オメガの秘薬

みこと

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「はぁはぁ、美涼みすずさん…。すごい…はぁ、気持ちいい…。」

「あっ、あっ、わたるくん、あぁん…もっと。」

俺は何を見ているんだろうか。ドアの隙間から見える絡み合う二人。その内の一人、一生懸命に腰を振っている航と呼ばれた男は俺の恋人だ。みんなはこういう時どうするのだろうか?俺は震える手でポケットスマホを取り出しドアを開けた。
驚いてこちらを見る二人。
良いね、カメラ目線だ。そのまま連写して部屋を出た。


何でこんな事になったんだっけ。
歩きながら考える。一生懸命に考えないとすぐに思考が止まる。
なかなか震えが治らない。
今日は部活が急になくなって、航に会いたくて一人暮らしのマンションまで行ったんだ。メッセージも送ったけど既読にならなかった。
まぁ、それどころじゃなかったんだな。
撮った写真は怖くて見られない。
あの衝撃的な光景を思い出し涙がぽろりとこぼれた。

番いになってなくて良かった…。俺はネックガードが巻かれた頸をそっと撫でた。



「ただいま~。」

「おかえり。今日は早いじゃない。」

「うん。部活、中止になった。先生が具合悪いんだって。」

「あら~。波多野先生?元気だけが取り柄みたいな人なのにねぇ。」

二階の自分の部屋に入ってベッドに横になった。
さっきからスマホが鳴りっぱなしだ。うるさいから電源を切ろうか…。
母さんたちになんて言おう。
去年の夏に付き合って、冬には親に紹介した。番いになるって言って…。
母さんは二十歳まで待てって言ってたな。結局、高校卒業したらって事になったんだ。
いつもは口うるさくて鬱陶しいけど母さんの言う通りだ。その場の勢いで番いにならなくて良かった。
あーもう、スマホがうるさい!
航からだ。俺に何て言うつもりなんだろう。好きな人ができた?それとも…。

出会った時のことを思い出す。高校に入学した時だ。航は隣のクラスで有名だった。アルファで、カッコよくて頭も良い。岩澤っていう企業の息子だ。俺には関係ない存在だと思っていたのにゴールデンウィーク明けに告白された。
最初は罰ゲームか何かだと思ったけど、まずは友達からって事で始まった。
航は優しくて面白くてカッコよくて、俺はすぐに好きになってしまった。夏には正式に付き合って、秋にはそういう関係になった。
アルファは独占欲が強く、航もそれに漏れない。
番いになりたいと言ってきた。両親に紹介したら高校を卒業してからにしなさいと言われたんだ。

番い契約は解除できない。
正確にはオメガには解除できないのだ。アルファはそのオメガに飽きたり、嫌になれば違うオメガと番いになれる。
オメガは一度番い契約を結ぶとそのアルファとしかセックスが出来ない。出来ないってことはないみたいだけど番いのアルファ以外のセックスは死ぬほど苦痛な行為になるのだ。
今はオメガの人権も守られているから易々と番いを解除できない。自分勝手にそんな事をするアルファは社会的信用を失う。

俺たちは付き合ってまだ一年だ。
それなのに他のオメガと浮気をした。そういうヤツはこれから先もするだろう。
あんなに熱心に口説いてきたのに…。
信じた俺がバカだったんだ。

マナーモードにしたスマホの着信とメッセージがすごい事になっている。恐る恐るメッセージアプリを開いてみた。
『ヒロ、話がしたい』『頼むから返事をくれ』『本当にごめん』同じようなメッセージ内容が流れてくる。
あ、着信だ。メッセージが既読になったからだな。
そのまま電源を落とした。



よし、言うぞ!善は急げだ。こういう事は早い方がいい。
ダイニングテーブルで俺の前に座り他愛もない話をしている父さんと母さんを見た。

「ねぇ、あのさ…。俺、航と別れたんだ。」

あくまでさり気なく言ったつもりだ。
でも少し声が掠れてしまった。

「え?何で?いつ?どうして?」

一瞬だけ間があいて母さんが矢継ぎ早に聞いてきた。

「ん?今日。アイツ浮気してた。マンションに違うオメガ連れ込んでた。写真も撮ったよ。」

二人とも愕然としていた。
我に帰った父さんがものすごく怒ってアイツに電話するって暴れ出した。母さんがそれを何とか宥めて座らせた。

「比呂、大丈夫なの?」

「分かんない。でも母さんの言った通りだ。勢いで番いにならなくて良かった。」

「比呂、父さんが一言言ってやる。何が一生大事にしますだ。バカにして!相手は誰だ?知ってるやつか?」

「たぶん知らない。もう良いよ。もう良いんだ。番いになってないし。ベータじゃ浮気で別れるカップルなんてたくさんいるだろ?」

「でもな…。」

「良いんだ。早く分かって良かったよ。」

ごちそうさま、と言って部屋に戻った。
父さん、怒ってたな。母さんは泣いてた。
もう良いんだ。僕にはこうして愛してくれる人たちがいる。でも、でも、今日だけは泣かせて…。
僕は一晩中泣いた。
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