運命には抗えない〜第一幕〜

みこと

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修道院を出て馬に乗りながらレオナルド様の肩越しに後ろを振り返る。
朽ちた灰色の建物は曇り空と相まって余計に寂れて見えた。修道院の脇にある牧場の羊たちがかろうじてここにまだ命があるという事を感じさせてくれた。


リト様を思うと涙が出てくる。

愛する番いと引き裂かれ、何の罪も犯していないのにこんな所に幽閉されている。自分だけはラザウェル様を信じ『魅了』にたどり着いた。でも誰かが『魅了』に気付かなければ二度とラザウェル様に会う事なくここで一生を終えるのだ。

「ルーファス、大丈夫だよ。必ず上手くいく。」

僕を支えている左腕にグッと力を入れて優しく囁いた。頭に小さなキスが落とされる。レオナルド様の優しい腕と声は僕を幸せにしてくれる。
あの二人にもこんな幸せな時間があったはずだ。
僕たちが必ず取り戻してみせる。涙を拭って前を向いた。


辺境地までは戻らず王都に滞在することにした。カナン様やビンセント先生にも協力してもらうからだ。

「ラザウェル様にはどうやってリカドに来てもらうつもりだ?」

「ラザウェル様の弟君のロベルトが騎士団にいる。ヤツがリカドで大怪我をしたと言って来てもらう。」

リト様は僕とレオナルド様とカナン様で迎えにいき、リカドの宿で待機する。ビンセント先生には『停止』の魔法を使ってもらう。
リト様の匂いの事をどうするか悩んでいると、カナン様が良い考えがあるから任せて欲しいと言って僕にウインクした。
それを見たレオナルド様がムッとした顔をして抱きしめてキスしてくる。
本当にやきもち焼きだ…。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


いよいよその日がやって来た。

リカドで馬車を借りてガタラ修道院へ向かう。
前と同じように面会申請をして待っているとリト様が来た。この間より痩せて顔色が悪い。本当に病気のように見える。心配になって聞いたら病気に見えるように少しずつ食事量を減らして三日前から食事を摂らず、水だけで過ごしていたと教えてくれた。
リト様…。必ず成功させましょう。



リト様が床に倒れた。正確には寝転がった。

「すいません!リト様が倒れてしまって!誰か来て下さい!」

僕の迫真の演技だ。

直ぐに修道女が駆けつけて来た。最近食欲がなくて心配していた、とオロオロしている。

「私は王立学校で薬学教師をしている者です。詳しい事はわかりませんが、すぐに医者に診てもらったほうが良い。」

修道女は頷いて準備を始めた。
その時、他の修道女が牧場の羊たちが逃げ出していると慌てて入って来た。『えぇ⁉︎』と驚き、さらにオロオロしている。
カナン様が柵を壊して逃したのだ。

「それは大変だ。早く羊たちを捕まえないと。リト様は私たちで病院に連れて行きましょう。一番近くの病院はどこですか?」

「あ、えぇ、ここから一つ先のリカドに診療所があります。」

「では、そこで落ち合いましょう。」

レオナルド様がヒョイとリト様を抱き上げて連れ出した。


馬車から外を見ると修道女たちが羊を追いかけ回している。申し訳ないなと思いながら連れ出すことに成功してほっとした。

「ルーファス、気を抜いちゃダメだよ?勝負はこれからだ。」

 僕の頭にそっとキスをしてレオナルド様が頷いた。


リカドの宿でビンセント先生とサフィーア様が待っていた。ラザウェル様は弟が怪我をしてこのリカドで療養していると言ってある。もうあと半刻ほどで到着する。
リト様をクローゼットに隠すとカナン様が鞄の中から何かを取り出した。親指ほどの大きさで緑色の三角形をした見たことともない物体だ。それを小さな皿の上に置いて火をつけた。

「これはね、お香と言って香りの元を練り合わせて作るんだ。海を渡った遠い島国で教わったんだよ。本来はリラックスしたい時に使うんだ。香の元によってはエッチな気分になる時もある。」

「どこで手に入るんだ?」

エッチな気分のところでレオナルド様が食い付いている。
なぜ⁉︎

「ここの大陸では無理ですね。今日は香の元にレッドドラゴンの実を使ったんだ。」

レッドドラゴンの実!あの臭いヤツ!僕と兄がカナン様に嗅がされて後ろにひっくり返ってしまった強烈な匂いの果物だ。

「あはは。大丈夫。ほんの少し混ぜただけ。メインはナーヤの葉だよ。一瞬だけフェロモンの匂いを消すと言われているんだ。自信がないからレッドドラゴンを混ぜてみた。」
強張った僕の顔見て笑いながら言った。
三角形から煙が出てきて部屋に充満する。すごく臭くはないけど不思議な匂いだ。

外から足音と話し声が聞こえてきた。ラザウェル様が着いたみたいだ!
みんなで顔を見合わせた。部屋の中が一気に緊張する。
ガチャリと扉が開いて長身の男性が入って来た。
鳶色の髪と緑色の瞳、男らしくてカッコいい人だ。すぐにラザウェル様だとわかった。


「何だこの匂いは。私の弟はどこだ?オズベルト、部屋を間違えているぞ。」

後ろ手で扉を閉めたオズベルト様に振り返って言った。

「いいえ、ラザウェル様ここであってますよ。」

「えっ?」

ビンセント先生が小さな声で魔法陣を唱えた。驚いてそちらを見たラザウェル様の足元に魔法陣が現れる。

「おまえたち何を…⁉︎」

「今です、リト様!」

クローゼットの扉が開いてリト様が出でくる。ラザウェル様は目を見開いて驚いているが体が動かない。リト様が近づいてその手をラザウェル様の頬にそっと添えた。

「ラザウェル様…。」

リト様が涙を流しながらキスをした。






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