上 下
45 / 257

第四十五話 美味い話には

しおりを挟む

 しばしの休憩を取った後、今度は周囲を警戒しつつ声を潜めて話し合う。

 やはりというべきか、彼女も希望の実によって復活したらしい。
 称号に『生と死の逆転』、経験値上昇、そしてユニークスキルの獲得をしたらしいので間違いない。
 そして肝心のユニークスキルだが……

覇天七星宝剣はてんしちせいほうけん、らしいです」
「……よくわかんない」

 覇天七星宝剣……長いので宝剣と呼ぶが、七種類までどんなものでもユニーク武器として扱い、好きな時に取り出し操れるらしい。
 よく分からないが強そうだ、名前からして。

「フォリアちゃん……」
「なに?」
「私が守りますからね……」

 私の肩を抱き、きらきらとした瞳でこちらを見つめる泉都。

 冗談もたいがいにしてほしい。
 レベルからして守るのは私、むしろまた死なれても困るのでお願いだから後ろにいてもらいたい。

 もう、目の前で死なれるのは勘弁だ。




 戦闘を避け、探索を重視した結果、どうやら今ここにいるスライムたちは『最低レベル』が200程度だということが分かった。
 そう、最初に私たちが出会ったやつこそが最弱で、ある意味運がよかったとすら言える。
 あと泉都のチェーンソーは仕舞ってもらった、音がうるさくてスライムたちに襲われかねない。
 結局彼女の『宝剣』をどうやって使うのかというと……

 スライムが体の先を三つに分裂させ、こちらへ三方向からの同時攻撃を仕掛けてくる。
 ステップで横へ一発目を回避、反動に任せ跳躍で二発目、そして無防備になった宙に浮かぶ体へ三発目が向かい……

「フォリアちゃん!」
「ん」

 彼女の『宝剣』はそれこそなんでも武器として登録できた。チェーンソーも、そこら辺の平たい岩すらも。
 そして何もかも好きに操作できるということは、空中で動かぬ足場としてこれ以上都合のいい物もない。 

 彼女の掛け声とともに宙に輝く平たい岩が生まれ、そこに足をかける。
 踏み込みくるりと一回転、私がそこから離れた直後に三発目が殺到。
 無防備になったスライムの核、そこへ重力も合わさった振り下ろし。追ってストライクを叩き込めば派手に砕け散り、スライムの身体は一瞬震えると光になって消えていった。

 これで最初の奴を除き、ようやく一匹目。
 草むらに隠れているせいで探すのも一苦労だが、見つけた後も目を疑うようなレベルだったりで、まともに太刀打ちできるか怪しいのがわんさかいる。
 今の奴もレベル200、これで泉都も多少はレベルが……

「わぁ、フォリアちゃん! レベル100以上上がりましたよ!」
「は?」

 能天気な声、そしてその直後。

『レベルが21上昇しました』

「……は?」

 聞き慣れた無機質な声と、聞き慣れない異常なレベルアップ。
 ありえない。だってさっき同じようなレベルのを倒したときは、13の上昇だったはず。
 それだってかなり驚異的な上がり幅だというのに、それ以上上がるだなんて……

 まさか……と、ふと頭に浮かんだ考え。

 このパーティ、もといバディは二人とも『経験値上昇』を持っている。
 まさかすべて別枠で計算されて、最後に同じ値が私たちに割り振られているのか……?
 私の『累乗経験値上昇LV4』は経験値64倍、そして彼女の恐らくLV1である『経験値上昇』が合わさり、128倍になっているとしたら……一応、21レベルの上昇もありえなくはない。
 まさかとは思ったが、そうとしか考えられなかった。

 そもそも『経験値上昇』自体結構レアなスキル、果たして『生と死の逆転』以外での入手方法があるのかすら分からない。
 少なくとも基礎スキルには存在せず、所有者が二人そろうことは皆無だろう。
 凄まじい性能への興奮と共に、どこか付きまとう恐怖。
 一体自分が何に恐怖しているのか分からない、分からないけれど、脳内で警告を鳴らし続ける何かがあった。

「……フォリアちゃん」
「なに?」
「この希望の実に関する情報、誰かに話したことは?」
「ない……けど……」

 先ほどまで能天気に笑っていたはずの泉都、彼女の顔はいつの間にか凍り付いていた。
 
「この情報……絶対に誰にも話さないでください。……夥しい数の人が死ぬのを見聞きしたくなければ」
「……っ!」

 そうか、それだ。
 ずっと胸中を取り巻いていた不吉な感情は、無意識のうちにそれに気づいていたから。

 もしこの情報が世界へ知れ渡れば、国や地域によっては人々に無理やり希望の実を食わせ、『生と死の逆転』を取得させようとするだろう。
 高レベルの探索者は存在だけで一級の兵器を上回る。それが多少の犠牲と共に量産できるのなら、絶対に行う連中は出てくる。
 勿論どれだけの確率で復活するかすら分かっていないのにそんなことをすれば、きっと……

「まあここから生きて出ないと、そもそも誰かに話すも何もないんですけどね! あはは……」
「ほんと最高、すごい笑った」
「全然顔笑ってませんよフォリアちゃん」

 くすりとも笑いが零れない中、どちらからともなく立ち上がる。
 ずっと座っていても話は進まない、戦わなければ生き残れないから。

 私と同様、これから先彼女の戦闘方法も、ユニークスキルが中心となるのは間違いない。
 七種類のユニーク武器を相手の相性によって使い分けるのは、相応の苦労がある分万能だ。
 問題はその分必要なスキルも多くなり、器用貧乏になる可能性が高いことだが……

「よっ、ほっ!」

 チェーンソーに乗りながら石を振り回している姿を見る限り、器用貧乏よりは器用万能になりそうだ。
 レベルが上がったことでステータスも上がったので、音の出るチェーンソーを使う許可を出した。
 今の彼女なら先ほどのように、一撃で死ぬということもないだろう。
 当然戦闘慣れは一切していないが、どうやら本人が相当に器用らしく既にらしい動きが出来ている。
 初めはなんだこいつと思ったが、これなら少なくとも背中を任せても問題ない程度には成長してくれそうか。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...