まばたき一つ

仁科佐和子

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まばたき一つ

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  短い命の象徴、カゲロウ。
とあるカゲロウの成虫は、数時間しか生きられない。

 人の寿命に照らしてみれば、ほんのまばたきひとつの間。

 カゲロウたちはこの瞬間ときに短く儚い命を燃やす。

 何万匹もの大群は川辺を白く染め上げる。

 まじわり、卵を産み落とし、やがては紙吹雪のようにヒラヒラその身を散らしながら3億年の営みを次の世代に繋いでいく。

 それはまばたきひとつの間。


 地を出たセミの成虫は、一週間しか生きられない。

 木々の寿命に比べてみれば、ほんのまばたきひとつの間。

 燦然と輝く太陽にジリリとその身を焼かせつつ声を限りに鳴きながら、ひと夏の恋に命を尽くす。

 光届かぬ土の中に、輝く命が還るよう、木々に卵を産みつけて、セミは大地に転がった。

 それはまばたきひとつの間。


 人生100年時代とて、一世紀しか生きられない。 

 地球の寿命に合わせてみれば、ほんのまばたきひとつの間。

 考え、惑い、泣き、笑い、人は一つの軌跡を残す。

出会いと別れ。
安堵と懺悔。
繰り返しながら命をつなぐ

 それはまばたき一つの間。


 すべての命は地球ほしの上。
地球ほしがなければ生きられない

 宇宙の寿命になぞらえてみれば、ほんのまばたきひとつの間。

 数多あまたの命をその身に乗せて、世界が終わるその日まで、地球は軌道の上を回る。

 悲喜こもごもの感情も、それぞれ背負って来た重荷も、培ってきた関係も、ささやきあった愛の言葉も。
 何もかもをのせたまま、やがて地球は太陽に呑まれる。

 それはまばたきひとつの間。


 一つの命を昇華して、あなたは何になろうというのか。

 絶望の中にのたうち回って、あなたは何を成そうというのか。

 口汚く罵られ追い立てられて、身も心もズタボロになっても、歯を食いしばり立ち続ける。

 やがて心にぽっかり穴が空いて、流す涙も枯れ果てたとき、何がその手に残るというのか。

 それはまばたきひとつの間。


 目を閉じ次に開くまでの間に、この世界はついえるだろう。

 それでも命あるものは、その使命を全うせんと賢明になって生きるのだ。
カゲロウもセミもヒトも、儚い命を燃やすのだ。

 だからせめてあなたに贈ろう。

その目に彩りを。
その耳にねぎらいを。
その心に敬愛を。

 まばたきの前夜には、暗闇の中でどうか思い出してほしい。
あなたは決して一人ではないと。
 そうすれば目を開いたとき、あなたの目の前には新しい世界が広がっているかも知れない。

 全てはまばたきひとつの間。
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