虚ろな光と揺るがぬ輝き

新宮シロ

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30 ~白銀の影~

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 耳を裂く音波の中心で赤黒い火花が散り散りになり消えていく。振り下ろされた斧から湧き出る炎は防がれた銀の剣が纏う黒いオーラに飲み込まれた。
 片膝をつき、右手を剣の腹に添えたままとらえたバッディーラの目は眼球が飛び出んばかりに開かれている。それもそうだ。虫の息だった小僧が止められるはずのない渾身の一撃を今まさに防いでいるからだ。
 闘技場の中央で起きたこの状況に観衆も同じように驚愕した。全ての人間が呼吸を止めたかのような静寂の中、剣と斧が競り合う音のみが響く。そして。
 ギィィン!という音と共に大男の持つ斧が残り火を振り撒きながら宙を舞う。バッディーラがライムに背を向け落下予測地点へ走った。同時にライムは一歩引き、構え直した。
 ドンッと斧が地面に落ちる。バッディーラの右手はあと少しで武器に届く距離。
 ドンッ!同時に落下音が号砲であったかのようにライムの左足が地面を蹴った。
「ここだ…!」
 銀と黒の軌跡を残し一気に目標へ駆ける。数メートルあった距離は既にない。武器を飛ばされた無防備な背中には申し訳程度の防具。この剣なら諸共やれる…!
 ルールとしては存在していないが、対戦相手が死なないように峰打ちや加減をすることは、この闘技場では御法度とされている。命を賭けたギリギリの闘い。死闘。それを観客は求めている。
 深淵の世界からの刺客との戦いは客席に座るほとんどの人の目には届かない。主に騎士団が街から遠くの森でほぼ仕留めているからだ。だから実際に戦う戦士たちの勇姿が騎士団への信頼になり、数少ない娯楽ともなっている。騎士団側からすればこの戦いは、より研ぎ澄まされた集団へ成長する為の磨きの場として重宝している。
 日々命懸けの戦いをしているからこそ、この騎士団は強い。そんな騎士団の精鋭部隊の隊長がどこから湧いたかも知れぬ小僧に遅れをとるはずはない。
 ガギィン!ライムの剣先がバッディーラの背中の寸前で止められた。それを成したのは。
「甲羅…?」
 先程までその背に存在してしていなかった、バッディーラの巨体をも覆うほどの大楯。それがライムの突きから主を守った。
「まさか、闘技場でこの姿を見せることになるとは…。キサマ、やるではないか」
 兜の下でニヤリと笑みを浮かべ背中越しに賛美を送ると、ゆっくりと向き直った。
「その姿…」
 ライムの口元がすこし歪んだ。眉間に浅い皺を入れ奴を凝視する。
 イノシシ面の大男は全身重装備で歩く重戦車の如きシルエットで二本のツノが生えた兜が闘牛を思わせて、その背を大楯が亀の甲羅のように覆っている。
「一人でキャラ渋滞起こすなよ!」
「うるさいわい!これがわしの最強モードなんじゃい!深淵のバケモノ共との戦いもこれで生き残っておる。これでキサマの負けたじゃわい!!」
 再び斧を手に取り振り上げる、動きとしては隙だらけなのだがフルメタルジャケットが攻撃の隙間を全て防いでいる。
「砕!」
 大地を穿ち炎が襲いかかる。同時に土の塊が弾丸のように飛び散る広範囲遠距離攻撃。だがスキマはある。
「今ならそれがハッキリ見える…」
 ふわりと地面を蹴ると闇色の光を残しながら火柱と弾丸の間をすり抜けていく。瞬く間に間合いを詰め剣を構える。
「キサマ…!」
 バッディーラが斧を担ぐように持ち直した。そして一歩踏み込みそのまま斜めに振り下ろす。
「破ぁ!!」
 小型の隕石が振り下ろされるような衝撃。だがライムは瞬時に剣の腹を軌道上に沿うように乗せいなした。
 シャリィィン!超高音のエッジが響く中、振り返り横一線!
 バキィンと斧に一撃を与えるとバッディーラの手から飛び出した。
「ぬっ…!」彼がそれに気づいた時。
「ぐぬあっ!」彼の後頭部に衝撃が走った。
 バッディーラが一歩よろめくとライムの右足も地面を捉え、光と共に一瞬消え斬撃と共に再姿を見せた。そのまま剣の余力で蹴りを入れ、また一瞬消え、現れたら斬りと蹴り。そしてまた消える。
 ライムの技がバッディーラの巨体の周りで乱れ撃たれ、遂に正面に現れた。居合の構えと共に。
「ナイトメア・アサルト!」抜かれた剣が縦横無尽に駆け巡る。
「終わりだ!!」最後に縦一線が放たれた。
 そして。衝撃と共にバッディーラの武装が崩れ落ちた。
 バラバラになった鉄の欠片が足元に積み上がり最後にバリィンと兜が割れ、白目を剥いたバッディーラが現れた。
「…な」
 破片の山に倒れ込む巨体を確認するとライムがジャッジの方を見た。目の前の光景に理解が追いつかず唖然てとしてるとライムが口を開いた。
「勝ちでいいですか?」
 ハッとしたように目を瞬かせ右手を上げた。
「勝者、ライム!」
 会場が割れんばかりの歓声が轟いた。その声も彼らの視線も全て一点に向けられている。
 ブルーラインの入った白銀の刀身を左手に握っている無名の青年に。
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