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prologue
第1話 たった一つの願い
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今、俺が立っている場所は死に満ちていた。
「化物だ……こんな奴に勝てるわけない……」
屍の山の頂点に立つ俺を見て、殺戮の魔王と名乗っていた男が慄き震えている。
この屍は全て魔族たちの亡骸だった。
「化物……か」
それは否定しようがない。
俺は強くなり過ぎた。
誰かを倒す力が欲しかったんじゃない。
ある一つの目的を達成しようとした結果――俺は全てを超越する力を手に入れていたのだ。
その証拠というわけではないが、自身の能力値を数値化、各詳細を表示するステータスの魔法を使うと、『神々を超えた英雄』という称号を持っていることがわかった。
「腕に自信がないのなら、最初から人類に喧嘩を売るべきじゃなかった」
この魔王は人類の約半数を滅ぼした。
だからこそ殺戮の魔王などと大層な二つ名を付けられているようだが……この男はあまりにも運がない。
俺がこの世界に『転移』してきてしまったのだから。
(……無駄な時間を過ごしてしまったな)
もう終わらせよう。
俺は魔王と目を合わせた。
その瞬間、
「ひっ――ぐあああああああああああああああああっ!?」
魔王を名乗った若輩者が絶叫を上げながらその場に倒れ、ごろごろと苦しみ悶えていた。
髪が白髪に変わり、全身が衰え老化して――ミイラのようになっていく。
「な、何を、なにをしたんだあああああっ、ぐっ、おおおおおぁぁぁあぁっ……」
「ただ見ただけだが?」
この現象は俺に見られたことで男の全細胞が恐怖した結果だ。
戦わずとも見られただけで身体は理解したのだろう。
既に負けていることを。
所詮こいつはただの魔王なのだから。
「じゃあな」
「ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああっ!?」
俺が終わりを告げると、魔界の荒野に、殺戮者の声帯から人生の終末が奏でられたのだった。
「さて、これで今回の使命は終わりか」
転移してから数分ほど経っただろうか?
とりあえず、この異世界は救い終わった。
(……俺の目的のついでにではあるが)
これで人類が魔族に虐げられることはないだろう。
(……ここからが本番だ)
なんの因果かはわからないが、俺は転生と転移を繰り返す性質を持っていた。
そのせいで永遠に近い時を過ごしている。
「……だが、そのお陰でやっと目的に到達できる」
遂にその切っ掛けを得たのだ。
俺はこの異世界で――運命の女神との接触に成功して、神々の住む天界に転移する為の位置情報を知ることができた。
(……後は神々の協力を得ることができれば、俺は目的に――叶えたかった願いにようやく手が届く)
だから、
「始めるとしよう」
大規模魔法展開――座標位置設定、位置情報を統合、転移先を確認――膨大な魔力が消費されていくが、俺は魔法の発動を止めるとはない。
世界を飲み込むような巨大な魔法陣が地面に描かれていく。
大賢者と言われるような人間が無限に集まろうとも、この規模の魔法を使うことは不可能だろう。
これは神々の領域に立った――世界の理を理解した者だけが到達できる力。
「――さぁ、俺を神々の元へ導け!」
世界が輝きに包まれた瞬間――俺の視界にある景色が変化していた。
宇宙にも似た空間。
ここが天界――扉の間だ。
暗黒の世界の中に複数の扉が存在する。
「来ましたか」
どこからともなく女が現れた。
思考を読ませぬ微笑をたたえて俺を見つめている。
こいつは異世界管理局という機関の頂点に立つ女神で、俺が接触を持つことに成功した最初の神でもある。
「……それで最高神は?」
「直ぐにご案内いたします」
女神は踵を返して足を進めた。
付いて来いということだろう。
暫く足を進めていると、一つの扉の前に立ち止まった。
「……こちらにお入りください。
わたくしはここで待っておりますので」
言われるままに俺は扉に手を掛けた。
その瞬間――再び世界が変化する。
「……」
これほどまでに神々しく、目を奪われるほどの美しい世界を見たことがある者がいるだろうか?
