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15 ~闇夜に舞う紅~
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「まりあ…?」
呼びかけた途端、彼女が首を傾げ問い返した。その声も俺がかつて聞いていた音色と酷似していて鼓動を少し早める。
「違います。私は…」
そこまで言って彼女はハッとした表情を浮かべ、こちらをジッと見つめだした。
やがて希望と不安の混在した表情を浮かべ恐る恐る口を開いた。
「ライツ…なの?」
そう呼ばれた瞬間思わず、えっ?と漏らしていた。だがすぐに否定し名を告げた。
「俺は来夢です。天崎来夢」
告げると彼女も肩の力が抜けたように一つ息を吐いた。
「私はマリナ。マリナ=グレイスです。すみません、あなたが知り合いに似ていたもので」
照れたように微笑みながら告げる彼女をただじっとしみていた。その笑顔もまりあと瓜二つ。あり得ない、のか?世界には自分と同じ人、ドッペルゲンガーがいると言われている。そこから推測するとマリナと名乗る彼女はまりあのドッペルゲンガーなのだろうか。しかし果たしてあり得るのだろうか?しかもここは異世界だろ?
二、三度首を振り、頭を掻く。仮にそうだとしても俺の知ってるまりあは地球にいる川崎まりあ、ただ一人なんだ。そう無理矢理思考を纏め軽く頭を下げる。
「いえ、こちらこそ」
再び彼女を見るとその瞳はジッとこちらを観察するように上から下へ、そして上へ。また目が合うと感心したように頷いた。
「けど本当にそっくり。名前も一文字違いだし」
「俺も。知り合いに、凄く似てるから驚きました」
元いた世界での来夢とまりあ。こちらの世界でのライツとマリナ。どこかシンパシーのようなものを感じる。もしや以前関わった人たちは違う存在としてこちらの世界でも存在しているのかもしれない。そしたらまた友達になれるのか…。物語の主人公みたいにこの世界で第二の人生を送る未来を想像したが、無理にその思考を振り落とした。
「それじゃあ」
そういって彼女の横を抜ける。まりあと幸せに暮らす以外の未来は想像できない。来世で、今度こそ。その為にこの世界からはすぐに離脱しなければならない。そうしなければ魂までも死んでしまう。そんな気がする。
「待って」
彼女が俺の手を掴んだ。柔らかく人の温もりが左手から伝わる。
思わず振り向いていた。不安そうな顔でこちらを見ている。
「何で、その…」
俺の手を握る力が少し強くなる。振り解けない。もちろんそうしようと思えばできる。しかしその手からは筋力以外の力を感じる。
彼女の言いたいことは分かる。だが何を言えばいいか分からない。
それから暫しの沈黙が訪れた。本当のことを話すべきか、話すとしたらどこからどこまで。この世界に転生したということは一般的なことではないだろう。事細かに説明ふれば不要なトラブルを招いてしまう恐れもある。
来夢が思考を巡らせている最中も彼女は黙って俺を見ている。
「生きる理由がなくなったから」
やがて弱々しく答えると彼女の手がするりと落ちた。会釈して踵を返す。歩き出すと今度は後ろから抱きしめられた。
「お願い、生きて…」
背中越しでも彼女の表情が分かる。それほどにか細く、無理に解けば彼女が壊れてしまいそうだった。
「うん…」
そう答える以外に選択肢は無かった。まりあと似ているからか、彼女のことを傷付けたくない。笑っていてほしい、そう感じている。
ゆっくり振り返ると、ありがとうと告げられた。その綻んだ表情を見ていると俺も嬉しくなった。そのままの状態が少しすると。
「…っ!」
背後から殺気のようなものを感じた。彼女も同じように感じたのだろう。気配の方へ目をやり、構える。
ザザザッ!葉が激しく擦れる。何かが近づいている。そしてそれはもうすぐ…。
「あれは…!」
彼女が息を呑む。そして前に立ち俺を制する。
「下がって!」
小さく頷き一歩引く。音が大きくなっている。恐らくそれはもう現れる。
俺が下がったのをチラリと確認すると右手を前に出し何かを掴むような形にした。
「ベイルザジェイル」
そう口にすると手の周りが赤く光り、一振りの剣が現れた。刀身は薄赤く、鍔は炎のように美しく煌めいている。
握ると素早く下段に構える。そして刹那の拍子に音の主が上空から現れた。紫色の鱗にトカゲのような顔。その姿は竜人というのか。左手に持った小さな木の盾で胴を守りつつ右手の曲刀を上段で構える大きく振りかぶる。そして彼女を射程に捉えると。
ガキンッ!!
