すとれんじ ~古本屋の裏側~

なる

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プロローグ

黒猫は走る

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じんじんと、皮膚を焼き付ける日差しと、遠くでミーンミーンと鳴きっぱなしのセミ。

セミの鳴き声と日差しのダブル攻撃は、とてつもなく暑い。

「うわぁ、あっちぃな」

暑すぎて独り言を言ってしまうくらい。

周りの人も、暑いなーとか独り言やら、なにやら言っているのが多い。

暑いって言うと、更に暑さが倍増する気がする。

それは俺の気のせいだろうか?

なんとなく、おじいちゃんのブレスレットをいじっていたら、汗で滑って落としてしまう。

落としたブレスレットを拾おうとしたら黒猫がサッと取られてしまった。

黒猫は、もうダッシュして行ってしまう。

「おい!ちょっと待てよ!」

待てよと言っても止まっては、くれない。

そりゃそうだ。

だって猫だから。

猫に日本語が通じるわけない。

俺は、黒猫を追いかけた。


黒猫は、だんだん薄暗くて細い路地に行ってしまう。

そして黒猫は、ついに何かのお店に入っていった。

古本屋だろうか...?

古い本が多数並んでいたり、ダンボールには、この中に入っている本は全て100円と書いてある紙が貼ってある。

看板を見ると、ぶっきらぼうな字で「すとれんじ」と書いてあった。

看板も汚いが、お世辞でも綺麗とは言えないほど古くて、不気味だった。

「なんだよここは...気味わりぃな」

「お主、何の用だ?」

背後から急に声をかけられたので、ヒャッと変な声をだしてしまう。

後ろを恐る恐る振り向くと、くまの人形を抱えている可愛らしい女の子がいた。

7、8歳くらいだろうか?

それにしても、異様な雰囲気が漂う。

「いや、ここに黒猫が入っていったから...」

「黒猫とは、クロじゃな」

さっきから疑問に思っていたが、変な口調だな。

なんでか分からないけど、あまり関わりたくないなって思ってしまう。

女の子は、そのままお店の中に入っていったので俺もつられて入った。

お店の中に並んでいる本は、掃除をしていないのか、ホコリを纏っていた。

「くしゅんっ」

ホコリがすごいから、鼻がずるずるして、くしゃみが出る。

「お主、風邪でもひいたのか?」

「いや、ホコリが凄くて...俺、アレルギーあるからさ」

「ん?なんじゃ?あれるぎーとは?」

女の子は、首を傾げる。

「え?アレルギーはアレルギーだけど...知らないの?」

「そんなの知らん。あれるぎーとはなんじゃ?」

この子は嘘は言っていないだろう。

だって、目に偽りがないのだから。

「えっと、アレルギーってる言うのは、例えば俺みたいに、ホコリに対して体が拒否反応を起こして、体に異常が発生するんだ。そしたら、くしゃみとか肌がかぶれたり色々な症状が起こることなんだ」

女の子は、半分言っていることが分からないのか、微妙な反応で首を横に倒す。

ああ、これは分かってないな。

「花奈!どこいってたの!?」

奥のドアからひょこっと女の人が出てきた。

俺と歳は同じくらいだろうか?

半袖にジーパンという格好をしており、見るからに、お洒落とか苦手なんだろうなと思われる。

格好とは裏腹に、色素の薄い肌に、大きな黒い瞳。

「ちょっと、外にでておったのだ」

すると、女の人は俺の存在に気がついたのか、俺のことを凝視する。

「えっと...あなたは?」

女の人と話すこと自体が久しぶりなため、緊張してしまう。

「ここに黒猫いませんか?俺のブレスレット持っていっちゃって」

「ああ!クロですね!ちょっと待っててください!」

女の人は、ドタバタしながら奥の部屋に入っていった。

なんだか、そそっかしい人だな...

無意識に心配になってしまう。

「こら!クロ離しなさい!」

奥の部屋から声や物音が、ガタガタする。

いや、大丈夫じゃないよね...?

ふいに、さっき花奈と呼ばれていた女の子を見たら、くまの人形で遊んでいた。

えっと、とりあえず待っててもいいのかな?

とりあえず大人しく待つことにした。


そして、何分か経ったころに髪の毛とかをボロボロにしながら出てきた。

「これかな?」

彼女はそういって、俺のブレスレットを差し出した。

「あ、はい!これです。ありがとうございます!」

「うちのクロが持って行ってしまってごめんなさい」

「いえ、こうして戻ってきたので大丈夫ですよ」

「そう?」

彼女は不満な表情を浮かべる。

納得していないのかな...?

全然大丈夫なんだけど。

「あの、本当に大丈夫ですよ?」

俺がそう言った直後に、彼女は両手をパンッと叩いた。

何かひらめいたらそうだ。

「そうだ!実は、あなたの持っているブレスレット、いわく付きなんだよね」

「は?いわく付きってこれが?」

「うん。それ、おじいちゃんから貰ったものでしょ?」

「あ、はい...」

どうして分かるんだ?

何か超能力でもあるのか?

だけど信じられない。

いや、信じられるわけがない。

「んー、まだ信じてくれないかな?」

「まあ、簡単には信じられないと思いますけど...」

彼女は困ったような顔をする。

「じゃあ、あなたのおじいちゃんに合わせてあげようか?」

「何言ってるんですか?おじいちゃんは、もう亡くなりましたよ」

彼女は、指を口の前に左右に動かし、チッチッチッとやる。

ぶっちゃけ、ウザイなと思ってしまった。

「知ってるよ?私は、死んだ人と少しだけ会わせてあげることができる」

彼女は嘘を言っていないと思う。

そんな気がする...

「じゃあ、会わせてくださいよ。俺は、おじいちゃんに言い残したことがあります。あの別れ方じゃ、心残りありまくりなんですよ!」

俺は、彼女に八つ当たりをしてしまう。

彼女は何にも悪くないのに...

ただ、素直じゃない俺がいけないのに。

「いいよ。じゃあ会わせてあげる。そこに座って」

彼女が差し出した椅子は、見たことのない文字が描かれた不気味な椅子だった。

俺は、素直に座った。

「じゃあ、目を瞑って」

言われるままに目を瞑る。

そしたら急に意識が遠のき、フワッとお香か何かの香りがした。




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