俺は今、そんな場所にいた。
「まさか人間がここまで辿り着くとは……心から敬意を表そうではないか」
玉座に堂々と座る眉目秀麗の男が、好奇に満ちた笑みを浮かべ俺を見つめている。
「しかもその力……我(おれ)に匹敵している――いや、それ以上かもしれぬな」
俺に対して強い関心を示すこの偉そうな男は、全ての世界を統べる最高神という存在らしい。
「どうやら貴様、とんでもない因果に囚われているようだな」
「……それをお前ら神が言うのか?」
俺が初めて異世界に転移してから、永遠に近い時間が過ぎていた。
最初に転移した異世界で、俺は勇者として召喚された。
魔王を倒して世界を救えば、元の世界に帰れる。
それは神々が俺に与えた啓示だった。
が……世界を救った直後に俺は別の異世界に転移させられたのだ。
そしてまた世界を救う宿命を背負わされた。
俺は幾度となく異世界を救ったが、元の世界に帰ることはできず寿命を迎えた。
が、それでも俺の人生は終わることはなかった。
「お前らのせいで、俺は転生と転移を繰り返すことになった」
「……ふむ。
貴様は転生者であり、転移者でもあるというわけか」
俺は転生転移を数えきれないほど繰り返していた。
記憶や力は消えることはなく常に維持された状態で……だ。
ある時は勇者として世界を救い。
ある時は賢者として知識を追求した。
そしてまたある時はただの冒険者として、世界中を見て歩いた。
様々な世界の魔法、技能(スキル)、言語を習得して、伝説と呼ばれる宝を収集し――気付けば死すらも克服してしまった。
俺はありとあらゆる力を手に入れたのだ。
それこそ世界の理に至り、天界の最高神の元へ辿り着くほどの。
だが、神々に匹敵する力を手に入れた今も叶えられない願いがある。
「それで、何を望む?」
「俺を元いた世界に――日本に帰してくれ。
可能な限り転移する直前と同じ時間、同じ姿でだ」
異世界に来た日からずっと、俺には心残りがあった。
親しくしていた友人たち。
そして、たった一人の家族である妹のこと。
「ふむ……元の世界に帰りたい、か。
神々の領域に踏み込んだお前なら、自身の力でそれが可能なのではないか?」
「異世界管理局の妨害にあった」
異世界管理局というのは異世界転生者や転移者を管理している機関だ。
そこに属する運命の女神たちによって、各世界の人間をどの世界に送るかが決定される。
女神たちの話では俺を元いた世界に帰すと、地球が消滅してしまうらしい。
俺が体内に保有するエネルギー量が多すぎて、世界の理(ことわり)が崩壊を起こしてしまうそうだ。
だから転生者としての役目を終えた後も、俺を送還することができなかったと。
「だが、最高神の協力があれば俺は元の世界に戻れると聞いた」
俺を元の世界に戻すことで発生してしまうエネルギーで地球が消滅してしまうなら、同等のエネルギーで相殺するしかない。
異世界管理局の女神が言うには、それができるのはこの最高神だけらしい。
「確かに貴様を元の世界に戻すことは可能だ。
が、この我に、貴様の言うことを聞く必要があるのか?」
「ある。
俺はお前ら神のせいで平穏な日常を奪われた。
責任を取れ。
できないというなら、力尽くで言うことを聞かせるだけだ」
たとえ相手が全能の存在――最高神であったとしても、全く負ける気はしなかった。
「ふふっ、ふはははははっ!
この我に向かって、これほどふざけたことを言う人間は貴様が初めてだ。
力比べをするのは構わん。
だが、一度闘いを始めれば我ら以外の全てが消滅してしまうほうが早いだろうな」
異世界管理局が消滅してしまえば、どんな障害が発生するかわからない。
なるべく面倒事は避けるべきか。
「しかし愉快なことを言う人間がいたものだ。
我を笑かしてくれた褒美をやらねばなるまい。
何より、人の身で神の領域に――この我と唯一、同等の存在に至ったことに敬意を表して、貴様の願いこの我が叶えよう」
どうやら最高神は俺に対して一定のリスペクトがあるらしい。
「同等の存在ってことは、俺たちは友達みたいなものだな」
「友――……ふふっ、ふはははははははっ!
