みにくいオメガの子

みこと

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「やっぱり健康が何よりだよ。」

真紘が学校に来られるようになった。お腹に力を入れたりするとまだ傷は痛いと言っている。でも出席日数もあるし、もうすぐ夏休みなので我慢して登校している。
トシくんが送り迎えをして勉強も見てくれているらしい。
真紘の親が心配するのでトシくんのマンションには行かず、真紘の家で勉強している。

「でも良かったよ。元気になって。」

「二人とも警察にお世話になるって。ヤバいよな。」

真紘は刺されて死にそうになった人にはとても見えない。
お弁当のウインナーを頬張っている。

「僕、今人生で一番頭が良いかも。トシくん、教えるの上手なんだ。入院中もずっと勉強してた。」

あの問題集の丁寧な説明を思い出した。真紘のためにトシくんも頑張っているんだな。
僕はずっと気になっていた事を聞いてみた。

「あのオメガどうなったの?」

「殺意はなかったって言って傷害罪になるみたいだ。僕もそれで良いと思う。トシくんも悪いんだし。」

「そっか。真紘は偉いな。トシくんの罪を一緒に償うってことだろ?」

だってあれはどう見ても殺意があっただろう。真紘を刺した時のあの顔が忘れられない。殺人未遂と傷害では雲泥の差だ。でも、トシくんのやった事で相殺するつもりなのだ。

「まぁね。仕方ないよ。『番う』ってこういうことだ。」

真紘がとても大人に見えた。

「祐一さんに言われたよ。」

「何て?」

「祐一さんもトシくんと変わらないって。そのせいで僕に何かあったらって。」

「あはは。まぁ、アルファなんてそんなもんでしょ。」

やっぱり真紘は大人だ。悟りの境地にいる。
確かにアルファは優秀だ。世界を動かしていると言っても良い。お金も権力もある。自分勝手で傲慢にならない訳がない。
真紘はトシくんのそんな所も丸ごと受け入れようとしている。愛されて、大事にされていると分かっているからだ。トシくんも真紘と出会って変わったはずだ。過去の人間関係をきっちり精算している。
まぁ、まだ詰めが甘かったけど。
祐一さんはどうかな?
僕はどうなるのかな?

「今日、祐一さんのマンションに行くんだろ?」

「え?う、うん。」

勉強を見てもらうのだ。付き合っている訳だし、何かあるかもしれないとは思ってるけど…。

「祐一さんなら大丈夫だよ。…たぶん。」

「たぶんって。」

「嫌だったらちゃんと言いなよ。」

「うん。」


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「いや、こっちの公式を使うんだよ。」

「そっか…。」

祐一のマンションで勉強を教えてもらっている。
一人暮らしとは思えないくらいの広くて綺麗なマンションだ。
僕の予想に反して真面目に勉強してる。祐一さんは教え方が上手だ。あんなに分からなかった問題集もすらすら解ける。

「よし、終わった~。ありがとうございました。」

「どういたしまして。このまま頑張れば受験も大丈夫そうだね。」

「だと良いんですけど…。」

祐一さんが淹れてくれたお茶を飲んだ。もう三時間も経っている。集中していたから時間があっという間だ。

「じゃあ、今日はこれで…。」

「うん。送るよ。」

「大丈夫です。一人で帰れます。」

「ううん。送らせて。もう少し一緖に居たい。」

祐一さんが真剣な顔で僕を見ている。恥ずかしくなって目を逸らすと抱きしめられた。

「由紀の嫌なことはしないよ。」

呼び捨てだ。正式に付き合うようになってから僕のことを『由紀』と呼ぶ。僕は祐一さんと呼んでいるがさんは要らないと言われた。でも何だか急に呼び捨てなんて出来ない。年上だし。
ぎゅっと抱きしめられると何だかとても安心する。祐一さんからはふわりと良い匂いもする。

「由紀、すごく良い匂い。」

「祐一さんの方が良い匂いです。」

「…また敬語。さっきも敬語だった。」

「あ、ごめんなさい、じゃなくて…ごめん。」

『良いよ。可愛い』と言って頭を撫でられた。

「キスしても良い?」

「え?」

「ダメ?」

祐一さんが顔を覗き込んでくる。僕は小さく頷いた。
ちゅっと軽くキスをされてにこりと微笑んでくる。
またぎゅっと抱きしめられた。

「はぁ、本当に可愛い…。何でこんなに可愛いの?」

「…可愛くないですよ。」

真紘みたいなオメガなら分かるけど僕が可愛い訳ない。

「可愛いよ。ものすごく可愛い。可愛い過ぎるよ。」

恥ずかしくて何も言えなかった。



マンションの部屋を出てエレベーターに乗る。
祐一さんの部屋は最上階だ。

「由紀…。」

エレベーターの中で抱きしめられてまたキスをした。

「あ、カメラ、防犯カメラに写ってる…。」

僕は慌てて離れた。祐一さんは気にしてないみたいだ。
その後も祐一さんは車の中で何度もキスしてきた。
家の前で車を停めてまたキスをした。

「ダメだよ…。」

「ごめん。可愛いくて。」

「あの、今日はありがとうございました。あ!ありがとう。」

「ふふ。うん。また後で電話する。」

僕は車から降りて手を振った。祐一の車が角を曲がったのを見届ける。
キス以上はなかったな。ほっとしたようなそうでないような…。
ダメだ、僕は受験生だ。邪念を振り払って家に入った。
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