運命はいつもその手の中に

みこと

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「雪雄くんに知らせると飛んで帰ってきました。亜季人の遺体はとても会わせられるような状態ではありませんでしたが、幸雄くんがどうしてもというので対面させました。声を上げて泣いてましたよ。掛ける言葉がありませんでした。」  

そうだろう。雪雄さんの気持ちは痛いほど分かる。
もし拓実がそんなことになったら…。

「私たちも気持ちの整理がつかないうちにお通夜、告別式とバタバタしていました。雪雄くんは両方に参列してくれましたが魂が抜けたような虚な顔で亜季人の遺影を見つめていました。もっと気にかけてあげれば良かったんですが、何せ私たちも亜季人が亡くなったことをまだ受け入れられなかった…。」

「雪雄さんのその後は…?」 

「亜季人の葬儀が終わったその日の夜に自殺しました。納屋で首を吊っていたそうです。遺書はありませんでした。ただ足元に『亜季人』と書いた紙だけが置いてあったそうです。」

「そんな…。」

雪雄さんはどんなに無念だったか。亜季人さんがオメガに変異してやっと結ばれることが出来たのに。

「私は悲しみに明け暮れていました。雪雄くんが居てくれたことで安心しきってしまった自分を許せなかった。オメガの亜季人をなぜ守ってやれなかったんだと。時間が経って少し冷静になった時、二人がなぜこんな形で人生を終わらせなければならなかったのか考えました。それは紛れもなく亜季人が乱暴された事が原因でした。なんとしても犯人を捕まえようと何年もかけて調べました。秘書という仕事に就いたのもこの事を調べたかったからです。社長の名を借りて大きな権力が使えますから。」

弟とその恋人の無念を晴らしたい一心でここまで生きてきたのか。

「調べていくうちに、オメガ狩りと言われる悪行を知ったんです。亜季人もその被害にあったのかもしれないと思うようになりました。パートナーのアルファがいない時を狙うんです。何年もかけて調べました。でも肝心なところでぷっつりと痕跡が消えるんですよ。」

被害者は亡くなり、アイツらは用意周到で証拠も残さない。

「そんな時、亮平様に海洋自動車を調べるように言われたんです。まさか、オメガ狩りと海洋自動車が繋がっているとは思いませんでした。調べていくうちに点と点が繋がったんです。海洋自動車の重役がオメガ狩りの首謀者でした。代々受け継がれているようで税所の前は香田という重役です。もう定年退職しているようですが。」

茂山は執念だけでここまで調べ上げたんだ。
香田という男も生きていれば罰を受けるはずだ。

「あの喫茶店のマスターの話を聞いた時、なぜ亜季人が死を選んだのか、そしてその方法が焼身自殺だったのか分かったような気がしました。無理矢理番いにされていたんですね。そして他のアルファに噛まれた頸を雪雄くんに見られたくなかったんでしょう。だからあんな、一番苦しい死に方で…。」

顔を覆って泣いている。想像を絶する弟の最期を思い出したんだろう。
その後、オメガ狩りの事を調べるために転職した。そこで出会った女性と結婚し、澪さんが生まれた。
澪さんがオメガに変異したのは十八歳の頃だ。その頃には武道家として活動していたが、父親としてはやはり心配だった。
澪さんはオメガに変異した事を受け入れ武道家としてさらに精進し、困っているオメガの力になれるような生き方を選んだ。そして星崎さんと出会い番いなった。

「澪に番いが出来た時はほっとしました。嬉しそうに頸の噛み跡を見せてくれた時には涙が出ました。星崎さんはオメガ思いの素晴らしい人です。」

そう言って涙を拭いて少しだけ微笑んだ。

「茂山、ありがとう。本当に…。拓実を救ってくれて…。オメガを救ってくれて。」

「亮平様と拓実様を見ていると亜季人と雪雄くんを思い出します。子どもの頃から一緒で特に雪雄くんは亜季人にべったりでしたから。まだ亜季人がベータだった頃からです。
亮平様、どうかお幸せに。必ず拓実様と番いになって下さい。」

「ああ。もちろんだ。必ず番いになって幸せになる。」




犯人は捕まったが茂山の抱えていた苦しみや悲しみは全て昇華された訳ではない。
亜季人さんも雪雄さんも戻らないからだ。
でも澪さんや俺たちが幸せになる事で少しでもその痛みを和らげることが出来ればいいと思った。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「亮平、税所のこと聞いたか?」

「ああ。留置所で自殺したとか。」

「服毒自殺だそうだ。」

「服毒…。」

取り調べ中の税所が死んだと知らされたのは今朝早くだった。
服毒自殺か。持ち物はチェックされていたはずだ。
本当に自殺?
これでオメガ狩りの真相は闇の中になってしまうのだろうか…。
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