25 / 42
22 ~その手を掴むワケ~
しおりを挟む徐々に意識がはっきりしてきた。落ち着いた空間。耳を澄ますと誰かの話し声が聞こえる。他愛のない話だ。鼻から吸い込む空気は人の匂いと共に美味しそうな香りが含まれている。横たわっているのは少し硬めのベッドだろう。
何故俺はここて寝ているのだろう。記憶を辿ってみる。マリナとアーシャ像の前でルナ属性の判定をもらい、森の方から深淵の亜生物たちが押し寄せてきて、俺とマリナは虎型の人語を使う敵と対峙した、そして…。
そこでガバッと起き上がる。額にはうっすら汗をかいている。左手でそれを拭うと横から声をかけられた。
「よかった。やっと目覚めた」
「マリ…」いいかけた言葉は喉奥でとどまる。
そこにいたのはナース服のようなものに身をつつんだ年上の女性だった。全体的に少しふっくらとしたシルエットに優しさと戦士に似た強さをその瞳に宿した可愛らしい印象がある。
俺の言葉を少し待ってから笑顔で彼女は語る。
「傷はほとんど無かったけど、体力の消費が異常だったからね」
話を聞くに俺は2日寝ていたようだ。あの森で気を失った後、ある騎士団が俺たちを発見しここまで運んでくれたそうだ。
それから騎士団の回復系のメンバーの特殊技と、時間はかかるが寝ているだけで如何なるダメージも治癒させてくれるベッドの効果で完全回復したらしい。だがそれには当然ながら限界があり損傷が深ければヒールが間に合わず消滅してしまうそうだ。
そこで記憶のマリナを思い出す。あのダメージに加え腹部に槍で穴を空けられては恐らく…。
恐怖で彼女のことが聞けずにいると、一つの希望が脳に浮かんだ。
「そ、そういえば、どんな傷も体力も回復してくれるアイテム的なのってありませんでしたっけ?それを使ったらわざわざこんな大掛かりなことしなくてもいいんじゃないですか?」
そういうと彼女は少し驚いた後で自嘲気味に息を吐いて告げた。
「あれねぇ。実は手に入らないのよね…」
基本的な体力回復アイテム等は存在するが、効果適用まで若干遅れがあり大きな傷や深いダメージを治してくれる訳ではないらしい。唯一、ひとたび服用すればたちまち全ダメージをリセットしてくれる薬は存在しているが生成に必要なアイテムはほぼ入手不可能と言われている。
「なら、もう…」
俯きながら自分の無力さを呪った。拳を握って崩れそうな自分を抑え込むことしかできなかった。
震える拳を見つめていると彼女の両手がそっと包んでくれた。
はっとして顔を上げると母のような眼差しが俺の心を暖めた。
「あなたが気にしていることは分かってる。マリナちゃんのことよね?」
その名を聞くと再び心が揺さぶられる。自分でも瞳孔が開いたのが分かる。俺の深層心理を理解したのか、俺の手を包む彼女の両手にグッと力が加わった。大丈夫、と言うように。
「ここに運ばれてきた時のマリナちゃんを思い出すと、その無惨な姿に全身が締め付けられるように苦しいわ。でもね」
「うるさい!私はあんた達の助けなんか必要ない!!」
静かな空間を激情が貫いた。反射的に部屋から通路に出られる扉の方を見る。この扉は基本的に開けっ放しになっていてこの場所を開放的にしている。
この声を知っている。そう思い、目の前のナースを見る。彼女は先程飛んできた叫びに少々困った様子だったが、俺の目を見て一層優しく微笑んだ。
「行っといで」
コクリと頷き立ち上がると通路を目指し足を進めた。数歩進むと彼女の姿が扉の先に見えた。声をかけようと息を吸い、発しようとした瞬間彼女の後からきた人物に右手を掴まれた。
「待てってマリナ!」
「離して!!」
その手を振りほどくと同時に視界の端に入ったのか、バッと俺の方を向いた。
「ライムくん」
彼女に笑顔が蘇る。俺も彼女の言葉に笑顔で応える。
「え!?ライ…ム?」
マリナの手を掴んでいた人物が俺を見て絶句した。それから少しの間で呼吸を整えてから呟いた。
「あんたが…。ようやく目覚めたのか」
その人と目が合った瞬間ある人物が浮かんだ。その人と似ている。無垢の領域でのまりあがソルルでのマリナと重なるように、あの世界での誰かがこの世界で瓜二つの誰かとして生きている。この人もまたそうなのだ。
「ほらマリナ、この人も目覚めたんだし団長の所まで行くよ」
俺の知っている彼女より少し荒っぽい口調だが、その声も姿も記憶の彼女そのままだ。
「嫌だ、こんな場所もう一秒だっていたくない!」
「けどあんた達が戦った虎の敵の情報を上に報告しないといけねえんだよ!」
そう言って再びマリナの手を掴む。今度はより力を込めて握ったのか、彼女もすぐには振りほどけない。
「そんなの知らない!だからこの手を離して、ダリア!」
森で俺たちを見つけてくれたのは、この騎士団でもトップクラスの隊。彼女はその隊長を務めている。ダリア。この名前を聞いた時に確定した。彼女は俺がいた世界、無垢の領域では、ジャンヌダルクこと岩田梨亜だ。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる