『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

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第百四十三話

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 この人……もしかしてあの時の……!?

 脳裏に過ぎるのは一人の女性。
 炎来で死にかけた私を助けてくれた、冷たい声と目をしていたが優しい人だった。
 確か彼女も金髪で、こんなコートを着ていたはず。

 つい勢いに任せて彼女を起こそうと手を伸ばしかけ、冷静になれと止める。
 確か揺らしちゃダメなんだっけ……肩を叩いて、大声で確認が正しい方法だったか。

「大丈夫!? 聞こえてる!?」
「あ……あふ……」

 暗くてよく見えないが、意識が朦朧としているようで、結構大きな声を出しているはずな私の呼びかけにも曖昧。
 動きも緩慢でまともに話は出来そうにない、このままではまずそうだ。

 アイテムボックスから引っ張り出すのは、五本買った最後のポーション。
 小瓶の蓋を軽く押し開け、とろりと透き通った紅い液体が、月光の下露になった。

 もしこの人が『炎来』に居たあの人と同じなら、きっと同じ探索者……ポーションの効果もあるはず。
 仮に一般人だとしても特に意味はないだけで、害はない、はずだ。

 ポーションを飲ませるためコートの彼女を抱き起し……その軽さに目を剥く。

 まるで風船だ。
 彼女の身長は160か、或いはもう少しある。
 女性としては結構高身長な部類で、決してこんな軽さであって良い訳がないのに。

「飲める? ゆっくりでいいから……」

 ゆっくり、ゆっくり。
 逸る気を押さえつけ、慎重にその液体を口へ流し込む。
 元々大した量じゃない、でも今の彼女にはその一滴たりとて零す余裕はなかった。

 ガリガリだ。
 まともに食事なんてとっていないのだろうか、コートから見えた腕には肉なんて全然ついていない。
 もしかしてこのコートを着込んでいるのは寒いのか。こんな暑い夜なのに、まともに体温を維持すらできていないのか。

 どうにか液体を飲み干した彼女だったが、すぐにピクリとも動かなくなった。
 死んでしまったのかと一瞬心臓が跳ねたが、絶え間なく繰り返される安定した鼻息に気付き、すぐ胸をなでおろす。

 安心しただけかな。

「よっこいしょっと。今から町に行くから、寝てていいよ」

 背負われ寝ている人へ、聞こえもしない独り言を口から垂らす。

 どうしてこの人があそこにいたのか分からない。
 もしかしたら今回の崩壊に関わっているのか? それともやはりただの偶然?
 二回も偶然いいタイミングでダンジョンが崩壊する場所にいた、なんてあまりに出来過ぎていないか?  
 あ、でも私も『炎来』と『花咲』は偶然そのタイミングに居合わせたのか……じゃあ本当に偶然……?

 でも悪意があってなにかをする人じゃない……と、思う。
 倒れていた私を助けてくれた人だし、逃げろと忠告までしてくれたから。
 ともかく一度助けてもらったのだから、今度は私が助けよう。

 取りあえず容体は安定してるっぽいし、一旦私の町に連れて帰ってから病院に行った方が良いのかな。
 色々聞きたいこともあるし、町の総合病院の方が会いに行くにしても楽だし色々都合が効くよね。

 サクサクと雑草を踏みつけ、暗い森の中、月明かり明かりに誘われ進む。
 普通夜に森の中を歩くなんて自殺行為なのだろうが、町があった痕跡だろう、途中からはそこそこ整備された道が現れた。

 といってもそもそも、ここに来るまで通ってきた道なのだから、現れたというよりはたどり着いたの方が近いのかもしれないが。

 今日は色々あった、この小さい脳みそではあまりに処理しきれないほど。
 所謂キャパオーバーという奴だ、もう寝たい。



「極度の栄養失調による衰弱ですね、暫くは入院することになるかと。PPNを経てTPN、最終的には流動食と慣らしていくことになるでしょう」
「ふむ……なるほど……」

 蛍光灯に照らされたお医者さんのメガネがきらりと光った。

「意味が分からないので、もう少し分かりやすくお願いします」
「貴女のお母さんは全くまともな食事をせずボロボロの身体なので、入院して少しずつ、点滴から柔らかい食事と慣らしていきます」
「あい」

 実にわかりやすかった。

「じゃあ後はお願いできる、出来ますか? あ、そうだ。ついでに別にあの人母親じゃないです、拾っただけで」
「ん? あ、ああ、もう大丈夫です。彼女の容体は、私たちが責任をもって見るので」

 大丈夫だと胸を張られたので、あとはプロの人に任せることとする。
 あの調子では彼女、まともにお金を払う能力があるかも分からない……というか絶対ないだろう。
 入院費は私が立て替えるとして、今日はおさらばさせてもらうこととした。

 また後日見舞いに来た時には、いろいろと話せるといいな。

 それにしてもこれでようやく休める。
 あとは明日……今日浮かんだ一つの疑惑を確かめるだけ。
 もし彼が、筋肉が全てを知っていた上で全てを黙っていたというのなら、その時は……

 ああ、憂鬱だ。
.
.


「あ、あれ? 茂木君、急患の名前ってなんだっけ?」

 少女が去った夜の病棟で、白衣に手を突っ込んだ壮年の男が口を開く。
 後ろに立つ看護師はコクリと頷くと、簡易的に記されたカルテを捲り、そこに記された文字を読み上げた。

「えーっと……結城アリアさんだそうです。ポーチの中に入っていた、期限切れの保険証に書いてあったそうで」
「だよねぇ、複雑な家庭って奴なのかね。世知辛い世の中だなぁ」
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