友か! それはいい! この我の友か!」
俺の言葉に、最高神は心底楽しそうに笑った。
「ならば友として貴様に伝えよう!
我が名はアルティム――我の友として、貴様には特別に名を呼ぶことを許可してやる」
「アルティム――なら、アルって呼ばせてもらうぞ」
「アル……ふむ、良かろう。
好きに呼ぶがいい。
で、貴様の名は?」
「俺は――」
転生を繰り返したことで俺には数えきれないほどの名前があった。
だが今伝えるとすれば、
「俺の名前は狭間(はざま) 巡(めぐる)だ。
よろしく頼む」
転移をする前の日本にいた頃の自分の名を伝えた。
友好の証として俺は右手を差し出す。
「任せるがいい」
アルは満面の笑みを向けて、俺と握手を交わす。
懐かしい感覚が胸に蘇る。
友達を作るのはいつ以来だろうか?
だが、異世界での最後の友人が最高神というのは面白い。
俺は久しぶりに笑みがこぼれた。
「ただし一つだけ条件がある」
「なんだ?」
「我も行く!」
「は?」
どこへ?
「貴様の世界に我も行くと言った!」
「いやいやいや、お前……神様だろ? 色々なんか仕事があるんじゃないか?」
「そんなものは知らぬ。
我は我のやりたいように過ごす!
それが最高神たる特権だ! 雑事など他の神がに任せておけばよい」
何それ適当!?
ここに来るまでに何人か神を名乗る連中と会って、全員が一癖も二癖もあるような問題児ばかりだったが、その中でも断トツで酷いぞこいつ!
唯我独尊というか、我が道を行きすぎだろ!?
「初めて友と世界を旅するというのも悪くはない」
「日本に戻っても旅はしないからな」
「なんだと?」
いや、なんでそんな不服そうなんだ。
日本に戻ったらただの高校生として過ごすつもりだ。
「とにかく我がやると言った以上は是非もない。
天界にいる最上位神を全て集めよ! 異世界に転移する為の大規模魔法を展開する!
巡が地球に転移した際に生まれるエネルギーは、我だけでは相殺できぬ可能性がある。
あらゆる事態に対応できるよう準備せよ! 我が友の凱旋だ! 失敗は許されぬぞ!」
なんだか派手なことになってきた。
何らかの障害が発生してしまった場合は、その時に対応するしかない。
(……最高神を含めた全ての神が動いてくれるというなら大丈夫だと思いたいが)
希望的な観測をしていると、この後……いくつか驚くべき出来事があったのだが――まぁ、とにかく帰還の準備が整った。
そして――。
※
「……ここは?」
次に目を覚ました時、俺の視界に懐かしい景色が広がっていた。
今、俺は教室にいた。
色褪せていた記憶が一気に蘇っていく。
今、座っている教室の一番左隅の席。
ここは間違いなく俺の席だ。
「戻ってきた……のか?」
『うむ。
我が手を貸したのだから失敗などあるはずなかろう』
念話(テレパス)で話し掛けてきたのはアルだ。
ちなみにこの最高神は、俺の収納魔法で『装備品』として連れてきている。
その状態でも魔法で視界も確保できるし、こうして会話もできる為、問題はないということだ。
「ここは間違いなく地球なんだな?」
『そうだ。
しかし……随分と静かな場所だな?』
「……そういえば……なんで他の生徒がいないんだ」
記憶と辻褄が合わない。
俺は昼休みの教室で、友人や妹たちと話している時に――突然、異世界に転移していた。
時計を確認する。
時間は12時50分。
昼休みはまだ始まったばかりのはずだ。
なのに――どうして?
