233 / 257
第二百三十三話
しおりを挟む「良いのよ」
優しい笑み。
そこに私が彼女との約束を破ったことを非難するような感情は、これっぽっちとして含まれていない。
ほら、やっぱり。
ママは優しいからそうやって許してくれる。
こんなずるい喋り方ですら、ママにとっては意識するまでもないことで、当然のように受け入れてくれる。
予想通りの反応に喉の奥が苦しくなった。
もっと考えていれば、この反応は口に出さずとも予想できる。
善意や感謝を利用しているようなものじゃないか。
「だからっ! 私は琉希が言わなければ信じないで無視してたんだよ!? あれだけ言ったのに、結局ママを信じ切れないでっ!」
「六年も会ってなかったのよ? 数か月暮らした程度で完全に信じ切れるわけないわ」
赤の他人ならそれでよかったのだろう。
見知らぬ人間と数か月程度の付き合いで、いろいろあったけど上手いこと落ち着いたのならばきっと、終わりよければよしと頷ける。
でもこれは違う。
言ったんだ、もう一度信じるって。
その結果がこれ。
結局家族だなんだなんて言いながら、私は心の奥底で信じ切れていなかった。
私よりママと接してる時間の短い琉希が分かっていたことを、私は何一つとして分かっていなかった。
「違う! だから……私はまた間違えた……きっともっと間違える、また同じようなことをする! ごめん……ごめんなさい……っ」
今度は目の端が熱くなる。
泣けばもっと許されると思ってるのか?
違う。
泣いてママの憐れみを引けば、もっと優しい言葉をかけてもらえると思ってるのか?
違う。
ズルい奴だ、お前は。
溢れる程湧き出す自己嫌悪。
否定しようと必死に考えれば考える程、自分の中で自分を責める声が大きくなっていく。
「――それでいいの」
でも、やっぱり帰ってくるのは肯定の言葉で。
俯いた私の背中へ、そっと覆いかぶさる暖かみにまた涙が溢れ出した。
もっと怒り狂って罵ってくれればいいのに。
それなら、ああ、やっぱり私は悪い奴なんだと納得がいくし、もっと自分を責められるのに。
どれだけ言葉を重ねてもママは絶対私を怒ってくれない、許してしまう。
なのに……疑って、裏切った相手に慰められて、それが心のどこかで嬉しく堪らなくて。
「いつも正しい選択なんて出来ないわ。貴女だけじゃない。私だって、いつもこれが間違いないって胸を張って、何でも堂々と出来るわけじゃないの。もしかしたら、些細な事で魔が差してしまうかもしれないし、焦りから盲目的になることもあるかもしれない」
甘えた心が彼女の言葉を聞き続ける。
「ねえ、フォリアちゃん。ママを助けてくれた事後悔してるかしら?」
「し……してない! 絶対にしない!」
これだけは本当の言葉。
家族の真実、魔蝕という病気、そして複雑な感情を抱かざるを得ないものの、カナリアとの出会いは間違いなく大切なものだった。
それに……ママとこうやって話せて、本当に嬉しい。
もう、二度と話せないと思ってた。
全ては六年前の焼き直しで、どうせ何をしても世界が終わるのなら、真実を知ろうと無駄に戦う必要ないなんて思っていた。
でもこうやって知ってしまえば、やっぱりやってよかったと感じる。
「いつも一人で正しい選択が出来るわけじゃない、後悔しない未来を掴めるわけじゃない。でもフォリアちゃん、結局貴女は悩んで、苦しんで、それでも一番いいって思える選択を出来たのよね?」
「うん……」
「でもっ! でも……それでみんなに迷惑かけるかもしれないし……」
「フォリアちゃんはもし友達が一人で苦しんでいたら、凄く心配にならないかしら? 一人で抱えてる方が時として迷惑になることもあるのよ?」
「……っ」
ママの言葉はどれもこれも誰かに言われたことのある、或いはひどく心当たりのあるものばかりで、一言一言が胸に突き刺さった。
言われたことがあるなら、心当たりがあるのなら何故変えてこなかったのかと言われてしまえば、言い返せる言葉はない。
分かっていても変えられなかった。
その通りだと頷けても、何かが起こる度に目の前の事でいっぱいいっぱいになって、他の所まで意識が回らなかっただけ。
「それに、日本にはこういうコトワザがあるわ、三人集まってもんじゃを作る、と。一人では美味しいもんじゃを作れなくても、皆で力を合わせれば最高のもんじゃが出来るのよ」
「三人集まれば……もんじゃ……」
一人では出来なくても、他の人とならできる。
「だから友達や周りにいる人を大切にしなさい、そして辛かったらなんでも相談しなさい。フォリアちゃんがその人たちに本気で向かい続けたのなら、必ず貴女の助けになってくれるはずだから」
琉希が居なければ、ここまでたどり着くことは出来なかった。
いや、琉希だけじゃない。
今まで私はずっと悩んで、それでも一人で答えが見つからなくて、その度に誰かが助けてくれた。
本当に私は、誰かを頼っていいのだろうか。
「今回の琉希ちゃんみたいに、ね?」
そうしてママは、窓の端からひょっこりとこちらを覗きこんでいた二人へ、入ってくるよう促し優しく微笑んだ。
1
あなたにおすすめの小説
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます
内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」
――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。
カクヨムにて先行連載中です!
(https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)
異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。
残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。
一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。
そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。
そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。
異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。
やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。
さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。
そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。
不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる
六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。
強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。
死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。
再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。
※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。
※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~
蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。
情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。
アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。
物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。
それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。
その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。
そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。
それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。
これが、悪役転生ってことか。
特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。
あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。
これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは?
そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。
偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。
一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。
そう思っていたんだけど、俺、弱くない?
希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。
剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。
おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!?
俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。
※カクヨム、なろうでも掲載しています。
無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜
あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。
その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!?
チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双!
※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
母は何処? 父はだぁれ?
穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。
産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。
妹も、実妹なのか不明だ。
そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。
父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。
母は、どこへ行ってしまったんだろう!
というところからスタートする、
さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。
変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、
家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。
意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。
前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。
もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。
単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。
また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。
「小説家になろう」で連載していたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる