ドッペルツィマー ~影武者の反乱~

空松蓮司

文字の大きさ
24 / 41

第23話 地下の番人

しおりを挟む
 さて、ここの地形についておさらいしておこう。
 まず学校が島の中心にあり、その学校を囲うように森林地帯があり、そしてそのさらに周囲を山々が囲んでいる。山を越えると一面海だ。

 森林地帯、と一括りにしているが森林地帯にもいくつかのエリアがある。

 まず花畑エリア。よくカナリアが居るところだ。一面花畑でとても綺麗。この島で最も美しい場所だろう。

 その花畑エリアを越え、山のすぐ側に落石エリアがある。芝生の地面に多くの岩が突き刺さったエリアだ。山から剥がれ落ちた岩石が降り注ぎできた場所でとても危険な区域だ。このエリアのすぐ側にある山が酷く脆いため、こんなエリアができてしまった。

 このエリアの岩の一つを退かした先に、隠し通路がある。
 俺、クレイン、カナリア、ワッグテールは森林を進み、落石エリアに向かう。

「パフィンのおかげで、陽氣について詳しくわかったぞ」

 陽氣……気にはなっていたが、

「パフィンになんか頼んでたのか?」
「ああ。陽氣について出来るだけ調べて欲しいとな」
「お前なぁ、パフィンにまで無理させんじゃねぇよ」
「情報は命だ。そして、この島では情報が限られる。俺達が生き残るためには外からの情報が必須だ。それを得るためには任務で外に出る者に――」
「わかったわかった! もういいよ!」

 合理性の鬼め!

「陽氣については戦闘力にも直結することだからお前らにも共有しておく」

 頼むぜワッグテール先生。

「陽氣とは太陽のエネルギーだ。太陽の光を浴びている間、生物に貯蓄されるエネルギーであり、これを体内で活性化させると身体能力が向上する」
「へぇ~、外の人はそんなことができるんだね。凄いなぁ」

 カナリアが言うと、ワッグテールは「いや」と一言挟み、

「誰でもができることじゃないらしい。己の体内にある陽氣を一切感知せず、一生を終える者がほとんどだそうだ。この陽氣を消費することで専用の機械を動かすこともできるらしい。島にある船がそれだな」

 さらに驚くなかれ。とワッグテールは前置きし、

「陽氣を消費することで自分の影も自在に操れるらしいぞ」

 なんかコイツ、軽く興奮しているな。
 陽氣っていう未知のエネルギーに興味津々ってか? ワッグテールの好奇心の高さは影武者ドッペルの中で一番だからなぁ……。

「影を?」

 クレインが信じられないという顔で聞き返す。
 影の操作……オリジナルのハクがやっていたアレだな。影を盾にしたり、炎に変えたりしてたやつ。

「陽氣を消費し、己の影を大きくしたり、実体化させたりできるそうだ。更に上級者になると影を炎や水といった物質に変換することもできる。これらの影を操る術を『影法術』、と呼ぶそうだ」
「まさか、そんなことできるわけ……」

 クレインが疑うが、

「いや、俺は実際に影を操る奴を見た。そいつは確かに、影を炎に変えていた」

 なぜその情報を伏せていた? というワッグテールの視線が飛んでくる。
 ……すんません、この件について話すのすっかり忘れてました。

「ほ、ホントに? 人間にそんなことができるの?」
「も、もしかして先生もできるのかな……?」
「できる可能性は高いな。なぜならあの人は船を動かせている。少なくとも陽氣の扱いには長けているということだ」

 ワッグテールは更に詳しく『陽氣』と『影法術』について教えてくれた。
 まとめると、

①陽氣を消費することで身体能力や物質を強化できる。
②陽氣を消費することで特定の機械を動かすことができる。
③陽氣を消費することで影を濃くしたり、大きくしたり伸ばしたり、変形させることができる。
④陽氣を消費することで影を実体化させることができる。
⑤陽氣を消費することで影を別物質に変換できる。ただし、変換できる物質は生まれつきの『属性』で決まり、属性が炎なら影は炎にしか変換できない。

 ①と②を『陽法ようほう術』と言い、③~⑤を『影法術』と呼ぶらしい。

「そして、これらすべての技を超越する奥義――その名も、『幻影封氣』というものがある」
「奥義! なんかカッコいいね!」

 カナリアは目を輝かせる。

「ただこれについてはパフィンも詳しくは調べられなかったそうだ。何やらこれらの術を超越する超常的な力らしいが、習得方法が定まっておらず、その能力についても文献によって記述が違うらしい」