思考を巡らせていくと、悪い方向にばかり考えがいってしまう。
まさかとは思うが……。
「アル……俺はこの教室にいた時、突然異世界転移していたんだが……」
『そうか』
「……もし、最悪の可能性の話しなんだが……この教室に一緒にいた奴らも、俺と同時に異世界に転移してたって可能性はあるのか?」
違う世界。
違う時間。
別の条件で異世界に飛ばされている。
そんな最悪があっていいはずが――。
『この場にいた人間がいなくなっているのであれば――そう考えるのが妥当であろうな』
どうやら最悪は現実となったらしい。
「ははっ……――はははははっ!!」
もう笑える。
最高に笑える。
ていうか、こんな状況――笑うしかないだろ。
家族や友達と会う為にやっと戻ってこれたってのに……運命の悪戯ってか?
「――どうやら俺の冒険はまだ終わらないみたいだな!」
忘れていた感情。
情熱が沸き上がって来る。
そうだ。
こういう絶望を乗り越えてきた。
逆境を楽しんできた。
諦めなかったから――今の俺がいる。
『ほう……振り出しに戻ったというのに、楽しそうではないか?』
「アル、振り出しなんかじゃねえ」
これのどこが振り出しだっていうんだ。
もう日本の座標はわかった。
ここにワープポータルを設置しておけば、どの異世界にいようと俺はいつでも日本に戻って来られる。
そして――今の俺は無力だった頃とは違う。
「アル……お前たちにも手伝ってもらうからな」
『我に命令するか?』
違う。
そんなことはしない。
「俺がするのは、お前の友人としてのお願いだ」
『……ふふっ――友の頼みであれば聞かねばなるまい』
「頼む。
このクラスにいた生徒たちの転移先、転移した時代を調べてくれ。
異世界管理局の女神たちなら、転移者や転生者の名簿くらい作ってるだろ?」
『よかろう。
確認してみるとしよう』
世界を救うのはもう飽きた。
俺が救うのは――転移に巻き込まれたこの教室にいた生徒たちだ。
(……さぁ――ここからもう一度始めよう)
全てを取り戻す為の再行動(リ・アクト)を――。
「化物だ……こんな奴に勝てるわけない……」
屍の山の頂点に立つ俺を見て、殺戮の魔王と名乗っていた男が慄き震えている。
この屍は全て魔族たちの亡骸だった。
「化物……か」
それは否定しようがない。
俺は強くなり過ぎた。
誰かを倒す力が欲しかったんじゃない。
ある一つの目的を達成しようとした結果――俺は全てを超越する力を手に入れていたのだ。
その証拠というわけではないが、自身の能力値を数値化、各詳細を表示するステータスの魔法を使うと、『神々を超えた英雄』という称号を持っていることがわかった。
「腕に自信がないのなら、最初から人類に喧嘩を売るべきじゃなかった」
この魔王は人類の約半数を滅ぼした。
だからこそ殺戮の魔王などと大層な二つ名を付けられているようだが……この男はあまりにも運がない。
俺がこの世界に『転移』してきてしまったのだから。
(……無駄な時間を過ごしてしまったな)
もう終わらせよう。
俺は魔王と目を合わせた。
その瞬間、
「ひっ――ぐあああああああああああああああああっ!?」
魔王を名乗った若輩者が絶叫を上げながらその場に倒れ、ごろごろと苦しみ悶えていた。
髪が白髪に変わり、全身が衰え老化して――ミイラのようになっていく。
「な、何を、なにをしたんだあああああっ、ぐっ、おおおおおぁぁぁあぁっ……」
「ただ見ただけだが?」
この現象は俺に見られたことで男の全細胞が恐怖した結果だ。
戦わずとも見られただけで身体は理解したのだろう。
既に負けていることを。
所詮こいつはただの魔王なのだから。
「じゃあな」
「ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああっ!?」
俺が終わりを告げると、魔界の荒野に、殺戮者の声帯から人生の終末が奏でられたのだった。
「さて、これで今回の使命は終わりか」
転移してから数分ほど経っただろうか?