振り下ろされた剣は彼女の切り上げとぶつかると大きな金属音とともに周囲へ衝撃が走った。踏ん張りヤツの頭上を見る。そこには40と書かれてあった。つまりレベル40ということか。
対する彼女のレベルは、確認できない。一体彼女のレベルはどれほどなのか。目の前の竜人に対する反応から恐らく圧倒的ではないことは想像できる。勝てるのか。
胸の奥がじわりとした。彼女を失いたくない。しかしその恐怖心とは裏腹に彼女の剣さばきは見事なもので竜人の剣をことごとく弾いている。だが決め手となる一撃が入らない。そして…。
「ぐっ…!」
隙をついたヤツの盾攻撃が彼女の腹部にヒットし、数メートル飛ばされた。ヤツはそのまま大きく息を吸うと火を吐いてきた。
「マリナ!!」
地面を蹴り、叫ぶ。そのまま竜人へ体当たりする。後方の木へ直撃し一瞬怯んだがすぐに来夢の方へ突っ込んでいく。速い!そう感じた時には右手の曲刀が振り下ろされる直前だった。
「うわぁ!」
無意識に身体が硬直してしまった。丸腰で刀を相手にすることがこんなに怖いとは…。まずい、動けない。恐怖に目を閉じ、縮こまる。殺されるのか、俺は…。
「はぁ!」
暗闇の中、すぐ近くに感じたのはまたあの金属音だった。顔を上げると彼女の剣があった。そしてそのすぐ奥には…。
今しかない。渾身の力を込めて拳を打ち出す。ヤツが左手の盾で防ごうとしたが、それを一発で吹っ飛ばした。衝撃で大きく仰け反る。
すると彼女が斬りかかり再び衝撃音を放ちながら曲刀を弾き飛ばす。彼女の持つ剣は、燃えていた。
「伏せてっ!」
反射的にうつ伏せのような状態になる。すると彼女は先程袈裟で斬りかかった状態から同じ方向に斬り上げ、再び袈裟斬りをした。そして炎を纏った剣を胴斬りの要領で大きく振ると右脚を軸にしそのまま二回転。
「炎舞陣 五月乱れ!」
斬撃で散る火の粉と彼女が作り出した炎の輪が凛々しくも美しくマリナという女性を彩っているように見えた。
その火がパァッと消え、竜人も少し遅れて黒い光と共に消えていった。するとライオンモンスターと同様、黒い光の塊が現れた。今度は一つ、彼女の元へ。
彼女はその光に左腕を向けた。よく見ると手首に何かが嵌められている。その中に光がスッと吸い込まれていった。
「リソルト」
またも聞き馴染みのない言葉を発すると右手の剣が消えていった。一つ息をつくと地面と同化しかかった俺を見て微笑みかけ、手を差し出した。
「ありがとう、キミ凄く強いね!」
その手を取り立ち上がる。俺は何もしていないと言うと彼女はオーバー過ぎる程首を振り否定した。
彼女が言うには、あのモンスターの盾を拳だけ飛ばすことは凄い事らしい。武器が無ければ基本的に逃げの一手だそうだ。試しにライオンモンスターの件を話すと彼女は目を丸くして更に驚いていた。
この辺りはレベル30前後のモンスターが出現するらしく、丸腰で倒せる人はおらず、彼女でさえ剣を使っても一撃では倒せないそうだ。だからこそこの力は異常だと言っていた。
こちらも聞きたいことが山ほどあるがどれから聞けばいいのか脳が追いつくのを待っていると彼女が頭を下げてきた。
「お願い。私たちに力を貸してください!」
突然の要望に驚く間も無く彼女は俺の手を取りキラキラと輝く目で告げた。
「キミは希望だ!!」
その言葉に胸がトクンと高鳴った。闇夜の中、あたたかな風を感じた気がした。
呼びかけた途端、彼女が首を傾げ問い返した。その声も俺がかつて聞いていた音色と酷似していて鼓動を少し早める。
「違います。私は…」
そこまで言って彼女はハッとした表情を浮かべ、こちらをジッと見つめだした。
やがて希望と不安の混在した表情を浮かべ恐る恐る口を開いた。
「ライツ…なの?」
そう呼ばれた瞬間思わず、えっ?と漏らしていた。だがすぐに否定し名を告げた。
「俺は来夢です。天崎来夢」
告げると彼女も肩の力が抜けたように一つ息を吐いた。
「私はマリナ。マリナ=グレイスです。すみません、あなたが知り合いに似ていたもので」
照れたように微笑みながら告げる彼女をただじっとしみていた。その笑顔もまりあと瓜二つ。あり得ない、のか?世界には自分と同じ人、ドッペルゲンガーがいると言われている。そこから推測するとマリナと名乗る彼女はまりあのドッペルゲンガーなのだろうか。しかし果たしてあり得るのだろうか?しかもここは異世界だろ?
二、三度首を振り、頭を掻く。仮にそうだとしても俺の知ってるまりあは地球にいる川崎まりあ、ただ一人なんだ。そう無理矢理思考を纏め軽く頭を下げる。
「いえ、こちらこそ」
再び彼女を見るとその瞳はジッとこちらを観察するように上から下へ、そして上へ。また目が合うと感心したように頷いた。
「けど本当にそっくり。名前も一文字違いだし」
「俺も。知り合いに、凄く似てるから驚きました」
元いた世界での来夢とまりあ。こちらの世界でのライツとマリナ。どこかシンパシーのようなものを感じる。もしや以前関わった人たちは違う存在としてこちらの世界でも存在しているのかもしれない。そしたらまた友達になれるのか…。物語の主人公みたいにこの世界で第二の人生を送る未来を想像したが、無理にその思考を振り落とした。
「それじゃあ」
そういって彼女の横を抜ける。まりあと幸せに暮らす以外の未来は想像できない。来世で、今度こそ。その為にこの世界からはすぐに離脱しなければならない。そうしなければ魂までも死んでしまう。そんな気がする。
「待って」
彼女が俺の手を掴んだ。柔らかく人の温もりが左手から伝わる。
思わず振り向いていた。不安そうな顔でこちらを見ている。
「何で、その…」
俺の手を握る力が少し強くなる。振り解けない。もちろんそうしようと思えばできる。しかしその手からは筋力以外の力を感じる。
彼女の言いたいことは分かる。だが何を言えばいいか分からない。
それから暫しの沈黙が訪れた。本当のことを話すべきか、話すとしたらどこからどこまで。この世界に転生したということは一般的なことではないだろう。事細かに説明ふれば不要なトラブルを招いてしまう恐れもある。
来夢が思考を巡らせている最中も彼女は黙って俺を見ている。
「生きる理由がなくなったから」
やがて弱々しく答えると彼女の手がするりと落ちた。会釈して踵を返す。歩き出すと今度は後ろから抱きしめられた。
「お願い、生きて…」
背中越しでも彼女の表情が分かる。それほどにか細く、無理に解けば彼女が壊れてしまいそうだった。
「うん…」
そう答える以外に選択肢は無かった。まりあと似ているからか、彼女のことを傷付けたくない。笑っていてほしい、そう感じている。
ゆっくり振り返ると、ありがとうと告げられた。その綻んだ表情を見ていると俺も嬉しくなった。そのままの状態が少しすると。
「…っ!」
背後から殺気のようなものを感じた。彼女も同じように感じたのだろう。気配の方へ目をやり、構える。
ザザザッ!葉が激しく擦れる。何かが近づいている。そしてそれはもうすぐ…。
「あれは…!」
彼女が息を呑む。そして前に立ち俺を制する。
「下がって!」
小さく頷き一歩引く。音が大きくなっている。恐らくそれはもう現れる。
俺が下がったのをチラリと確認すると右手を前に出し何かを掴むような形にした。
「ベイルザジェイル」
そう口にすると手の周りが赤く光り、一振りの剣が現れた。刀身は薄赤く、鍔は炎のように美しく煌めいている。
握ると素早く下段に構える。そして刹那の拍子に音の主が上空から現れた。紫色の鱗にトカゲのような顔。その姿は竜人というのか。左手に持った小さな木の盾で胴を守りつつ右手の曲刀を上段で構える大きく振りかぶる。そして彼女を射程に捉えると。
ガキンッ!!
