『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

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第百二十九話

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「ああ美羽か、今着いた。結城が着いてきちまってな……ああ、本人には覚える様に伝えた。そうだ、後で折り返すかもしれん」

 走り続けようやく辿り着いたのは四方を山で囲まれた町だった。

 木やコンクリートが燃える鼻の曲がるような臭い。
 きっと本来はごくありふれた町であったろうに、街路樹はへし折れ、家々は奇妙に・・・丸くがっぽり抉れ、道路は大きくひび割れていた。
 あちこちから火柱が上がり、未だにどこかからは絶叫や爆破音が響いてくる。

「酷い……」

 焼けたアスファルトを踏み、思わず漏れた言葉。

 正直大分気分が悪い。
 住んでいた人は全員逃げられたのだろうか、何も分からない。

「気を抜くなよ。市街地は物影が多い、モンスターがそこらに隠れている可能性もある」
「ん」
「ここからは俺の指示に従ってもらう。来いと言ったら絶対に来い、逃げろと言ったら徹底的に逃げろ」

 全力で駆けだし動き回ろうとした私をけん制する彼の声、大体動きは読まれているらしい。

 逸る気持ちはあるがここは従う。
 早歩き……とはいっても一般人からすれば走っているのと大して変わらぬ速度で町中を掛け、声掛けや家の中を覗いていくが、どうやらほとんどの人は避難し終わっているらしく、人影は見当たらない。
 町を大まかにぐるりも回った結果誰もいなかったので、恐らく皆町の外に逃げられたんじゃないか。

 よかった……町はいろいろ壊されてしまっているし家財など今後は大変かもしれないが、命さえあれば大体何とかなる。
 モンスターが遠くに逃げる前に討伐さえしてしまえば、今回はすぐに収束するだろう。

 それにしても変な町、ちょっと気味が悪い。

 明らかに物理的に破壊された痕以外にもなんといえばいいのか、町の風景がツギハギのようになっているのだ。
 家と家は三分の一程度の位置で全く違うデザインだし、建築物に限らず道のど真ん中だというのに電線が刺さっていたり……色々と無茶苦茶にも見える。
 もしかして町おこしの一環とかなのだろうか、今流行りの前衛的芸術……? 

 昔美術の教科書で見たピカソの絵を、町の風景に反映したらきっとこんな感じになるかもしれない。

「ねえ筋……肉……?」

 そう暢気に思っていた、横の彼が浮かべる表情を見るまでは。

「不味いな……大分進んでいる。お前ここに来るまでに一匹でもモンスターを見たか?」

 私が首を振り。彼の目元へ刻まれた深い皺がさらに寄る。

 そういえば見ていない。
 変だ、ダンジョンが崩壊したなら次から次へとモンスターが溢れるはず、それがここに来るまで一匹たりとも見かけていないというのはあまりに不可思議な話だ。

 他の探索者に倒された……とか……?

 でもそれならそれで変だ。
 ここに来るまで他の探索者なんて見かけなかった、さっきまで響いていたはずの戦闘音や悲鳴も気が付けばぴたりと止んでいて、町には空虚な静寂と私たちの上がった息だけが響いていた。
 いや待てよ、確か最初ここに来た時誰かの悲鳴が聞こえたような……

「――!」

『!』

 二人同時に振り向き頷く。

 悲鳴だ、消えてしまいそうなほど小さいのは相応に距離がある証拠。
 けれどこの静かな町にはよく響く、命の危機に喉から絞り出された大きな叫びだった。
 位置は……

「中心の方だな、行くぞ」
「私速いから先に行く」
「あ? 何言っ……」
「後で話す。『アクセラレーション』」

 どうせ本格的な戦いの時などには伝える必要がある、別にこのスキルなら隠す必要もないので遠慮はいらない。
 筋肉が疑問に振り向くよりも速く、既に私は私だけの世界へ踏み込んでいた。

 まず真っ先に大きく跳びあがり、しかし高く行きすぎぬよう屋根に捕まって勢いを殺しながら周囲を探った。
 『炎来』のあった都会と違って大きな建物が全くない、実に見晴らしがいいのは運がいい。
 歪な楕円形上に広がった町は恐らく元々森があった場所を切り開いて作ったのだろう、真ん中へ行くほどに家々が集まっていく分かりやすい形をしている。

 あれは……学校……?

 中心とはいえ離れているのではっきりとは見えない、しかし校内には人の影らしきものや、明らかにモンスターと分かる巨大な何かが見えた。
 目を凝らせばモンスターの足元にも服らしき鮮やかなものがちらついている、もしかしたら同業者探索者かもしれない。

「そっか……避難所……!」

 考えれば至極当然で、まず災害が起こって真っ先に行く場所といえば広い公園や学校、一般的に避難所指定されている場所だ。
 街の外に逃げた人もある程度はいるだろうが、残念ながら今回は全員そういうわけには行かなかったらしい。


「『解除』」


 長々と地面に足をつけるのを待つ必要もないので一旦解除。
 衝撃に落ち葉が舞い、顔の汗は地面へと滴り落ちた。

「――んだお前!?」
「学校が襲われてるみたい。『アクセラレーション』」

 間髪入れずに再発動。
 巻き上げられた砂は再び地へ落ちることも出来ず、風は私に追い抜かれる。

 ここから一直線に向かうなら……上か。
 普段ならともかく今は緊急事態、誰がモンスターと私による破壊痕の見分けを付けられるだろうか、きっとバレないばれない。
 急いで向かうのでその分は許してほしい、怒られたらおとなしくお金払おう。

 深呼吸。
 空気が胸を大きく膨らませ、やけに心拍が鼓膜を揺らすことに気付く。
 まるで何かのエンジンだ。ドッ、ドッ、ドッと何度も絶え間なく、もういけるぜと私へ語り掛けてくる。


「――――フッ!」


 地面がまるで砂のように柔らかい。
 アスファルトに舗装されたはずの地面がぐにゃりと抉れ、はじけ、背後へ置き去りになる。

 跳ぶ。

 ただ一直線に、この身一つで描かれたナナメ45度の放物線は曇り空に一筋の痕を残した。
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