 幻影封氣――あの侵入者が変身した時に使っていた技か。
 多分、ハクオリジナルもこれを使おうとしていた。確かに、別格の圧力があったな。

「つーかよ、パフィンはどこでそんなに調べられたんだ? オリジナルにでも聞いたのか?」
「オリジナルの部屋に『影法術』の教本があったから、空いた時間に本を読んで調べたんだと」

 岩石地帯にたどり着く。

「続きは後だ」

 ワッグテールは岩石地帯のある岩に目をつける。

「……これか」

 ワッグテールが触っているのは隠し通路に繋がる岩、大きさにして4メートル。
 さて、成人男性何人積めばこの岩を動かせるだろうか。そんなことを考えているとクレインが「よっこらせ」と一人で岩を退かした。バケモンかコイツ。
 この馬鹿力が身体強化のできる陽法術とやらを覚えたらどうなるんやら。

「うわ、本当にあった!」

 カナリアがリアクションする。
 岩を退かした先には石階段があった。前に見た通りだ。

「クレイン、後は手筈通りに」
「うん、任せて」

 ワッグテールは火打石で手に持った木の棒に火を付け、松明を作った。 
 ワッグテールが先陣切って階段を下る。俺とカナリアもそれに続く。
 全員が階段を下り終えたところで、岩が穴を塞ぎ――太陽の光が閉ざされた。


 --- 


 湿気の強い地下空洞。
 ぴちゃ、ぴちゃ、と足音が鳴るほど湿った地面を歩いていく。

「どうだカナリア、なにか変な音は聞こえるか?」
「ううん。何も聞こえない」

 この視界が不明瞭な場所ではカナリアの耳は非常に役立つ。音の反響から洞窟のマップを頭に作り出し、俺たちに教えてくれる。おかげで安全で最短の道を行けている。
 樽の中からだとこの辺はほとんど見えなかったからな。

「入り組んだ洞窟だね。道が無数に分岐してる」
「本当にすげぇなお前の耳。おかげでこの暗闇でも道を間違えることなく進めてる」
「連れてきて正解だったな」
「えっへっへ、ワッグテールに褒められると照れるね」
「……そうですかそうですか、俺のお褒めの言葉じゃ照れませんか」

 洞窟を暫く進むと、前方に光が見えた。

――ようやくだな。

 光に向かって進むと、広い空間に出た。

 湖、湖に浮かぶ船。湖の先は洞窟の出口――海に繋がっている。

 ここが、脱出ポイント。
 しかし……前に見た時とは違う物が一つだけある。
 湖へ繋がる道を塞ぐように石像が建っているのだ。
 人を背に乗せられるぐらい巨大な鳥の像。あんなもんなかったはずだけど。

「よし、時間がない。早く船に乗るぞ」

 ワッグテールが駆け足で湖へ向かう。
 ワッグテールが石像の側数メートルに近づいた時だった。

――石像の目が赤く光った。

「!?」

 石像はそのクチバシをワッグテールに向ける。


「避けろワッグテール!」


 俺の声を聞き、ワッグテールも石像に気付いた。
 ワッグテールは大きく飛びのく。石像は羽ばたき、さっきまでワッグテールが立っていた場所に突撃した。

「な、なんだよコイツ……!?」
「文献で見たことがある。石像のフリをし、宝や扉の番人の役目を果たす魔獣が居ると。名前は確か、ガーゴイル」

 後ずさりながらワッグテールは言う。
 ワッグテールが離れるとガーゴイルは台座に戻り、また石像のフリを始めた。

「心臓の音も、呼吸の音も聞こえない。命の音を、あの石像からは感じない……」
「前は居なかったぞアイツ。先生が新しく置いたのか?」
「そうみたいだな。船を守る番人というわけだ。近づけば攻撃してくるが、遠ざかればただの石像として存在する。あの突進の破壊力を見るに、俺たちじゃどうしようもない相手だ」

 ただの石像ならば、カナリアの耳でも察知はできない。カナリア対策もバッチリなわけだ。
 ワッグテールは舌打ちし、

「――退却だ」

 と忌々し気に号令を出した。

「くそ……船も、も、もう目と鼻の先なのに……」

 俺が言うと、カナリアがこっちを見上げてきた。

「お、覚えてたんだね……私が海の水飲みたいって言ってたの……」
「俺じゃねぇよ。クレインが覚えてたんだ」
「照れちゃって。そんなわかりやすい嘘バレバレだよ」

 いや、マジでクレインが覚えてたんだけどな。

「ありがとね。ソル」

 カナリアが……えへへ、と笑みを向けてくる。

「結局海水飲めなかったんだから感謝される筋合いはねぇよ」

 なんか最近、コイツの笑顔を見ると照れてしまう。なんでだろう?

「おい、早くしろ」
「はいはい」

 俺たちは何もできず、地下空洞から脱出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...