虚ろな光と揺るがぬ輝き

新宮シロ

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22 ~その手を掴むワケ~

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 徐々に意識がはっきりしてきた。落ち着いた空間。耳を澄ますと誰かの話し声が聞こえる。他愛のない話だ。鼻から吸い込む空気は人の匂いと共に美味しそうな香りが含まれている。横たわっているのは少し硬めのベッドだろう。
 何故俺はここて寝ているのだろう。記憶を辿ってみる。マリナとアーシャ像の前でルナ属性の判定をもらい、森の方から深淵の亜生物たちが押し寄せてきて、俺とマリナは虎型の人語を使う敵と対峙した、そして…。
 そこでガバッと起き上がる。額にはうっすら汗をかいている。左手でそれを拭うと横から声をかけられた。
「よかった。やっと目覚めた」
「マリ…」いいかけた言葉は喉奥でとどまる。
 そこにいたのはナース服のようなものに身をつつんだ年上の女性だった。全体的に少しふっくらとしたシルエットに優しさと戦士に似た強さをその瞳に宿した可愛らしい印象がある。
 俺の言葉を少し待ってから笑顔で彼女は語る。
「傷はほとんど無かったけど、体力の消費が異常だったからね」
 話を聞くに俺は2日寝ていたようだ。あの森で気を失った後、ある騎士団が俺たちを発見しここまで運んでくれたそうだ。
 それから騎士団の回復系のメンバーの特殊技と、時間はかかるが寝ているだけで如何なるダメージも治癒させてくれるベッドの効果で完全回復したらしい。だがそれには当然ながら限界があり損傷が深ければヒールが間に合わず消滅してしまうそうだ。
 そこで記憶のマリナを思い出す。あのダメージに加え腹部に槍で穴を空けられては恐らく…。
 恐怖で彼女のことが聞けずにいると、一つの希望が脳に浮かんだ。
「そ、そういえば、どんな傷も体力も回復してくれるアイテム的なのってありませんでしたっけ?それを使ったらわざわざこんな大掛かりなことしなくてもいいんじゃないですか?」
 そういうと彼女は少し驚いた後で自嘲気味に息を吐いて告げた。
「あれねぇ。実は手に入らないのよね…」
 基本的な体力回復アイテム等は存在するが、効果適用まで若干遅れがあり大きな傷や深いダメージを治してくれる訳ではないらしい。唯一、ひとたび服用すればたちまち全ダメージをリセットしてくれる薬は存在しているが生成に必要なアイテムはほぼ入手不可能と言われている。
「なら、もう…」
 俯きながら自分の無力さを呪った。拳を握って崩れそうな自分を抑え込むことしかできなかった。
 震える拳を見つめていると彼女の両手がそっと包んでくれた。
 はっとして顔を上げると母のような眼差しが俺の心を暖めた。
「あなたが気にしていることは分かってる。マリナちゃんのことよね?」
 その名を聞くと再び心が揺さぶられる。自分でも瞳孔が開いたのが分かる。俺の深層心理を理解したのか、俺の手を包む彼女の両手にグッと力が加わった。大丈夫、と言うように。
「ここに運ばれてきた時のマリナちゃんを思い出すと、その無惨な姿に全身が締め付けられるように苦しいわ。でもね」
「うるさい!私はあんた達の助けなんか必要ない!!」
 静かな空間を激情が貫いた。反射的に部屋から通路に出られる扉の方を見る。この扉は基本的に開けっ放しになっていてこの場所を開放的にしている。
 この声を知っている。そう思い、目の前のナースを見る。彼女は先程飛んできた叫びに少々困った様子だったが、俺の目を見て一層優しく微笑んだ。
「行っといで」
 コクリと頷き立ち上がると通路を目指し足を進めた。数歩進むと彼女の姿が扉の先に見えた。声をかけようと息を吸い、発しようとした瞬間彼女の後からきた人物に右手を掴まれた。
「待てってマリナ!」
「離して!!」
 その手を振りほどくと同時に視界の端に入ったのか、バッと俺の方を向いた。
「ライムくん」
 彼女に笑顔が蘇る。俺も彼女の言葉に笑顔で応える。
「え!?ライ…ム?」
 マリナの手を掴んでいた人物が俺を見て絶句した。それから少しの間で呼吸を整えてから呟いた。
「あんたが…。ようやく目覚めたのか」
 その人と目が合った瞬間ある人物が浮かんだ。その人と似ている。無垢の領域でのまりあがソルルでのマリナと重なるように、あの世界での誰かがこの世界で瓜二つの誰かとして生きている。この人もまたそうなのだ。
「ほらマリナ、この人も目覚めたんだし団長の所まで行くよ」
 俺の知っている彼女より少し荒っぽい口調だが、その声も姿も記憶の彼女そのままだ。
「嫌だ、こんな場所もう一秒だっていたくない!」
「けどあんた達が戦った虎の敵の情報を上に報告しないといけねえんだよ!」
 そう言って再びマリナの手を掴む。今度はより力を込めて握ったのか、彼女もすぐには振りほどけない。
「そんなの知らない!だからこの手を離して、ダリア!」
 森で俺たちを見つけてくれたのは、この騎士団でもトップクラスの隊。彼女はその隊長を務めている。ダリア。この名前を聞いた時に確定した。彼女は俺がいた世界、無垢の領域では、ジャンヌダルクこと岩田梨亜だ。
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