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オンラインもしもし
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ほのちゃんは3歳の女の子。 親父の妹の娘、つまり俺の従妹だ。
おばさんはちょいちょいうちにほのちゃんを預けにくる。
うちにはリモートで仕事してる親父とパートが長く休みになってるおふくろがいるからね。
でもほのちゃんの一番のお気に入りはなんといってもこの俺だ。
俺が帰ると嬉しそうにリビングから飛び出してくるんだ。
「にいに、オンラインもしもししよっ!」
「オンラインもしもし?」
ああ、親父がオンライン会議やってるところでも見たのかな?
ほのちゃんはリビングへ駆けていく。
手渡されたのは糸電話。
耳に紙コップを押し当てるとピンクの毛糸が震えて、俺の耳をほのちゃんの声がくすぐる。
「もしもーし」
ああ本当だ。 糸に乗って君の声も嬉しそうに震えている。 まさに『オンラインもしもし』だな。
「にぃに元気ですか?」
同じ部屋にいて「元気ですか?」もないとは思うけど、俺は真面目に答える。
「はい、元気ですよ。ほのちゃんはどうですか?」
ほのちゃんはカップを口に当てたままだから俺の声はラインには乗らずに直接届いちゃったみたい。
それでも返事が帰ってきた。
「ほのちゃん今日はいっぱい元気だよ~」
それからちょっぴり考えて、ほのちゃんは俺のところへ走ってきた。
「にいに。ほのちゃんね、ママにオンラインもしもしするの」
さぁ困った。 ほのちゃんがうちに来るときは、大抵おばさんが夜勤の時だ。
病棟で看護師をしているおばさんの携帯を鳴らすわけにはいかない。
かといってここでほのちゃんに泣かれるのは非常に辛い。
「うーん、糸が短いから、ちょっとママのところまでは届かないかな~」
苦し紛れの言い訳に、みるみるほのちゃんがしぼんでいく。
「あ、そうだ、テレビ見ようか?」
立ち上がる俺の制服の裾をほのちゃんは小さな手でギュッと握った。
「オンラインもしもしは、遠くの人とお話しできるって……おじちゃん言ってたもん」
(親父ぃ!罪作りなことを子どもに吹き込むんじゃねぇ!)
俺はハラワタの煮えくり返る思いで振り向いたが、書斎の電気は消えている。
親父は出掛けているようだ。
(残るライフラインはおふくろか)
助けを求めてキッチンに駆け込むと「あ、優也。いいところに帰ってきた。ちょっと揚げ物あげちゃうから、ほのちゃんお願いね!」 と、さりげなく打ち返された。
ほのちゃんは糸電話を握りしめてうつむいている。
(まずい、まずいぞ)
「ほのちゃんの元気、ママにあげたかったんだぁ」
ちくしょう、考えろ、俺! こんな小さな女の子にこんな顔させとけるかよ!
俺は携帯電話を取り出した。
「ほのちゃん、元気パワー送ってくれる?」
そう言うと、ほのちゃんは顔をあげ、糸電話を持ってリビングの隅へと走っていった。
俺は音声Maxにして、紙コップを携帯電話のマイクに押し当てる。
「ママ、元気ですか?ほのちゃんは元気です。今日保育園でね、いっぱいお昼寝したよ。そしたらね、おやつがプリンだったよ。おいしかったよ。食べたらね、元気がもりもりになったよ。だから、ほのちゃんの元気あげるね。ママもいっぱい元気になってね」
音声データを張り付けメールを作成。
『糸電話でしゃべってるんで聞こえにくいかも知れないけど、ほのちゃんのメッセージです』 と注釈をつけておばさんの携帯へと送信。
病院じゃ電源を切ってるだろうから見るのは明日かも知れないけど、これが俺にできる精一杯だ。
ほのちゃんの期待に満ちた眼差しが痛い。
そうだよな。普通、双方向通信を期待するよな……
次のアクションを思案していると、突然携帯が震えた。
「うぉっ」
ラインの通知はビデオ通話だ。
通話を押すと白衣姿のおばさんが写った。
「もしもし? 優くん?」
その声にほのちゃんが駆け寄ってきた。
「あっ! ママ!」
「ちょうど更衣室で着替えてたの。メールありがとうね!」
おばさんは手に検尿用のメモリの入った紙コップを持っている。
「もしもしほのちゃんですか?」
おばさんは紙コップを耳に当てたまま画面の中からそう言った。
ほのちゃんはピンクの毛糸のついた紙コップを口に当てて一生懸命しゃべっている。
「もしもーし! ママですか? ほのちゃんの元気届きましたか?」
「はい、届きましたよ! もりもりほのちゃんパワーで、ママも元気もりもりです」
「よかったぁ」
「ほのちゃん、ありがとね! ママ頑張るから、ほのちゃんもいい子で待っててね」
「うん、待ってるよ。ママ頑張ってね」
電話が切れた。
俺は涙を必死でこらえた。 そんな俺に、ほのちゃんは糸電話を持たせた。
「にいににも、ほのちゃんの元気あげるね」
(ああ、すげぇなオンラインもしもしって)
耳から流れて込んでくるほのちゃんの声は、間違いなく元気の素だ。
おばさんは大変な仕事をこの声で乗りきってるんだ。
俺はこらえきれずに出てきた涙をぐいっと手の甲でぬぐった。
おばさんはちょいちょいうちにほのちゃんを預けにくる。
うちにはリモートで仕事してる親父とパートが長く休みになってるおふくろがいるからね。
でもほのちゃんの一番のお気に入りはなんといってもこの俺だ。
俺が帰ると嬉しそうにリビングから飛び出してくるんだ。
「にいに、オンラインもしもししよっ!」
「オンラインもしもし?」
ああ、親父がオンライン会議やってるところでも見たのかな?