とりあえず、この異世界は救い終わった。
(……俺の目的のついでにではあるが)
これで人類が魔族に虐げられることはないだろう。
(……ここからが本番だ)
なんの因果かはわからないが、俺は転生と転移を繰り返す性質を持っていた。
そのせいで永遠に近い時を過ごしている。
「……だが、そのお陰でやっと目的に到達できる」
遂にその切っ掛けを得たのだ。
俺はこの異世界で――運命の女神との接触に成功して、神々の住む天界に転移する為の位置情報を知ることができた。
(……後は神々の協力を得ることができれば、俺は目的に――叶えたかった願いにようやく手が届く)
だから、
「始めるとしよう」
大規模魔法展開――座標位置設定、位置情報を統合、転移先を確認――膨大な魔力が消費されていくが、俺は魔法の発動を止めるとはない。
世界を飲み込むような巨大な魔法陣が地面に描かれていく。
大賢者と言われるような人間が無限に集まろうとも、この規模の魔法を使うことは不可能だろう。
これは神々の領域に立った――世界の理を理解した者だけが到達できる力。
「――さぁ、俺を神々の元へ導け!」
世界が輝きに包まれた瞬間――俺の視界にある景色が変化していた。
宇宙にも似た空間。
ここが天界――扉の間だ。
暗黒の世界の中に複数の扉が存在する。
「来ましたか」
どこからともなく女が現れた。
思考を読ませぬ微笑をたたえて俺を見つめている。
こいつは異世界管理局という機関の頂点に立つ女神で、俺が接触を持つことに成功した最初の神でもある。
「……それで最高神は?」
「直ぐにご案内いたします」
女神は踵を返して足を進めた。
付いて来いということだろう。
暫く足を進めていると、一つの扉の前に立ち止まった。
「……こちらにお入りください。
わたくしはここで待っておりますので」
言われるままに俺は扉に手を掛けた。
その瞬間――再び世界が変化する。
「……」
これほどまでに神々しく、目を奪われるほどの美しい世界を見たことがある者がいるだろうか?
俺は今、そんな場所にいた。
「まさか人間がここまで辿り着くとは……心から敬意を表そうではないか」
玉座に堂々と座る眉目秀麗の男が、好奇に満ちた笑みを浮かべ俺を見つめている。
「しかもその力……我(おれ)に匹敵している――いや、それ以上かもしれぬな」
俺に対して強い関心を示すこの偉そうな男は、全ての世界を統べる最高神という存在らしい。
「どうやら貴様、とんでもない因果に囚われているようだな」
「……それをお前ら神が言うのか?」
俺が初めて異世界に転移してから、永遠に近い時間が過ぎていた。
最初に転移した異世界で、俺は勇者として召喚された。
魔王を倒して世界を救えば、元の世界に帰れる。
それは神々が俺に与えた啓示だった。
が……世界を救った直後に俺は別の異世界に転移させられたのだ。
そしてまた世界を救う宿命を背負わされた。
俺は幾度となく異世界を救ったが、元の世界に帰ることはできず寿命を迎えた。
が、それでも俺の人生は終わることはなかった。
「お前らのせいで、俺は転生と転移を繰り返すことになった」
「……ふむ。
貴様は転生者であり、転移者でもあるというわけか」
俺は転生転移を数えきれないほど繰り返していた。
記憶や力は消えることはなく常に維持された状態で……だ。
ある時は勇者として世界を救い。
ある時は賢者として知識を追求した。
そしてまたある時はただの冒険者として、世界中を見て歩いた。
様々な世界の魔法、技能(スキル)、言語を習得して、伝説と呼ばれる宝を収集し――気付けば死すらも克服してしまった。
俺はありとあらゆる力を手に入れたのだ。
それこそ世界の理に至り、天界の最高神の元へ辿り着くほどの。
だが、神々に匹敵する力を手に入れた今も叶えられない願いがある。
「それで、何を望む?」
