虚ろな光と揺るがぬ輝き

新宮シロ

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13 ~その火は消えず、されど灯さず~

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 幸せが一瞬にして絶望へ変わる。2度目のことだろう。1度目は10数年前、あの事故にあった時。そして今回のこれはその比じゃない。
 私は何年も何年も想い続けてきた人と結ばれた。素敵なペンダントを貰い、綺麗な景色の中で愛しい人と口づけをした。その直後だった。彼がえずき、同時に口の中に何かが入ってきた。反射的に彼の身体を引き離し目の前の光景に戦慄した。
「来夢…くん?」
 彼の口の顔は黒く汚れていた。
「かはっ…」
 口から飛んできた何かの塊がまりあの頬に付き垂れていく。彼の瞳はこちらを向いているが、彼の目は私を捉えていない。
「来夢くん!!」
 無意識のうちに彼の焦点を定めるべく頬に手を当てたが彼の身体に触れた瞬間、その異常性に気がついた。濡れている…?汗?何か分からない。なんなのこれは…!?
 少しゴンドラが進むと中に月の光が入り全てを教えてくれた。彼が吐き出したものは彼の血。そして頬に付いている液体は、これも血だった。
「あ、あぁ……」
 私はただ震えて見ていることしかできなかった。彼の全細胞から血が噴き出し真っ赤に染まった彼が溶けるようにゴンドラに垂れていくのを…。
「いやあああぁぁぁーーーー!!!」
 血の海で横たわる来夢くんだったものにすがり私は叫んだ。叫んで叫んで叫んで…この後のことは覚えていない。
 目が覚めると病院のベットにいた。一瞬、過去に戻ったのかと思った。あの事故の後、病院に連れて行かれて治療をしてもらったのか、と。
 だがそんなことはなかった。目覚めた私は21歳。少ししてお見舞いに来てくれた人達も新しい記憶にある人物達だった。前日泣いたのだろう。皆んな目が真っ赤だった。それを見て私は発狂し、吐いてしまった。観覧車も血液も充血した目でさえも。現在の私にとっては忌むべき存在となってしまった。それを見た瞬間私は私を失う。
「もう生きることに意味がなくなっちゃった」
 その結論に至るまで日数は必要なかった。学友、先生が帰り夜が来ると抜け出して屋上に登った。フェンスを眺めた時にフッと息が漏れた。
「昔の来夢くんと同じだ…」
 不意に瞳から溢れる液体。血ではないと思う。涙だろう。何の?過去の来夢くんが抱いた苦しみを感じて?自分が今からしようとしていることへの恐怖心?来夢くんがいないから?
「知らない」
 そんなことはもうどうでもいい。今から彼のもとへ行くのだから。
 フェンスに手をかけ、足をかけ、登っていく。もうこんな人生いらない。終わらせよう。それだけを考え手足を動かす。あっという間にフェンスに座って街を眺めていた。これが最後の光景…。
「私が見る最後の光景がこんなに綺麗でいいのかな…」
 暗闇の中、建物の明かりが点々と灯っている。来夢くんが言ってくれた「灯火」って。私は彼の灯火だった。灯火だからこの世界にいられたと今は思う。
「じゃあ、消すね」
 もう必要ない、不用品の、不良品の私。一つ深呼吸をする。さようなら。
 両手を大きく広げてそのままの姿勢で前に倒れる。後は重力が私を消してくれる。来夢くんに会いたい。来夢くん。
「…っ!!」下を見た瞬間全身の血が駆け巡るのを感じた。それは死への恐怖ではない。今まで気がつかなかったそれが月の光に照らされ存在感を放った。
 若干の吐き気を催したが何とか堪え、後ろ手でフェンスの網目を右手で掴んだ。そして左手は、、、
「トパーズ…」
 来夢くんがくれた私の証。来夢くんとの繋がり。私は、私は…。
 これを最後に私の中の時計は針を止めた。来夢くんがくれたガラス玉と共に私は死を待つことにした。

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