虚ろな光と揺るがぬ輝き

新宮シロ

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32 ~ヴォルフォスVSライム~

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「意外かもしれないが、賑やかなのは好きなんだよ。私は」
 割れんばかりの歓声の中、騎士団最強の男の声は研ぎ澄まされたレイピアのように挑戦者を貫いた。
 「口角上げてんのに目、鋭すぎだろ…」
 辛うじて笑って返せたが、一歩後ずさったことはバレているだろう。それほど二人の間には圧倒的な経験の差があった。先日のイノシシ男とは違う。わかっていたことた、いざ目の前にすると存在の圧力に押されてしまう。
 俺はなぜこんな戦いに身を投じたのか。頬を一筋の汗がすっと落ちる中、そんな思考が生じた。
 強くなりたいから?この前の長槍を使う虎のような強敵がまだ向こう側にいるから?
「それもある…けど。やっぱり俺は男の子なんだよな…」
 この世界に来てからいつも側にいる。そして今は客席で俺の背中見つめる彼女の前で敵前逃亡はできない。握った左拳で汗を拭い前へ踏み出す。
「あんまり疲れて部下達が見てる中で無様な姿は見せないでくださいね」
 呪文を口にし剣を呼び出す。ヴォルフォスも同じようにして呼び出した剣は二刀。それらを逆手に持ち低く構える。
「君もマリナくんに幻滅されないように。ね」
 彼が構えると会場が一気に静まり返った。始まりの時を息をすることなく待ち望んでいるかのようだ。
 俺も浅くなりつつあった呼吸を無理やり戻すように深呼吸をした。
 緊張の面持ちで審判の男が叫んだ「試合開始!」
 同時にヴォルフォスが動いた。マリナの情報によると彼はソル系の力を持ち圧倒的手数と、その攻撃を変幻自在に繰り出す高速移動によりあらゆる敵を蹂躙していっているらしい。
「くっ…!」あの間合いを一瞬で!?
 知っていなければこれで終わっていた。やつの右手からの剣撃を眼前で防いでいた。苦々しく口元も歪める俺に反して彼はニヤリと返した。
「私にはまだあるよ。もう一刀」
「ちぃっ!」
 振り切るより早く素早く後退し距離をとる。剣筋の速さが生む風を全身に受け体勢を立て直す。
「おめでとう、即死は免れたね。さすがだ」
 両手を広げ観客を煽る。こっちは寿命が縮んだっていうのに、あっちは余裕の笑みを浮かべてやがる。
「即死は無かったけど」と、奴が俺の顔を指した。
 もしやと思い右手で触れるとピタッと濡れる感触がした。
「殺す気満々じゃないですか、騎士団長」
「君なら躱わせると踏んだんだよ。その通りになったじゃないか」
 何がその通りだ。そうなる為にわざと一間おいて振ったくせに。おまけに合図までくれて。
 右手に付いた血をスボンで拭き、敵を見据える。こっちも殺す気でいかないとまずい。剣を握り直し、息を吐く。
「そんなつもりは無かった筈ですがちょっと気が緩んでたみたいです。では改めて、行きますよ…!」
 俺の啖呵にもニヤリと応じ腰を落とした。
「…っ!」右へ駆ける。奴は一瞬で懐に入り込んでくるスピードを持っている。常に動いてなければすぐに致命的な一撃をもらうことになる。
 これまで戦いを踏まえて少しわかったことがある。俺はどちらかと言えばルナ系の力を持っているようだが、攻撃を防ごうが喰らおうが力が溜まる気配は感じられない。虎やバッディーラ戦で感じたあの力。恐らく自身の危機がトリガーになっている可能性が高い。ならば通常の剣技を繰り出していくしかない。
「くそっ…!」
「もっと早く動けるだろ?」
 土煙をあげながらキィンキィンと鉄と鉄が弾ける音がスタジアムに響く。完全に追いつかれている。
「さすが騎士団最強の戦士だ…」
「最強はまだまだこんなもんじゃないよ」
 ヴォルフォスの双剣が赤い光を帯びた。確かにこれから更なる猛攻が来ることは火を見るように明らかだ。
「さあ、披露してあげるよ。私の技を」
 そう言うと双剣の騎士は愛剣を宙に放った。
「曲芸師か…いやそれとは全く違うな」
 ヴォルフォスが投げた炎の剣は彼の周りを旋回し再び戻る。そしてまた投げる。それが素早く大きな規模でなされている為炎の障壁ができていた。
「ちなみに、遠くに投げてもこうなるよ?例えば、敵の方とか」
 未だ澄ました表情の団長に対し、俺が額に汗をかいているのは炎の熱のせいじゃない。
「さあ、ソルル最強の技を見せてあげよう。少しだけ、ね」
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