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紅&克也 クリスマス編
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翌日。登校した克也は、いつもの席に紅が見当たらないことで、落ち着かなかった。
そして、休み時間にその理由を知って、驚きの声を上げた。
「え、うそ! 紅が、風邪……」
携帯に送られてきたメッセージを見て茫然としていると、それを盗み見た結奈も溜息を吐いた。
「そうよねぇ。健康優良児のあの娘が、まさかねぇ……克也。あんた、何かしたんじゃないの?」
「いや、何も……」
克也は、紅にクリスマスプレゼントを用意しているだけで……まさか、彼女が自分のために用意しようとしているプレゼントがきっかけで風邪を引いただなんて、想像もしていない。
「どうしよう……」
口からはそんな弱気な言葉が漏れるが、彼の心の内は決まっていた。
今日は塾があろうがなかろうが、そんなことを気にしている場合ではない。放課後に、紅の家までお見舞いに行こう。
そう決意する克也は、紅の体調が気になって仕方なくて……その日の授業は、全く耳に入らなかった。
その日の帰り道。
克也はいつもの街灯の下、自らの家とは別方向に歩を進めた。とは言っても、紅の家にはお邪魔したことがない。だから、結奈が克也の前をスタスタと歩いており、彼は緊張した面持ちでその後を付いて行った。
「ここよ。くーたんの家」
結奈が指す先には、ベージュ色の壁をした二階建ての家があった。克也の自宅と同程度の規模だけれど、灰色の壁をした克也宅よりは若干、お洒落にも見える。
「くーたん?」
「ええ。紅だから、くーたん。いい渾名でしょ?」
結奈はそう言って、ニッと片目を瞑りウィンクした。渾名の布教活動も順調そうだ。
「うーん……でも、そんな呼び方をしたら、紅、怒らない?」
「あはは! そりゃ、私が言ったら機嫌悪くはなるけど。あんたが言ってやったら、喜ぶんじゃない?」
「そうかなぁ……」
「ええ! きっと、喜ぶわよ。それじゃ、私は晴人先生と創作活動の予定があるから。健闘を祈る!」
「えっ? 結奈さんは、行かなくていいの?」
親友の身を誰よりも一番案じている筈の結奈に尋ねると、「なぁにを、とぼけたことを言ってるのよ」と言いながら、彼女は克也のでこをピンとはじいた。
「愛しの彼氏が一人でお見舞いに来る方が、くーたんも喜ぶに決まってるでしょうが!」
「えっ……いや、でも。このプリン、結奈さんも一緒に選んだんじゃ……」
克也は、彼女達が好きだという『ルマン館』の袋を見詰めた。
「ああ、もう。それはいいから。おっきい貸しってことにしとく。そんなことより、愛しの彼女がお待ちかねよ。さっさと行きな!」
「う……うん」
結奈の迫力に圧倒されて、おずおずとインターホンの前に立つ。そんな克也を見て、彼女はクスッと笑った。
「じゃあね! イチャつくのもいいけど、風邪うつらない程度にね!」
「なっ、いや……。イチャついたりなんか……」
真っ赤になった克也が振り返った時には、結奈はもうすでに、右手だけ少し挙げて、颯爽とした後ろ姿を見せていた。
「結奈さん、ありがとう……」
いつにも増して男前な結奈の後ろ姿に、克也はそっと呟いたのだった。
インターホンを三回鳴らすと出た掠れ声に、克也が自らの名前を告げると、程なくして元気なくドアが開いて、寝間着にカーディガンを羽織った紅が顔を覗かせた。
「えっ、紅……」
「克也ぁ……」
紅の目は赤く、涙が滲んでおり、顔色はやはり悪かった。しかし、克也は不謹慎にも、普段は見ない彼女の寝間着姿に目がいき、顔が熱ってしまい……すぐに頭を振って、邪念を打ち消した。
