運命はいつもその手の中に

みこと

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俺と拓実は幼稚園が一緒だった。
父親の教育方針でいろいろな人たちと関わりを持つために普通の幼稚園に通うことになった。父親には感謝だ。

三歳児クラスの入園式で拓実を見た瞬間に分かった。
『俺のもの』だって。それから六年間ずっと一緒だ。
母親はあまり良い顔をしないけど父親は拓実を気に入っている。
でもその父親は最近あまり帰って来なくなった。


もうすぐ夏休み。今年の夏休みも拓実と毎日遊ぶ予定だった。
でもそんな楽しみは母親に呆気なく潰されてしまった。

「そんな事言わないで。おばあちゃんが具合悪いのよ?亮平に会いたがってるの。ね?分かるでしょ?」

母親の母親、つまり俺のおばあちゃんはフランス人だ。フランスのニースに住んでいる。最近体調が悪くて寝込んでいるらしい。俺に会いたがっているので夏休みに二週間ほどフランスに行くことになった。
二週間も拓実に会えないのか。
行きたくないと言ったら母親に懇願された。
仕方ないな。帰って来たら毎日遊べば良いか…。



「へぇ、フランス?すごいね。」

「うん。だから八月の前半は遊べない。ごめん。」

「しょうがないよ。亮平がいない間にゲームのレベル上げしよう。」

にひひ、と嬉しそうに笑った。
拓実は寂しくないのか?少し腹が立ってしまう。

「行きたくない…。」

拗ねた口調で言った。

「え?何で?フランスだよ?」

「だって…。」

拓実に会えないという言葉を飲み込んだ。
恨みがましく拓実を見ると、何か勘違いしたようだ。

「俺だけレベル上がるのが悔しいんだろ?ほどほどにしとくよ。帰って来たら一緒にやろう。」

「うん…。」

この時、何としてでも日本に残れば良かった。
俺はずっと後悔することになる。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


フランスから帰って来てすぐに拓実の家に行った。
たくさんお土産を買ってきたので大きな袋を抱えていつも通りインターホンを鳴らす。
何度か鳴らすが返事がない。出かけているのか。
その日はそのまま家に帰った。
次の日も拓実の家には誰も居なかった。夏休みだし、旅行にでも行ったのだろうか?何も言ってなかったのに。
四日目に自宅に電話してみた。
『おかけになった電話番号は現在使われておりません…』
え?どういうこと?

母親に聞いてみたけど分からないと言われた。
俺は夏休みが明けるまで毎日通ったけど拓実に会うことはなかった。
夏休み明けの始業式の日に拓実が引っ越したことを担任から知らされた。
状況が理解できない。先生に拓実のことを聞いたけど家庭の事情としか教えてもらえなかった。もちろん転校先も分からなかった。

俺に黙って転校?
『帰って来たら一緒にやろう』
拓実の声がリフレインする。
いつものように話していつもように別れたのに…。

まだ子どもだった俺は拓実を探すことも出来ず、悶々と過ごした。
転校は仕方ないにしても何で言ってくれなかったんだ。
連絡先ぐらい教えてくれればいいのに。
ショックで悲しかった気持ちは徐々に怒りに変わっていった。

中学校は母親の望み通り私立の名門校に入学した。
拓実も居ないしどこでも良かった。
アルファばかりの学校だ。ここで人脈作りをして将来につなげる。
俺も友人を作り適当に遊んだ。
三年生になり世間では受験生のはずだが、俺を含めたほとんどが内部進学だ。なのでみんな完全にだらけきっている。
その中の何人かは既に婚約者がいたり番い候補を囲っているヤツもいた。

澤乃井さわのい、明日またお見合いだって。」

「ふーん。大変だな。」

澤乃井の家は大きな病院をいくつか経営している。アイツも医者になる予定だが、結婚相手も医者になれるような相手じゃなくてはいけないらしい。毎週のようにお見合いをしている。

桜沢さくらざわは?見合いしてないの?」

「うちは兄貴が二人いるから。そんなに焦ってない。」

嘘だ。母親は毎週のようにお見合いを持ってくる。でも俺はその気になれない。

「あ、平林ひらばやしの話し知ってる?」

「え?平林?」

平林啓ひらばやしけい、あの暗そうなヤツか。平林グループの次男だ。

「運命の番いを見つけたんだって。はしゃいでたよ。俺、アイツの声初めて聞いたかも。」

「運命の番い…。」

拓実の顔が思い浮かんだ。
俺を置いて居なくなったオメガ。もう恋焦がれてはいない。むしろ恨んでいる。
寡黙な平林がはしゃいでいるのか。想像もつかないな。
俺はまだ登校して来て居ない平林の机を見つめた。

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