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終章 選択
《皇帝・ルート1》34歳のそれぞれの選択
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「選べ。」
たった三文字だった。
それ以上、皇帝は何も言わなかった。きっと今、ナオに伝えたい事はたくさんあるだろう。
足りない言葉の中に、たくさんの思いが詰まっているはずだった。
しかし敢えて言わなかったのが皇帝らしかった。
今まで、ずっと一人で孤独と戦ってきたのだ。余計な言葉は必要ない。
この三文字の言葉が全てを受け止める決意の証なのだ。
ブラハは皇帝を見て、その顔から決意の程を知る。
今が決戦の瞬間なのだということを認識する。
戸惑いを隠せないナオの目を見て、ブラハはゆっくりと頷いた。
「私は・・・・。」
「私は・・・。」
ナオは言葉を詰まらせる。
だが、皇帝のたった三文字の意味の大きさをわからぬはずもない。
どちらかを選ばなければならない。もう以前と同じ関係ではいられない。
何か手を打とうにも、こうなっては全て手遅れだ。選べないという選択肢はない。
葛藤が意識の中でまどろみ、意識さえも失ってしまいそうになる。
っと危ないっ!
倒れそうになり、開いているはずの目に意識を戻した。
その瞬間に皇帝の右手が目に映った。
皇帝の右手はかすかに震えていた。
まだ治りきらない身体の痺れからではない。
ならばなぜ?とも思うが、理由は簡単だった。
怖かった。
恐怖に震えていたのだ。
ナオを失ってしまうかもしれないという恐怖に。
皇帝のその表情からはそんな恐れなど微塵にも感じられない。そう、演じているのだろう。
だが、その手の震えが本心を物語っていた。
キュゥン――――
ナオの心臓が締め付けられるように感じる。
『余の傍で、余の隣で見張っていてくれ。
ずっと・・一緒にいてくれ・・・。』
皇帝が感情をむき出しにして赤裸々に懇願した、牢獄での言葉を思い出す。
無機物に囲まれた灰色の世界で、感傷的に紡いだ言葉と流れ落ちた一筋の涙を思い出す。
その時の感情と決意が、心を染めていく。
ナオはゆっくりと皇帝の方を向く。
「私はこれからも皇帝陛下とともに在ります。」
一字一句に決意を込めて、はっきりとした声で、ナオはその言葉を口にした。
「ナオ・・・、貴様・・・。」
皇帝は少し驚いたような表情でナオを見つめ続ける。
皇帝はナオが自分とともにいたいと思う事はないと思っていた。
皇帝とナオ。二人の視線が絡む。
『大丈夫です、安心してください。傍にいます。』
そんな思いを込めて、ナオは皇帝に微笑んだ。
『かなわんな。』
ナオの笑顔を見て、皇帝はふっと口の端で笑い、目を伏した。
皇帝は心が満たされていくのを感じる。気づけば、右手の震えも止まっている。
「そんな・・・・。」
ブラハはかつてないほどに狼狽えた。
計算ではないが、勝算はあると思っていた。
ブラハがナオを求めればきっと応えてくれると。
だがブラハの全てを掛けたのに、残酷な運命はブラハを選ばなかった。
「ブラハ殿・・・・。私は――。」
「ナオ殿・・・。全てを賭してあなたを求めました・・・。それでも何が足りなかったのでしょうか・・・。」
ナオが話すのを遮って、ブラハはナオに疑問をぶつけた。
「ブラハ殿・・・。その答えは私には言えません。
ただ一つだけ・・・。あなたに本当に必要なのは私ではないと思ったのです。無理や無茶をしてまで私といることは多分あなたのためにならないと思うのです。」
「そんなことは!―――」