「結奈さんに家を聞いて、お見舞いに……その、体調、大丈夫?」
「うん……ごめんね、克也。クリスマス……」
「それは、全然、大丈夫だから。その……上がってもいい?」
「うん……」
体調の悪い彼女を寒い所に立たせておくことはできない……そう思って、克也は自然に紅の家に上がったのだけれど。
(そう言えば、紅の部屋に上がるのも、初めてだ……)
すぐにそんなことに気付いた彼は、ガチガチに緊張してしまって。ぎこちなく、フラフラの彼女の後を付いて行った。
初めて入る紅の部屋は、グッズで溢れているなんてこともなく、女子の部屋にしてはすっきりしていたけれど、ベッドの上とか、所々に置かれている小動物のぬいぐるみや、勉強机の上に飾られているハムスターの写真なんかが、彼女らしさを醸していた。
「ねぇ、紅。ご飯は……食べてないの?」
克也は、部屋のテーブルの上に所在なさげに置かれている、昼食と思われる煮魚やおひたしを見た。紅の両親も共働きみたいなので、どうやら、今朝、急に体調を崩した彼女のお粥までは用意できなかったようだ。
「うん。食欲なくて」
「そっか……じゃあ、ゆっくり休んで」
「え、でも。折角、克也が来てくれたのに……」
フラフラしながらも何かを用意しようとする彼女を、克也は慌てて制した。
「いや、僕のことは気にしないで。紅、寝た方がいいよ」
そう言う彼に促されてベッドに入った紅は、克也の手をギュッと握った。
「克也……お願い。どこにも行かないで……ずっと、手を握ってて」
目を潤ませてそんなことを言う紅は、いつもの凛とした彼女からは想像つかないほど、弱々しくか細くて……克也はギュッと、熱を持つその手を握った。
「うん……紅。ずっと、握ってるから。安心して……ゆっくり、おやすみ」
高い熱にほだされて、すっかりといつもの調子を失った紅は、克也の手の温もりを感じ、優しい声に安心して……すぅっと深い眠りに吸い込まれていったのだった。
そして、休み時間にその理由を知って、驚きの声を上げた。
「え、うそ! 紅が、風邪……」
携帯に送られてきたメッセージを見て茫然としていると、それを盗み見た結奈も溜息を吐いた。
「そうよねぇ。健康優良児のあの娘が、まさかねぇ……克也。あんた、何かしたんじゃないの?」
「いや、何も……」
克也は、紅にクリスマスプレゼントを用意しているだけで……まさか、彼女が自分のために用意しようとしているプレゼントがきっかけで風邪を引いただなんて、想像もしていない。
「どうしよう……」
口からはそんな弱気な言葉が漏れるが、彼の心の内は決まっていた。
今日は塾があろうがなかろうが、そんなことを気にしている場合ではない。放課後に、紅の家までお見舞いに行こう。
そう決意する克也は、紅の体調が気になって仕方なくて……その日の授業は、全く耳に入らなかった。
その日の帰り道。
克也はいつもの街灯の下、自らの家とは別方向に歩を進めた。とは言っても、紅の家にはお邪魔したことがない。だから、結奈が克也の前をスタスタと歩いており、彼は緊張した面持ちでその後を付いて行った。
「ここよ。くーたんの家」
結奈が指す先には、ベージュ色の壁をした二階建ての家があった。克也の自宅と同程度の規模だけれど、灰色の壁をした克也宅よりは若干、お洒落にも見える。
「くーたん?」
「ええ。紅だから、くーたん。いい渾名でしょ?」
結奈はそう言って、ニッと片目を瞑りウィンクした。渾名の布教活動も順調そうだ。
「うーん……でも、そんな呼び方をしたら、紅、怒らない?」
「あはは! そりゃ、私が言ったら機嫌悪くはなるけど。あんたが言ってやったら、喜ぶんじゃない?」
「そうかなぁ……」
