碧い月

いっき

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束の間の日常

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 朝食は木苺のジャムをつけたお手製のパンで、エレナは毎日、それを美味しそうに頬張った。食欲旺盛なエレナを見るにつけて、僕は彼女の時間が残り僅かなことなんて忘れてしまうほどだった。

「ねぇ、ジョゼフ。木苺、摘みに行こうよ」
 朝食後には毎日のように、弾ける笑顔を見せてくれた。僕はそんなエレナと一緒に木苺摘みに行って……輝く彼女を自らのキャンバスに描くのが、この上ない幸せだった。
 雲一つなく青々と広がる空に、緑色に茂る葉の中で紅く輝く木苺、桃色のレンゲの花の上で羽音を響かせて金色に輝くミツバチ。そして、それら……豊かな自然と、美しく戯れるエレナ。夢かとも思えるような時間は飛ぶように流れた。

 木苺摘みから戻ると、エレナは一角に作った自分専用のアトリエでくつろいだ。その空間には、僕の絵の中でも特に彼女のお気に入りのものが飾られていた。
 そう……あの日、僕から『買った』碧い月の絵、木苺の絵。そして、僕が描いた彼女。それらはまるで毎日、輝きを増していくようだった。

 しかし、夜になると僕達は不安に押し潰されそうになった。それは、一日が終わって……また一つ、永遠の別れが近づいたから。

 そんな気持ちを反映するのか、ベッドのエレナは、昼間の彼女からは想像もつかないほどに寂しそうで辛そうで……僕は意図的に目を背けていた、彼女の『死』を直視せざるを得なかった。

 僕には伝わってきた。彼女は身が引き千切られるほどに不安なんだ。きっと……目を閉じてしまうともう二度と目覚めることができないような気がして、眠るのが恐ろしいんだ。

 だから、また次の日を迎えられるように……朝陽を浴びた、輝くような彼女と同じ時を過ごせるように。祈りながら、僕は彼女の手を握った。ギュッと、強く……決して離さぬように。
 すると彼女は安心したように、長い睫毛の目をゆっくりと静かに閉じた。僕はエレナが眠りにつくまでずっと手の平に彼女を感じて……僕自身の温もりを彼女に与え続けたのだ。

 日が開けて朝陽を浴びて……エレナがその目を開けると僕はホッと安心して。彼女もまるで、残された時間を精一杯燃やし尽くすかのように、飛び切り元気に振る舞ったのだった。
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