優しすぎるオメガと嘘

みこと

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ベッドに座ってリチャードはずっとルエを抱きしめて頭を撫でている。ルエはその胸の中でずっと涙を流していた。

「ルエ、もう泣かないで。」

「はい、ご、ごめんなさい…。」

リチャードはさらに強くルエを抱きしめる。

「謝らないで。悪いのは私だ。ね?」

ルエの顔を覗き込んで優しく涙を拭う。

「ありがとうございます。」

「お礼を言うのは私の方だよ。ルエ、ありがとう。私を、許してくれるのか?」

「そんな、許すなんて。リチャード様は辛い思いをしたんです。仕方ないです。それにこんな所まで僕を探しに来て来れました。」

「ありがとう。ルエは本当に優しいな。」

「そんなことありません。」

目を潤ませたリチャードはベッドに座るルエの前にまた跪いた。そしてその手を取り優しく握りしめる。

「ルエ、私はバカな男だ。長い間ルエを苦しめてきた。でもルエが居ないと生きていけないんだ。私と一から夫婦としてやり直してくれないか?ルエのためならなんだってする。」

リチャードの顔は真剣だ。その目は真摯にルエを見つめている。
確かにルエはクロフォード家で寂しい思いをした。しかし邪険に扱われたことはなかった。何も取り柄のないルエに三食食事を食べさせてくれて温かいベッドで眠れる。それだけで十分だった。

「僕、何も出来ませんが、これからもよろしくお願いします。」

恥ずかしそうにぺこりと頭を下げるルエにリチャードは思わず立ち上がり抱きついた。
その日はギルバートは近くの宿屋に泊まりリチャードはルエの部屋に泊まることになった。

「あの、本当に良いんですか?ベッドはすごく狭いしリチャード様のベッドみたいに柔らかくないんです。」

ルエのベッドは一人用の小さなベッドだ。粗末なベッドにリチャードを寝かせることが申し訳ないとルエは何度もリチャードに確認する。

「全然構わない。ルエと一緒に寝られるなんて夢のようだ。」

上機嫌のリチャードはいそいそと支度をした。シャワーは部屋には付いておらず母家のを借りている。先にリチャードがシャワーを浴びて部屋でルエを待っていた。

「お待たせしました。」

ルエがそっと部屋に入ってくる。

「髪が濡れているよ。ほら、私が拭こう。」

ルエの髪をタオルで優しく拭いてくれる。リチャードはルエが普通のシャツを着ていることに気が付いた。

「ルエ、寝巻きはどうしたんだ?」

「あ、僕、寝巻きは持っていなくて。いつもは下着で寝ているんです。」

「そうなのか。」

リチャードは自分の来ていた寝巻きを脱ぐとルエに渡した。

「リチャード様?」

「今日はこれを着なさい。」

「え?そんな。ダメです。リチャード様が風邪をひいてしまいます。」

「私は平気だ。ほら、早く。」

ルエはリチャードの寝巻きを借りた。サイズはまったく合っていない。しかし上等な生地の寝巻きはしっとりとルエの身体に馴染んだ。

「おやすみなさい。」

「おやすみ。」

狭いベッドで寄り添って寝る。それでも落ちそうなるのでリチャードはルエを抱きしめた。

「狭くてごめんなさい。」

「いいんだ。こうやってルエを抱きしめて眠れるからね。」

リチャードは目一杯ルエの匂いを吸い込む。体が痺れるように温かくなり幸せな気持ちになった。
その存在だけでこんなに幸せな気持ちにしてくれるルエ。寝巻きを買う金もなかったのだろう。申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
帰りにルエの寝巻きを買おう。それ以外にもルエに必要な物を買って贈ろう。そんなことを考えていると眠気が襲ってきた。
正直、眠れるか心配だった。可愛いくて愛おしいルエと同じベッドに寝ることを考えただけで、嬉しいのと同時に興奮してしまう。しかしルエの匂いに包まれていると眠くなってきたのだ。ここ数ヶ月まともに眠れていない。久しぶりに感じた眠気に身を任せてリチャードは目を閉じた。





「ん…」

リチャードはルエの匂いで目を覚ました。しかし狭いベッドにルエがいない。

「ルエ⁉︎」

ガバッと起き上がり辺りを見渡すがルエがいる気配はない。キッチンのやかんがカタカタと沸騰した音を立て始めた。
ベッドから飛び降りるとリチャードの寝巻きが綺麗に畳んで置いてあるのが目に入った。
またルエが居ない…。
恐怖で身体が震える。やはり許してはくれなかったんだろうか。
ルエを探そうと思い急いでシャツを着ようとすると、階段を登ってくる音がしてガチャリと扉が開いた。

「ルエ!」

リチャードはシャツを羽織っただけで入り口に駆け寄った。

「リチャード様、おはようございます。起きていたんですね。」

扉を閉めながらにこりとルエが微笑む。
その顔を見て焦りや恐怖がすーっと消えていった。

「あ、ああ。おはよう。こんな朝早くにどこへ行っていたんだ?」

「朝ご飯を作ろうと思って。パンしかなかったから。」

やかんの火を止めながらルエは卵を一つと紙に包まれたベーコンをテーブルに置いた。

「ルエが作るのか?」

驚いてリチャードが尋ねる。

「はい。あっ!僕が作ったものでは…」

リチャードが食べる食事にしてはあまりにお粗末だ。ルエは急に申し訳なくなった。

「いや、そういうことではない。嬉しいよ。何を作ってくれるんだ。」

「大したものは作れませんが。」

テーブル越しの椅子に座って食事の支度をするルエの後ろ姿を眺めた。後頭部の髪に寝癖がついてぴょこんと跳ねている。
後ろ姿まで可愛い…。リチャードは立ち上がりルエの後ろに立つ。

「手伝おうか?」

「あ、いいえ。大丈夫です。」

そのままルエのお腹に腕を回し頭に顔を埋める。

「あの、リチャード様、危ないですから。」

「うん。」

返事をするが結局リチャードは離れなかった。



食卓にはパンとベーコンエッグ、紅茶が置かれた。
椅子が一脚しかないのでテーブルをベッドの近くまで持っていきルエはベッドに座った。

「ルエの分は?」

ルエの前にはパンと紅茶しかない。
それを見たリチャードがルエに尋ねた。

「僕はいつもこれです。」

ルエはリチャードのためだけに卵やベーコンを用意して朝食を作ってくれたのだ。リチャードはルエの優しさに泣きそうな気持ちになる。

「半分こにして食べよう。」

リチャードは手際良くベーコンエッグを半分にし自分のパンに乗せ、残りをルエのパンに乗せた。

「ありがとうございます。」

「いや、お礼を言うのは私の方だ。ありがとう、ルエ。いただきます。」

塩気の利いて香ばしく焼けたベーコンはパンとよく合い卵の焼き加減もちょうど良かった。

「美味しい…。ルエ、すごく美味しいよ。」

リチャードは久しぶりに食べ物を美味しいと感じることが出来た。
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