「いえ、今はそう思えなくても、自ずとわかる日が来ます・・・。」
否定しようとするブラハを今度はナオが遮った。
いてもたってもいられなくなったブラハは、歯を食いしばり、目を閉じる。
わなわなと震えていた体がだんだんと落ち着いてくる。
「わかりました。
残念ですが、私の負けです。ナオ殿のことは諦めます。
おとなしく兵は引き上げます。後は後日書面にて。」
ブラハは馬を返す。
「皇帝陛下・・・・。ナオ殿を頼みます。」
哀愁を背負って二人に背を向けたまま、そう言ってブラハは馬を走らせた。
ブラハが立ち去るのを見てから皇帝がナオに話しかけた。
「さて、ナオよ。忘れているであろう?皆待っているぞ。」
皇帝は停戦に持ち込んでくれた人々の方を指して言った。確かにナオには考える余地がなく、失念していた。
「そうでした。全て片づけて直ちに陛下の居室で謹慎します。」
「もうよい。好きに動け。
ブラハ王子との縁を切った今、誰も疑う者はおらんだろう。
後程、姦通罪の容疑が晴れていることも各所に通告しておく。」
いまさらかと少し呆れた皇帝にナオをお礼を言う。
そして、皆の元に帰ろうとするナオに、皇帝が馬を寄せてきた。
「ありがとう・・・。」
お互い馬の上で、皇帝はナオを抱きしめる。
予期せぬ皇帝の行動にナオは身動き一つできず、抱きしめられた。
皇帝らしからぬ優しい感謝の行動に、次第にナオは赤面していく。
「へっ陛下!!みんな見ています!皇帝の威厳が―――!」
「よい。余がこうしたいのだ。」
少しの間、皇帝は目を閉じてナオを抱きしめていた。
ナオもモジモジとしながら、皇帝の腰に手をまわしていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「皆さん。本当にありがとうございました。おかげで戦争は終結いたしました。これ以上の戦闘は起こりません。」
一般住民、タリス、サヴァディン、ネルトの人たちにお礼を伝え、ブラハとの事は誤解であり、姦通罪の容疑は晴れている事を説明する。
一般住民の人たちはナオの事を思って、よかったなと諸手を上げて喜んでくれる。
国境都市ネルト公シャルル公爵は無益は争いが続かなくてよかったと微笑む。
ただ、かかった費用は公費で払ってください、と笑いながら念を押される。
タリス島のトレスは万事うまくいったなら、酒を飲ませろ!とサヴァディン群島のジャドと騒いでいる。
最後に、ロレンツェは、ナオに安堵の笑顔を見せた。
話が終わり、一般住民が面倒を見ていた怪我人を両軍それぞれに引き渡し、人々はそれぞれの帰るべき所に散開していった。
後には戦闘の爪痕だけが残される。
全ての人が引き上げた後、最後まで残っていたナオはスタインベルグ王国軍をの方を見た。
すると少し離れたところで、ブラハがまだその場に残っていたことに気づく。最後まで見届けていたのだ。
『ブラハ殿・・・』
遠く離れた場所で二人は見つめ合う。
いや、見つめ合っている気がしているだけかもしれない。
だが、二人ともその場を動かなかった。
先ほどは別れを惜しむ間もなく、ブラハは背を向けて立ち去ってしまった。
だが今度はブラハの顔が遠巻きながら見える。
もう二度と会えなくなるのかも知れない。
そう思うと否が応でも過去の記憶が蘇ってきてしまう。
初めて会った時の屈託のない笑顔。
手を握った時の赤い顔。
国境都市ネルトでの夜会でのまさかの口説き文句。
そしてその後の赤い顔。
一緒に歩んだ幻想的な雪降る街道。
思い出すのはどれもこれもブラハの笑っている顔と赤面している顔。
