」
「だが――」
「言いたいことはわかるさ。だが、出来る限り命は散らせたくない」
「クックック……甘いな。しかしその甘さは余にはない才能だ。大切にせよ」
「うっせぇ」
「話は終わりだ。ところでお主、名前はあるか?」
カルラオリジナルは腕を組み、揺るぎない瞳で見てくる。
本当に自分と同じ遺伝子を持ってるのだろうか。こんな堂々とした、覇気のある目を、俺にもできるのだろうか。
「ソルだ」
「ソル、か。良い名だな。古代アルニコ語で太陽という意味だったか。ソルよ。余はお主を一つの個として認める。己を認めよ、自分を持て、プライドを持て、アイデンティティを確立せよ。余の影としてではなく、余の宿敵として、また会おう」
「……アンタの期待に応える気はない。情報をくれたことには感謝する」
俺が立ち上がると同時に、部屋の扉が開かれた。
「そろそろ出発の時間だよ、影武者様」
「……わかった」
俺は元の黒装束に着替え、仮面を被り、王宮から出た。
今は早く、カナリアやクレインの顔を見たかった。
特に深い理由はない。ただの遊びだ。
「チェックメイト」
結果は10連敗。ワッグテールには歯も立たなかった。
「ぐあぁ! また負けた。なんでだ? ハクにもクレインにもお前にも、まったくもって勝てない。俺ってひょっとしてバカ?」
「そんなことはない。お前、IQテストでは教室内で3位だったろ。テストでも良い点を取ってるじゃないか。間違いなく、お前の頭の出来は良いよ」
「じゃあなんで勝てないんだろうな」
「思考のタイプがこのゲームと合ってないのさ」
ワッグテールは時計を指さす。
「お前は他の人間に比べて極端に打つスピードが早い」
「そうか?」
「大体3秒から10秒、長くて30秒ってとこだ」
コイツ、良く観察してるな。
「それはお前が『即決タイプ』の思考をしているからだ。即断即決で物事を判断することに長けているが、時間を掛け深く考えることは苦手。逆に俺は『熟考タイプ』。咄嗟の判断に弱いが、時間を掛ければ最適解を出せる。チェスをやる時、俺たちは一手の時間とかは設定していないからな、このゲームは圧倒的に熟考タイプが有利というわけだ」
「あ~。言われてみれば確かに、長考とかあんまりしねぇな」
「一手の時間が無制限である限り、お前には負ける気がしない。だが」
ワッグテールは小さく笑い、
「一手10秒――いや、一手5秒なら、お前は誰よりも強いだろう」
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「チェックメイト」
俺はとどめの一手をカルラオリジナルに繰り出す。
「……っ!!」
カルラオリジナルは薄ら笑いを潜め、ただ驚いた面で盤面を見ていた。
「教えてもらうぞ。お前が知っている限りの王卵の情報をな」
「くくっ……はーっはっはっは!!!」
カルラは腹を抱えて笑い出す。
「いいだろういいだろう!! よもや余が早打ちで負けるとはな! この屈辱の褒美に語ろうではないか!!」
……マジで変な奴だなコイツ。同じ顔なのに思考がまったく読めない。
「王卵は王族を3人喰らうと形態が変わる。そうなってしまえばもう手遅れ。影武者たちはどこに居ようと飲まれ、間引かれ、1人を除き吸収される」
「それじゃ、後1人王族の遺体を吸収されてしまえば、他が生きていようが関係なく、全部終わるってわけか」
「うむ。逆に言えば、お主らが全員生存している限りは王卵は脅威ではないということ。それ即ち、あの島における敵は現状、あの仮面の男のみということだ」
「ん? そっか。じゃあ王卵を止めるっつーか、俺達が脱出する方法は単純だな」
「うむ。奴を倒せば良い。それで全て終わる。奴が倒れたとして、それを王都の人間が察知するにはそれなりの時間を要する」
先生さえ潰せば、とりあえず一安心っつーわけか。
「これがお前の言う王卵を止める方法、か」
「ああ。しかしもう1つ、王卵を止める方法はある。王卵は王族の遺体を吸収する際、体が裂ける。その裂けた体の先に、黄金色に輝く水晶がある。水晶は王卵の胃袋のようなモノ。破壊すれば数十年は吸収機能は停止し、お主らを喰らうことも無いだろう」
そういや、ハクの遺体を吸収する際に王卵は裂けていたな。
「でも3体喰ったら形態変化しちまうんだろ?」
「喰ってすぐさま形態変化はしない。おおよそ30分ほどのラグはある」
それなら遺体さえあれば、王卵を止めることは不可能ではないな。
物理的に王卵を止めるにはこの方法しかないか。
「水晶は鉄程の硬さ。もしクレインドッペルにクレイン兄様と同程度の力があるならば、余裕で砕けるだろう」
「……でもそれって、王卵を止めるにはもう1つ王族の遺体が必要ってことじゃねぇか。論外だな」
「だが――」
「言いたいことはわかるさ。だが、出来る限り命は散らせたくない」
「クックック……甘いな。しかしその甘さは余にはない才能だ。大切にせよ」
「うっせぇ」
「話は終わりだ。ところでお主、名前はあるか?」
カルラオリジナルは腕を組み、揺るぎない瞳で見てくる。
本当に自分と同じ遺伝子を持ってるのだろうか。こんな堂々とした、覇気のある目を、俺にもできるのだろうか。
「ソルだ」
「ソル、か。良い名だな。古代アルニコ語で太陽という意味だったか。ソルよ。余はお主を一つの個として認める。己を認めよ、自分を持て、プライドを持て、アイデンティティを確立せよ。余の影としてではなく、余の宿敵として、また会おう」
「……アンタの期待に応える気はない。情報をくれたことには感謝する」
俺が立ち上がると同時に、部屋の扉が開かれた。
「そろそろ出発の時間だよ、影武者様」
「……わかった」
俺は元の黒装束に着替え、仮面を被り、王宮から出た。
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