みにくいオメガの子

みこと

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「へぇー。で、そのお見合いの人に会うことになったんだ。」

「うん。」

お昼休みに昨日の事を真紘に話した。

「好きかどうかは置いといてどんどんいろんな人に会った方が良いよ。T大かぁ、トシくんたちと一緒だね。」

「二年生だって。」

真紘は弁当の唐揚げを頬張っている。自分で作った弁当だ。花嫁修行だと言っていた。
そろそろ本格的に進路を決めなければならない。真紘は進学したいようだけどトシくんが良い顔しないらしい。

「真紘、進路決まった?」

「うーん。トシくんと番いになる一択だったけど、やっぱり進学しようかな。アルファに頼り切る生活ってなんか怖いかも。」

「僕も。まぁ、番いも見つかってないし。」

「T大にもオメガはいるんだって。すごいよね。」

へぇー、すごいな。一生懸命勉強したんだろうな。T大なんてとても無理だけど何か資格が取れる大学に行きたい。

「僕、Y大の家政科に行こうかと思って。そんなに偏差値高くないし。栄養士の資格が取れるんだ。古典があんなんだったし、受かるか分かんないけど。」

真紘はちゃんと考えているんだな。料理も上手だしいいと思う。
僕は…。
でも、とにかく学力を上げないと。今の僕たちでは選択肢は少な過ぎる。

「僕はまだ決まってないけど勉強しよう!」

今日から二人で勉強することになった。



帰りに二人で予備校の見学に行った。
そこの講師はかなりの熱血で『遅すぎるなんて事はない!やりたいと思った時がやる時期だ!』と励まされた。パンフレットをもらってお母さんと相談しよう。

そのまま駅ビルの本屋に立ち寄った。勧められた問題集を買って帰るのだ。


「あった。これだ。」

「どれ?本当だ。とりあえずこれを解く事から始めよう。」

二人で他の問題集を見たりしていると真横に人の気配を感じて顔を上げた。

「こんにちは。偶然だね。」

「あ、こんにちは…。」

この間映画館で会った人だ。

「三度目の正直だ。運命かも。」

「誰?知り合い?」

真紘が反対側から聞いてきた。前に声をかけられて、その後も偶然映画館で会った人だと言った。



僕たちは問題集を買って三人でお茶を飲んでいる。
何でこんな事に…。
真紘が行くと決めたのだ。耳元で『アルファでしょ?カッコいいじゃん。彼も由紀の番い候補だよ。』と張り切っている。

千聖ちさとさんもT大なんですか?」

「うん。来年は大学院に進むんだ。」

山城千聖やましろちさとと名乗った人は祐一さんや智明さんと同じT大だった。やはりアルファはみんな頭が良いんだな。
そしてイケメンだ。千聖さんも整った顔をしている。きっとモテるだろう。番いや恋人がいてもおかしくない。
僕は真紘と千聖さんの会話を聞きながらぼんやり眺めていた。

「…だって。」

「えっ?」

急に話を振られて驚いた。

「もう、聞いてなかったの?」

「…ごめん。」

「千聖さんが由紀とデートしたいんだって。」

「えぇ?僕と?」

千聖さんは僕の顔を見てにこにこしている。

「あ、でも、番いは居ないんですか?」

こんなにカッコよくて天下のT大だ。番がいてもおかしくない。

「いないよ。弁護士になりたくて勉強ばっかりしてた。あとは好みのオメガに会わなかった。由紀くん、どうかな?」

チラリと真紘を見るとニヤニヤして頷いている。
デートしろってことか。

「ら、来週なら。」

もう今週は日曜日に智明さんとデートだ。土曜日は空いているけど疲れているので少し休みたい。
勉強もしなければいけないし。

「本当?良かった。嬉しいよ。初めて見た時からすごく可愛いと思ってたんだ。」

僕たちは連絡先を交換して別れた。


「由紀、モテモテだね。」

真紘が嬉しそうに揶揄ってくる。

「もうキャパオーバーだよ。静かな生活に戻りたい。」

心身共に疲れた。メッセージを返すのだっていろいろ考えて返している。慣れないことだからすごく疲れるのだ。

「あはは。そうだね。由紀には辛いかもしれないね。何度かみんなに会ってみて一人に絞った方が良いかも。」

何度かって何回会えばいいんだろう。
ふと祐一さんの顔が浮かんだ。



家に帰って母に予備校のパンフレットを見せた。進学でも嫁に行くでも僕の好きなようにしていいと言われた。
働くとしたらどこが良いかな?営業とかは向いてない。身体を使った仕事も出来ない。真紘みたいに料理が好きなわけでもない。
部屋の本棚を見た。マンガや小説などジャンル問わずいろいろある。
そうだな、本に関わる仕事ができたら良いな。
やっぱり大学に進学しよう。もうすぐ夏休みだ。死ぬ気で頑張ればどこか受かるだろう。

よし、と気合いを入れて問題集を広げると、スマホが鳴った。

「祐一さんからだ…。」
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