いつしか、その表情に安心感と微かな愛情を感じていた。
だが、もうブラハとナオの関係に幕が降りようとしている。
ブラハに向ける気持ちも閉じなければならない。
『わかってる、わかってるのに・・・』
ナオは嗚咽する声を漏らす。
ナオの双眸から涙がとめどなく溢れて出ていた。
ぼんやりと目の前が涙でかすむ。
遠くに見えるブラハが霞んでいく。
手で溜まり過ぎた涙を拭う。
その開けた視界にはもう、ナオの見る世界にはもう、ブラハの存在はなくなっていた・・・。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
皇都に戻ったナオは住民により、歓待された。
わいのわいのとあっという間に酒場に連れていかれ、大宴会が始まる。
なぜか、ちゃっかりとタリス島のトレスと娘フィンカ、さらにはサヴァディン群島のジャドも交じっている。
宴会に興が乗ってきた所でドカンと勢いよくドアが開かれる。
「ああん、なんだ?」
気持ちよくなっていたジャドが非常に怪訝な顔をする。
だが、入ってきた人物を見て、ギョッとする。
「陛下!?」
今日はもう呑みたい!と息巻いて、すでにかなりの麦酒をあおっていたナオが素っ頓狂な声を上げる。
「急ぎだ。皇城に戻るぞ。」
皇帝にナオは腕を掴まれ、連れていかれそうになる。
だが、ナオはジョッキを放さない。
ウーウー、と餌を守る獣の様にうなる。
そしてナオは近くにあった満杯に入った麦酒を取り、皇帝に差し出した。
その場の全員の注目が集まる。
「ちっ・・・・。」
皇帝は小さく舌打ちし、麦酒を奪った。
そして、一気に飲み干す。
「「「「皇帝が下々の酒を呑んだ!しかも飲み干した!」」」
おおーっ!という驚きの声と共に歓声が上がった。
「まずい!次はもっとうまい酒を用意せよ!!」
そう言い残して、皇帝はナオを引っ張って出て行った。
「次はってまた来るのか?あの皇帝が?」
その場の誰もが得も言われぬおかしさに、思わず大爆笑となった。
酒場から出て馬車にナオを押し込もうとする皇帝にもその笑い声が聞こえていた。
ちっ、と舌打ちして軽く赤面する。
それを押し込まれた馬車の中から、酔っぱらったナオが見てケラケラと笑っている。
「ナオ・・・。貴様やはりすっとこどっこいだな。」
そう言う皇帝の表情は心なしか優しくなっていた。
だが、次第に厳しい表情になっていく。
「ナオよ。酔ってはいられんぞ。今しがた、急報が入った。
スタインベルグ王国の王都ナーエがイスタリカ王国に攻められ、陥落した。
スタインベルグ王国本軍がオルネア帝国に侵攻していたため、隙をつかれたようだ。」
「!!!」
たった三文字だった。
それ以上、皇帝は何も言わなかった。きっと今、ナオに伝えたい事はたくさんあるだろう。
足りない言葉の中に、たくさんの思いが詰まっているはずだった。
しかし敢えて言わなかったのが皇帝らしかった。
今まで、ずっと一人で孤独と戦ってきたのだ。余計な言葉は必要ない。
この三文字の言葉が全てを受け止める決意の証なのだ。
ブラハは皇帝を見て、その顔から決意の程を知る。
今が決戦の瞬間なのだということを認識する。
戸惑いを隠せないナオの目を見て、ブラハはゆっくりと頷いた。
「私は・・・・。」
「私は・・・。」
ナオは言葉を詰まらせる。
だが、皇帝のたった三文字の意味の大きさをわからぬはずもない。
どちらかを選ばなければならない。もう以前と同じ関係ではいられない。
何か手を打とうにも、こうなっては全て手遅れだ。選べないという選択肢はない。
葛藤が意識の中でまどろみ、意識さえも失ってしまいそうになる。
っと危ないっ!
