グレーゾーン高校生

くじら山

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自分

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――キーンコーンカーンコーン

授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。ハッと眠りから覚めれば前の席のクラスメイトがこちらを見てクスクスと笑っている。私は急いで立ち上がり挨拶を済ませた。自分が一番後ろの席だった事を幸いに思いながら勢いよく座った。

「お前また寝てたよなー。さっすが優等生はやる事が違うねぇ~!」

その一声に続いて煽てるクラスの人たち。それに得意げにコメントを残す。いつも通り。しかし、こんな馬鹿学校で成績トップも当たり前なのだ。まあそう見下している自分も馬鹿だが。

「鳴海いる~?」
「鳴海~食堂~。」

 ふと自分を呼ぶ声が教室のドアの方から聞こえてきた。
鳴海優雨(なるみゆう)。自分の名前だ。無論嫌いだ。こんなどっちが名前か分からない名前。男か女かすらも分からない。昔から苗字の『鳴海』を反対から呼んで『みるな』そう言われ続けた苗字。寝起きに呼ばれたことと苗字を呼ばれたことに嫌悪感を少し感じながらいつものゆっくりした口調で答える。

「鳴海いるよーちょい待ちー。」

  昼休みはいつも別のクラスで食べるはずだが今日は食堂で食べるようだ。私は一年生の時に仲良くなったグループに連れられて食堂に向かった。まあ満更でもない。一丁前に気になっている人がいるのだから。西条優衣(さいじょうゆい)。一つ下。高校一年生。生徒会で知り合った後輩だ。無表情で無口。一目見た時から自分を見ているような不気味な感覚を覚えて人間的に興味を持ち始めたが、いつの間にか異性として意識しだしていたようだ。だからと言って付き合いたいかと言われたらそうでもないのだが。そんな事を思いながら菓子パンの袋を開けた。

「ほら…あの先輩だよ…優衣くんがいつも話してる先輩…。」
「うっわ…でも可愛いよね…。」
「可愛いってか綺麗…。」

こちらを見ながら小声で話している女子生徒がいる。制服の胸の刺繍の色からして一年生か。

「やっぱ流石だわ~優雨先輩全然知らねえ後輩にまで綺麗って言って貰えてるあたりね。」
「まじそれな?でもむこうも流石だわ~優衣くん?だっけ?イケメンだしモテそうだからファンもいっぱいだわ。」
「その人気のイケメン後輩のお気に入りの鳴海さすが。」
「まずうちらがレベチに可愛いと思うんだけど?」
「それはまじで分かる~!」

同じグループの友達が口々に自分たちを褒めだし始める。
うん。知ってる。お気に入りなのも。自分がある程度顔が整っていることも。自分が一緒に行動するグループの人達の顔も整っていることも。
今ここで謙遜すればいい。照れ笑いすればいい。それが一番好かれるから。
――なんてつまらないのだろう。やめよう、またこんな事考えていたらますます普通では無くなる。食べ終えた菓子パンの袋をテーブルに押さえつけて綺麗に畳む。すると、自分のスマホから振動が伝わった。私は誰からの着信か疑問に見れば 、少し口角が上がった。例の後輩からだ。
友達と話しながら菓子パンを頬張る自分の写真が送られてきていたのだ。心の中で少し笑う。
――面白い。なんて行動が読めなくて面白いのだろう。正直こんなに無表情で感情が読めなくて行動が読めない人は初めてである。自分が惹かれてしまうことも自分で納得してしまうのだ。
撮られた写真の方向に目を向ければ友達とふざけて笑っている後輩の姿があった。自分と話す時は笑わない人が笑っている。いや、正確に言えば話さない。殆どジェスチャーと筆談でしか会話はしない。後輩も私も声を出すのが嫌いなのだ。まあ最近はこの後輩を生きる糧として生きている。生徒会以外では全く接点は無いのだが。

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