ほのちゃんはリビングへ駆けていく。
手渡されたのは糸電話。
耳に紙コップを押し当てるとピンクの毛糸が震えて、俺の耳をほのちゃんの声がくすぐる。
「もしもーし」
ああ本当だ。 糸に乗って君の声も嬉しそうに震えている。 まさに『オンラインもしもし』だな。
「にぃに元気ですか?」
同じ部屋にいて「元気ですか?」もないとは思うけど、俺は真面目に答える。
「はい、元気ですよ。ほのちゃんはどうですか?」
ほのちゃんはカップを口に当てたままだから俺の声はラインには乗らずに直接届いちゃったみたい。
それでも返事が帰ってきた。
「ほのちゃん今日はいっぱい元気だよ~」
それからちょっぴり考えて、ほのちゃんは俺のところへ走ってきた。
「にいに。ほのちゃんね、ママにオンラインもしもしするの」
さぁ困った。 ほのちゃんがうちに来るときは、大抵おばさんが夜勤の時だ。
病棟で看護師をしているおばさんの携帯を鳴らすわけにはいかない。
かといってここでほのちゃんに泣かれるのは非常に辛い。
「うーん、糸が短いから、ちょっとママのところまでは届かないかな~」
苦し紛れの言い訳に、みるみるほのちゃんがしぼんでいく。
「あ、そうだ、テレビ見ようか?」
立ち上がる俺の制服の裾をほのちゃんは小さな手でギュッと握った。
「オンラインもしもしは、遠くの人とお話しできるって……おじちゃん言ってたもん」
(親父ぃ!罪作りなことを子どもに吹き込むんじゃねぇ!)
俺はハラワタの煮えくり返る思いで振り向いたが、書斎の電気は消えている。
親父は出掛けているようだ。
(残るライフラインはおふくろか)
助けを求めてキッチンに駆け込むと「あ、優也。いいところに帰ってきた。ちょっと揚げ物あげちゃうから、ほのちゃんお願いね!」 と、さりげなく打ち返された。
ほのちゃんは糸電話を握りしめてうつむいている。
(まずい、まずいぞ)
「ほのちゃんの元気、ママにあげたかったんだぁ」
ちくしょう、考えろ、俺! こんな小さな女の子にこんな顔させとけるかよ!
俺は携帯電話を取り出した。
「ほのちゃん、元気パワー送ってくれる?」
そう言うと、ほのちゃんは顔をあげ、糸電話を持ってリビングの隅へと走っていった。
俺は音声Maxにして、紙コップを携帯電話のマイクに押し当てる。
「ママ、元気ですか?ほのちゃんは元気です。今日保育園でね、いっぱいお昼寝したよ。そしたらね、おやつがプリンだったよ。おいしかったよ。食べたらね、元気がもりもりになったよ。だから、ほのちゃんの元気あげるね。ママもいっぱい元気になってね」
音声データを張り付けメールを作成。
『糸電話でしゃべってるんで聞こえにくいかも知れないけど、ほのちゃんのメッセージです』 と注釈をつけておばさんの携帯へと送信。
病院じゃ電源を切ってるだろうから見るのは明日かも知れないけど、これが俺にできる精一杯だ。
ほのちゃんの期待に満ちた眼差しが痛い。
そうだよな。普通、双方向通信を期待するよな……
次のアクションを思案していると、突然携帯が震えた。
「うぉっ」
ラインの通知はビデオ通話だ。
通話を押すと白衣姿のおばさんが写った。
「もしもし? 優くん?」
その声にほのちゃんが駆け寄ってきた。
「あっ! ママ!」
「ちょうど更衣室で着替えてたの。メールありがとうね!」
おばさんは手に検尿用のメモリの入った紙コップを持っている。
「もしもしほのちゃんですか?」
おばさんは紙コップを耳に当てたまま画面の中からそう言った。
ほのちゃんはピンクの毛糸のついた紙コップを口に当てて一生懸命しゃべっている。
「もしもーし! ママですか? ほのちゃんの元気届きましたか?」
「はい、届きましたよ! もりもりほのちゃんパワーで、ママも元気もりもりです」
「よかったぁ」
「ほのちゃん、ありがとね! ママ頑張るから、ほのちゃんもいい子で待っててね」
「うん、待ってるよ。ママ頑張ってね」
電話が切れた。
俺は涙を必死でこらえた。 そんな俺に、ほのちゃんは糸電話を持たせた。
「にいににも、ほのちゃんの元気あげるね」
(ああ、すげぇなオンラインもしもしって)
耳から流れて込んでくるほのちゃんの声は、間違いなく元気の素だ。
おばさんは大変な仕事をこの声で乗りきってるんだ。
俺はこらえきれずに出てきた涙をぐいっと手の甲でぬぐった。
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