倒れそうになり、開いているはずの目に意識を戻した。
その瞬間に皇帝の右手が目に映った。
皇帝の右手はかすかに震えていた。
まだ治りきらない身体の痺れからではない。
ならばなぜ?とも思うが、理由は簡単だった。
怖かった。
恐怖に震えていたのだ。
ナオを失ってしまうかもしれないという恐怖に。
皇帝のその表情からはそんな恐れなど微塵にも感じられない。そう、演じているのだろう。
だが、その手の震えが本心を物語っていた。
キュゥン――――
ナオの心臓が締め付けられるように感じる。
『余の傍で、余の隣で見張っていてくれ。
ずっと・・一緒にいてくれ・・・。』
皇帝が感情をむき出しにして赤裸々に懇願した、牢獄での言葉を思い出す。
無機物に囲まれた灰色の世界で、感傷的に紡いだ言葉と流れ落ちた一筋の涙を思い出す。
その時の感情と決意が、心を染めていく。
ナオはゆっくりと皇帝の方を向く。
「私はこれからも皇帝陛下とともに在ります。」
一字一句に決意を込めて、はっきりとした声で、ナオはその言葉を口にした。
「ナオ・・・、貴様・・・。」
皇帝は少し驚いたような表情でナオを見つめ続ける。
皇帝はナオが自分とともにいたいと思う事はないと思っていた。
皇帝とナオ。二人の視線が絡む。
『大丈夫です、安心してください。傍にいます。』
そんな思いを込めて、ナオは皇帝に微笑んだ。
『かなわんな。』
ナオの笑顔を見て、皇帝はふっと口の端で笑い、目を伏した。
皇帝は心が満たされていくのを感じる。気づけば、右手の震えも止まっている。
「そんな・・・・。」
ブラハはかつてないほどに狼狽えた。
計算ではないが、勝算はあると思っていた。
ブラハがナオを求めればきっと応えてくれると。
だがブラハの全てを掛けたのに、残酷な運命はブラハを選ばなかった。
「ブラハ殿・・・・。私は――。」
「ナオ殿・・・。全てを賭してあなたを求めました・・・。それでも何が足りなかったのでしょうか・・・。」
ナオが話すのを遮って、ブラハはナオに疑問をぶつけた。
「ブラハ殿・・・。その答えは私には言えません。
ただ一つだけ・・・。あなたに本当に必要なのは私ではないと思ったのです。無理や無茶をしてまで私といることは多分あなたのためにならないと思うのです。」
「そんなことは!―――」
「いえ、今はそう思えなくても、自ずとわかる日が来ます・・・。」
否定しようとするブラハを今度はナオが遮った。
いてもたってもいられなくなったブラハは、歯を食いしばり、目を閉じる。
わなわなと震えていた体がだんだんと落ち着いてくる。
「わかりました。
残念ですが、私の負けです。ナオ殿のことは諦めます。
おとなしく兵は引き上げます。後は後日書面にて。」
ブラハは馬を返す。
「皇帝陛下・・・・。ナオ殿を頼みます。」
哀愁を背負って二人に背を向けたまま、そう言ってブラハは馬を走らせた。
ブラハが立ち去るのを見てから皇帝がナオに話しかけた。
「さて、ナオよ。忘れているであろう?皆待っているぞ。」
皇帝は停戦に持ち込んでくれた人々の方を指して言った。確かにナオには考える余地がなく、失念していた。
「そうでした。全て片づけて直ちに陛下の居室で謹慎します。」
「もうよい。好きに動け。
ブラハ王子との縁を切った今、誰も疑う者はおらんだろう。
後程、姦通罪の容疑が晴れていることも各所に通告しておく。」
いまさらかと少し呆れた皇帝にナオをお礼を言う。
そして、皆の元に帰ろうとするナオに、皇帝が馬を寄せてきた。
「ありがとう・・・。」
お互い馬の上で、皇帝はナオを抱きしめる。
予期せぬ皇帝の行動にナオは身動き一つできず、抱きしめられた。
皇帝らしからぬ優しい感謝の行動に、次第にナオは赤面していく。
「へっ陛下!!みんな見ています!皇帝の威厳が―――!」
「よい。余がこうしたいのだ。」
少しの間、皇帝は目を閉じてナオを抱きしめていた。
ナオもモジモジとしながら、皇帝の腰に手をまわしていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「皆さん。本当にありがとうございました。おかげで戦争は終結いたしました。これ以上の戦闘は起こりません。」
一般住民、タリス、サヴァディン、ネルトの人たちにお礼を伝え、ブラハとの事は誤解であり、姦通罪の容疑は晴れている事を説明する。
