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一年生編

幼馴染み妹と先輩

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「さて、そろそろ始めよか」

 彼女が言っているのは一セット六ゲームの試合をしようと言っているのだ。

「え、今日は楽しんでやろうよ。 誠一や美優ちゃんもいるんだから」
「ええやん、皆で試合しよや」

 そう言って僕らを見る。

「二人もええやろ?」

 そう言われても、美優ちゃんは体力の限界だろう。

「久しぶりに先輩と戦うのもいいですね~」

 意外にも美優ちゃんは好戦的だった。
 そういえば、美優ちゃんも紅羽が卒業するまで部活をしていた。

「お、それじゃあ決まりやな」

 僕の意見は完全無視ですか、そうですか。

「それじゃあ、対戦票はどうしよう」
「私と紅羽、中村と美優でええんちゃう?」

 あからさまな対戦票。
 それ、君が紅羽とやりたいだけなのでは?

「いいえ、私と綾辻さんでお姉ちゃんとお兄ちゃんです」
「それなら、僕を除く総当たり戦にしたら?」

 正直、これが一番いい。
 それぞれがやりたいなら、これが最も効率いい。

「なんや、もうええんか?」
「うん、僕は審判でもしとくよ」
「ほな、それで……暁姉妹もええか?」
「誠一がいいなら」「お兄ちゃんがいいなら」
「ほな、ルールはどうする?」
「時間もあるし、三ゲーム選手でどう?」

 時間は残り四十分ほど、丁度いい時間だろう。

「時間もあるし、それでええ」

 そう言うと、綾辻さんは美優ちゃんを見る。

「それじゃあ、美優やろか」
「……はい」

 そう言って美優ちゃんと綾辻さんの試合を開始する。
 サービスゲームは美優ちゃんからだ。

「さぁ、かかってきぃ」
「……」

 そう言うと、彼女はカットサーブでサービスラインぎりぎりに打つ。

「うぉ」

 綾辻さんは意表を突かれたのか、必死に追いかけクロスロブで何とか返す。
 しかし、対応が遅れたせいで外に追いやられてしまう。
 スピンロブで体勢を立て直そうとするが、美優ちゃんはそれをバウンドしたと同時に打つ。
 ライジングショット。
 普通、球筋の頂点で打つことが基本だが、スピンロブは頂点で打つことは無理なため落ちてくる所で打つ。
 だけど、彼女の打ったライジングショットは跳ね上がった時に、打つため自分で打点を決めることが出来る。
 タイミングは難しいが、出来ればタイミングを変えることが出来るのだ。
 美優ちゃんの球を追いかけず、彼女はその場に立ち止まる。
 追いかけてもあの距離は追いつけないので、追いかけるのをやめた。

「あれ、先輩が諦めるなんて珍しい」

 確かに、彼女はどんな時でも喰らいつくテニスだった。
 追いつけないとわかっていても必死に追いかけ、時にはそれで窮地を脱したことが多い。

「やるやないか」

 今までの彼女とは少し違う感じがした。
 美優ちゃんの挑発にニヤリと笑みを浮かべる。
 そうして、試合は進んでいく。
 サービスゲームは美優ちゃんがとり、1-0になった。
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