「俺を元いた世界に――日本に帰してくれ。
可能な限り転移する直前と同じ時間、同じ姿でだ」
異世界に来た日からずっと、俺には心残りがあった。
親しくしていた友人たち。
そして、たった一人の家族である妹のこと。
「ふむ……元の世界に帰りたい、か。
神々の領域に踏み込んだお前なら、自身の力でそれが可能なのではないか?」
「異世界管理局の妨害にあった」
異世界管理局というのは異世界転生者や転移者を管理している機関だ。
そこに属する運命の女神たちによって、各世界の人間をどの世界に送るかが決定される。
女神たちの話では俺を元いた世界に帰すと、地球が消滅してしまうらしい。
俺が体内に保有するエネルギー量が多すぎて、世界の理(ことわり)が崩壊を起こしてしまうそうだ。
だから転生者としての役目を終えた後も、俺を送還することができなかったと。
「だが、最高神の協力があれば俺は元の世界に戻れると聞いた」
俺を元の世界に戻すことで発生してしまうエネルギーで地球が消滅してしまうなら、同等のエネルギーで相殺するしかない。
異世界管理局の女神が言うには、それができるのはこの最高神だけらしい。
「確かに貴様を元の世界に戻すことは可能だ。
が、この我に、貴様の言うことを聞く必要があるのか?」
「ある。
俺はお前ら神のせいで平穏な日常を奪われた。
責任を取れ。
できないというなら、力尽くで言うことを聞かせるだけだ」
たとえ相手が全能の存在――最高神であったとしても、全く負ける気はしなかった。
「ふふっ、ふはははははっ!
この我に向かって、これほどふざけたことを言う人間は貴様が初めてだ。
力比べをするのは構わん。
だが、一度闘いを始めれば我ら以外の全てが消滅してしまうほうが早いだろうな」
異世界管理局が消滅してしまえば、どんな障害が発生するかわからない。
なるべく面倒事は避けるべきか。
「しかし愉快なことを言う人間がいたものだ。
我を笑かしてくれた褒美をやらねばなるまい。
何より、人の身で神の領域に――この我と唯一、同等の存在に至ったことに敬意を表して、貴様の願いこの我が叶えよう」
どうやら最高神は俺に対して一定のリスペクトがあるらしい。
「同等の存在ってことは、俺たちは友達みたいなものだな」
「友――……ふふっ、ふはははははははっ!
友か! それはいい! この我の友か!」
俺の言葉に、最高神は心底楽しそうに笑った。
「ならば友として貴様に伝えよう!
我が名はアルティム――我の友として、貴様には特別に名を呼ぶことを許可してやる」
「アルティム――なら、アルって呼ばせてもらうぞ」
「アル……ふむ、良かろう。
好きに呼ぶがいい。
で、貴様の名は?」
「俺は――」
転生を繰り返したことで俺には数えきれないほどの名前があった。
だが今伝えるとすれば、
「俺の名前は狭間(はざま) 巡(めぐる)だ。
よろしく頼む」
転移をする前の日本にいた頃の自分の名を伝えた。
友好の証として俺は右手を差し出す。
「任せるがいい」
アルは満面の笑みを向けて、俺と握手を交わす。
懐かしい感覚が胸に蘇る。
友達を作るのはいつ以来だろうか?
だが、異世界での最後の友人が最高神というのは面白い。
俺は久しぶりに笑みがこぼれた。
「ただし一つだけ条件がある」
「なんだ?」
「我も行く!」
「は?」
どこへ?
「貴様の世界に我も行くと言った!」
「いやいやいや、お前……神様だろ? 色々なんか仕事があるんじゃないか?」
「そんなものは知らぬ。
我は我のやりたいように過ごす!
それが最高神たる特権だ! 雑事など他の神がに任せておけばよい」
何それ適当!?
ここに来るまでに何人か神を名乗る連中と会って、全員が一癖も二癖もあるような問題児ばかりだったが、その中でも断トツで酷いぞこいつ!
唯我独尊というか、我が道を行きすぎだろ!?
「初めて友と世界を旅するというのも悪くはない」
「日本に戻っても旅はしないからな」
「なんだと?」
いや、なんでそんな不服そうなんだ。
日本に戻ったらただの高校生として過ごすつもりだ。
「とにかく我がやると言った以上は是非もない。
天界にいる最上位神を全て集めよ! 異世界に転移する為の大規模魔法を展開する!
巡が地球に転移した際に生まれるエネルギーは、我だけでは相殺できぬ可能性がある。
あらゆる事態に対応できるよう準備せよ! 我が友の凱旋だ! 失敗は許されぬぞ!」
なんだか派手なことになってきた。
何らかの障害が発生してしまった場合は、その時に対応するしかない。
(……最高神を含めた全ての神が動いてくれるというなら大丈夫だと思いたいが)
希望的な観測をしていると、この後……いくつか驚くべき出来事があったのだが――まぁ、とにかく帰還の準備が整った。
そして――。
※
「……ここは?」
次に目を覚ました時、俺の視界に懐かしい景色が広がっていた。
今、俺は教室にいた。
色褪せていた記憶が一気に蘇っていく。
今、座っている教室の一番左隅の席。
ここは間違いなく俺の席だ。
「戻ってきた……のか?」
『うむ。
我が手を貸したのだから失敗などあるはずなかろう』
念話(テレパス)で話し掛けてきたのはアルだ。
ちなみにこの最高神は、俺の収納魔法で『装備品』として連れてきている。
その状態でも魔法で視界も確保できるし、こうして会話もできる為、問題はないということだ。
「ここは間違いなく地球なんだな?」
『そうだ。
しかし……随分と静かな場所だな?』
「……そういえば……なんで他の生徒がいないんだ」
記憶と辻褄が合わない。
俺は昼休みの教室で、友人や妹たちと話している時に――突然、異世界に転移していた。
時計を確認する。
時間は12時50分。
昼休みはまだ始まったばかりのはずだ。
なのに――どうして?
思考を巡らせていくと、悪い方向にばかり考えがいってしまう。
まさかとは思うが……。
「アル……俺はこの教室にいた時、突然異世界転移していたんだが……」
『そうか』
「……もし、最悪の可能性の話しなんだが……この教室に一緒にいた奴らも、俺と同時に異世界に転移してたって可能性はあるのか?」
違う世界。
違う時間。
別の条件で異世界に飛ばされている。
そんな最悪があっていいはずが――。
『この場にいた人間がいなくなっているのであれば――そう考えるのが妥当であろうな』
どうやら最悪は現実となったらしい。
「ははっ……――はははははっ!!」
もう笑える。
最高に笑える。
ていうか、こんな状況――笑うしかないだろ。
家族や友達と会う為にやっと戻ってこれたってのに……運命の悪戯ってか?
「――どうやら俺の冒険はまだ終わらないみたいだな!」
忘れていた感情。
情熱が沸き上がって来る。
そうだ。
こういう絶望を乗り越えてきた。
逆境を楽しんできた。
諦めなかったから――今の俺がいる。
『ほう……振り出しに戻ったというのに、楽しそうではないか?』
「アル、振り出しなんかじゃねえ」
これのどこが振り出しだっていうんだ。
もう日本の座標はわかった。
ここにワープポータルを設置しておけば、どの異世界にいようと俺はいつでも日本に戻って来られる。
そして――今の俺は無力だった頃とは違う。
「アル……お前たちにも手伝ってもらうからな」
『我に命令するか?』
違う。
そんなことはしない。
「俺がするのは、お前の友人としてのお願いだ」
『……ふふっ――友の頼みであれば聞かねばなるまい』
「頼む。
このクラスにいた生徒たちの転移先、転移した時代を調べてくれ。
異世界管理局の女神たちなら、転移者や転生者の名簿くらい作ってるだろ?」
『よかろう。
確認してみるとしよう』
世界を救うのはもう飽きた。
俺が救うのは――転移に巻き込まれたこの教室にいた生徒たちだ。
(……さぁ――ここからもう一度始めよう)
全てを取り戻す為の再行動(リ・アクト)を――。
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周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
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