一般住民の人たちはナオの事を思って、よかったなと諸手を上げて喜んでくれる。
国境都市ネルト公シャルル公爵は無益は争いが続かなくてよかったと微笑む。
ただ、かかった費用は公費で払ってください、と笑いながら念を押される。
タリス島のトレスは万事うまくいったなら、酒を飲ませろ!とサヴァディン群島のジャドと騒いでいる。
最後に、ロレンツェは、ナオに安堵の笑顔を見せた。
話が終わり、一般住民が面倒を見ていた怪我人を両軍それぞれに引き渡し、人々はそれぞれの帰るべき所に散開していった。
後には戦闘の爪痕だけが残される。
全ての人が引き上げた後、最後まで残っていたナオはスタインベルグ王国軍をの方を見た。
すると少し離れたところで、ブラハがまだその場に残っていたことに気づく。最後まで見届けていたのだ。
『ブラハ殿・・・』
遠く離れた場所で二人は見つめ合う。
いや、見つめ合っている気がしているだけかもしれない。
だが、二人ともその場を動かなかった。
先ほどは別れを惜しむ間もなく、ブラハは背を向けて立ち去ってしまった。
だが今度はブラハの顔が遠巻きながら見える。
もう二度と会えなくなるのかも知れない。
そう思うと否が応でも過去の記憶が蘇ってきてしまう。
初めて会った時の屈託のない笑顔。
手を握った時の赤い顔。
国境都市ネルトでの夜会でのまさかの口説き文句。
そしてその後の赤い顔。
一緒に歩んだ幻想的な雪降る街道。
思い出すのはどれもこれもブラハの笑っている顔と赤面している顔。
いつしか、その表情に安心感と微かな愛情を感じていた。
だが、もうブラハとナオの関係に幕が降りようとしている。
ブラハに向ける気持ちも閉じなければならない。
『わかってる、わかってるのに・・・』
ナオは嗚咽する声を漏らす。
ナオの双眸から涙がとめどなく溢れて出ていた。
ぼんやりと目の前が涙でかすむ。
遠くに見えるブラハが霞んでいく。
手で溜まり過ぎた涙を拭う。
その開けた視界にはもう、ナオの見る世界にはもう、ブラハの存在はなくなっていた・・・。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
皇都に戻ったナオは住民により、歓待された。
わいのわいのとあっという間に酒場に連れていかれ、大宴会が始まる。
なぜか、ちゃっかりとタリス島のトレスと娘フィンカ、さらにはサヴァディン群島のジャドも交じっている。
宴会に興が乗ってきた所でドカンと勢いよくドアが開かれる。
「ああん、なんだ?」
気持ちよくなっていたジャドが非常に怪訝な顔をする。
だが、入ってきた人物を見て、ギョッとする。
「陛下!?」
今日はもう呑みたい!と息巻いて、すでにかなりの麦酒をあおっていたナオが素っ頓狂な声を上げる。
「急ぎだ。皇城に戻るぞ。」
皇帝にナオは腕を掴まれ、連れていかれそうになる。
だが、ナオはジョッキを放さない。
ウーウー、と餌を守る獣の様にうなる。
そしてナオは近くにあった満杯に入った麦酒を取り、皇帝に差し出した。
その場の全員の注目が集まる。
「ちっ・・・・。」
皇帝は小さく舌打ちし、麦酒を奪った。
そして、一気に飲み干す。
「「「「皇帝が下々の酒を呑んだ!しかも飲み干した!」」」
おおーっ!という驚きの声と共に歓声が上がった。
「まずい!次はもっとうまい酒を用意せよ!!」
そう言い残して、皇帝はナオを引っ張って出て行った。
「次はってまた来るのか?あの皇帝が?」
その場の誰もが得も言われぬおかしさに、思わず大爆笑となった。
酒場から出て馬車にナオを押し込もうとする皇帝にもその笑い声が聞こえていた。
ちっ、と舌打ちして軽く赤面する。
それを押し込まれた馬車の中から、酔っぱらったナオが見てケラケラと笑っている。
「ナオ・・・。貴様やはりすっとこどっこいだな。」
そう言う皇帝の表情は心なしか優しくなっていた。
だが、次第に厳しい表情になっていく。
「ナオよ。酔ってはいられんぞ。今しがた、急報が入った。
スタインベルグ王国の王都ナーエがイスタリカ王国に攻められ、陥落した。
スタインベルグ王国本軍がオルネア帝国に侵攻していたため、隙をつかれたようだ。」
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