振り下ろされた剣は彼女の切り上げとぶつかると大きな金属音とともに周囲へ衝撃が走った。踏ん張りヤツの頭上を見る。そこには40と書かれてあった。つまりレベル40ということか。
対する彼女のレベルは、確認できない。一体彼女のレベルはどれほどなのか。目の前の竜人に対する反応から恐らく圧倒的ではないことは想像できる。勝てるのか。
胸の奥がじわりとした。彼女を失いたくない。しかしその恐怖心とは裏腹に彼女の剣さばきは見事なもので竜人の剣をことごとく弾いている。だが決め手となる一撃が入らない。そして…。
「ぐっ…!」
隙をついたヤツの盾攻撃が彼女の腹部にヒットし、数メートル飛ばされた。ヤツはそのまま大きく息を吸うと火を吐いてきた。
「マリナ!!」
地面を蹴り、叫ぶ。そのまま竜人へ体当たりする。後方の木へ直撃し一瞬怯んだがすぐに来夢の方へ突っ込んでいく。速い!そう感じた時には右手の曲刀が振り下ろされる直前だった。
「うわぁ!」
無意識に身体が硬直してしまった。丸腰で刀を相手にすることがこんなに怖いとは…。まずい、動けない。恐怖に目を閉じ、縮こまる。殺されるのか、俺は…。
「はぁ!」
暗闇の中、すぐ近くに感じたのはまたあの金属音だった。顔を上げると彼女の剣があった。そしてそのすぐ奥には…。
今しかない。渾身の力を込めて拳を打ち出す。ヤツが左手の盾で防ごうとしたが、それを一発で吹っ飛ばした。衝撃で大きく仰け反る。
すると彼女が斬りかかり再び衝撃音を放ちながら曲刀を弾き飛ばす。彼女の持つ剣は、燃えていた。
「伏せてっ!」
反射的にうつ伏せのような状態になる。すると彼女は先程袈裟で斬りかかった状態から同じ方向に斬り上げ、再び袈裟斬りをした。そして炎を纏った剣を胴斬りの要領で大きく振ると右脚を軸にしそのまま二回転。
「炎舞陣 五月乱れ!」
斬撃で散る火の粉と彼女が作り出した炎の輪が凛々しくも美しくマリナという女性を彩っているように見えた。
その火がパァッと消え、竜人も少し遅れて黒い光と共に消えていった。するとライオンモンスターと同様、黒い光の塊が現れた。今度は一つ、彼女の元へ。
彼女はその光に左腕を向けた。よく見ると手首に何かが嵌められている。その中に光がスッと吸い込まれていった。
「リソルト」
またも聞き馴染みのない言葉を発すると右手の剣が消えていった。一つ息をつくと地面と同化しかかった俺を見て微笑みかけ、手を差し出した。
「ありがとう、キミ凄く強いね!」
その手を取り立ち上がる。俺は何もしていないと言うと彼女はオーバー過ぎる程首を振り否定した。
彼女が言うには、あのモンスターの盾を拳だけ飛ばすことは凄い事らしい。武器が無ければ基本的に逃げの一手だそうだ。試しにライオンモンスターの件を話すと彼女は目を丸くして更に驚いていた。
この辺りはレベル30前後のモンスターが出現するらしく、丸腰で倒せる人はおらず、彼女でさえ剣を使っても一撃では倒せないそうだ。だからこそこの力は異常だと言っていた。
こちらも聞きたいことが山ほどあるがどれから聞けばいいのか脳が追いつくのを待っていると彼女が頭を下げてきた。
「お願い。私たちに力を貸してください!」
突然の要望に驚く間も無く彼女は俺の手を取りキラキラと輝く目で告げた。
「キミは希望だ!!」
その言葉に胸がトクンと高鳴った。闇夜の中、あたたかな風を感じた気がした。
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