「ええ! きっと、喜ぶわよ。それじゃ、私は晴人先生と創作活動の予定があるから。健闘を祈る!」
「えっ? 結奈さんは、行かなくていいの?」
親友の身を誰よりも一番案じている筈の結奈に尋ねると、「なぁにを、とぼけたことを言ってるのよ」と言いながら、彼女は克也のでこをピンとはじいた。
「愛しの彼氏が一人でお見舞いに来る方が、くーたんも喜ぶに決まってるでしょうが!」
「えっ……いや、でも。このプリン、結奈さんも一緒に選んだんじゃ……」
克也は、彼女達が好きだという『ルマン館』の袋を見詰めた。
「ああ、もう。それはいいから。おっきい貸しってことにしとく。そんなことより、愛しの彼女がお待ちかねよ。さっさと行きな!」
「う……うん」
結奈の迫力に圧倒されて、おずおずとインターホンの前に立つ。そんな克也を見て、彼女はクスッと笑った。
「じゃあね! イチャつくのもいいけど、風邪うつらない程度にね!」
「なっ、いや……。イチャついたりなんか……」
真っ赤になった克也が振り返った時には、結奈はもうすでに、右手だけ少し挙げて、颯爽とした後ろ姿を見せていた。
「結奈さん、ありがとう……」
いつにも増して男前な結奈の後ろ姿に、克也はそっと呟いたのだった。
インターホンを三回鳴らすと出た掠れ声に、克也が自らの名前を告げると、程なくして元気なくドアが開いて、寝間着にカーディガンを羽織った紅が顔を覗かせた。
「えっ、紅……」
「克也ぁ……」
紅の目は赤く、涙が滲んでおり、顔色はやはり悪かった。しかし、克也は不謹慎にも、普段は見ない彼女の寝間着姿に目がいき、顔が熱ってしまい……すぐに頭を振って、邪念を打ち消した。
「結奈さんに家を聞いて、お見舞いに……その、体調、大丈夫?」
「うん……ごめんね、克也。クリスマス……」
「それは、全然、大丈夫だから。その……上がってもいい?」
「うん……」
体調の悪い彼女を寒い所に立たせておくことはできない……そう思って、克也は自然に紅の家に上がったのだけれど。
(そう言えば、紅の部屋に上がるのも、初めてだ……)
すぐにそんなことに気付いた彼は、ガチガチに緊張してしまって。ぎこちなく、フラフラの彼女の後を付いて行った。
初めて入る紅の部屋は、グッズで溢れているなんてこともなく、女子の部屋にしてはすっきりしていたけれど、ベッドの上とか、所々に置かれている小動物のぬいぐるみや、勉強机の上に飾られているハムスターの写真なんかが、彼女らしさを醸していた。
「ねぇ、紅。ご飯は……食べてないの?」
克也は、部屋のテーブルの上に所在なさげに置かれている、昼食と思われる煮魚やおひたしを見た。紅の両親も共働きみたいなので、どうやら、今朝、急に体調を崩した彼女のお粥までは用意できなかったようだ。
「うん。食欲なくて」
「そっか……じゃあ、ゆっくり休んで」
「え、でも。折角、克也が来てくれたのに……」
フラフラしながらも何かを用意しようとする彼女を、克也は慌てて制した。
「いや、僕のことは気にしないで。紅、寝た方がいいよ」
そう言う彼に促されてベッドに入った紅は、克也の手をギュッと握った。
「克也……お願い。どこにも行かないで……ずっと、手を握ってて」
目を潤ませてそんなことを言う紅は、いつもの凛とした彼女からは想像つかないほど、弱々しくか細くて……克也はギュッと、熱を持つその手を握った。
「うん……紅。ずっと、握ってるから。安心して……ゆっくり、おやすみ」
高い熱にほだされて、すっかりといつもの調子を失った紅は、克也の手の温もりを感じ、優しい声に安心して……すぅっと深い眠りに吸い込まれていったのだった。
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