反転の書〜異界の扉が開いた現実世界を生きるという事

Fragment Weaver

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時間との闘い

7秒の壁

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倫理的でない自動投稿機能とは何か?
それは省力化を名目として開発され、本人の努力を無効化する事を目的として用いられる脳波技術を高度な諜報活動向けに転用したものである。第三者へ本人が動作をする為に行う認識を本人が行う前に感知し、アウトプットをする実に効率的な道具である。
そして彼等の使うその技術の圧倒的な情報収集能力の要は、脳神経の活動を遠隔地から観測する事を可能にする脳波スキミング技術の革新にあった。
 ああ、なんという事か。私が紡ぎだすアートやプログラミングに関するあらゆるアイディアは、ネット上に発表する以前に、いやそれどころか書き出し自らの手で表現する以前に取得されてしまうのだ。そして無慈悲にもデータが取得されるのは、私の認知が自らの思考に追い付く7秒前なのである。個人を防護する筈の空間的制約は今や、ほとんど意味を成さない。試験運用中である新通信方式を用いた超高速通信網の普及は、タイムラグを可能な限り短縮する事で、彼等の優位性を盤石とする一助となるだろう。
 この暴挙の前には人間の有するどのような美徳も、知性も隷属的活動に変換され計測者の知的好奇心と名誉欲を満たす為の虚しい道具にまで貶められる。私が手入力で文字を端末越しにネットへ出力するには、脳神経を介して私がまず入力行動を行う事を志向し、その後に端末を介して文字入力を行う。この間最短でも数秒かかる。しかし、そのプロセスの初期段階で本人の意思に関係無く遠隔地から読み込まれ受信された脳波が自動入力されたデータは、ほぼタイムラグ無しでネット上にアウトプットされるのである。
 行動を意図した瞬間から、それを己自身が認識するまでの7秒間の時間差は人間の生理的限界点である。その無意識と意識の狭間の時間に介入し、データを掠め取る悪夢のような行為は、市民がその技術の存在を知るよりも前に、人知れず実用化されていた。その革新的技術は、間諜や防諜に主に用いられ、民間にその技術が周知の事実として広く知れ渡るまでの期間、彼等はAI開発に必要なデータ採取や反体制的言動を行う者や、その疑いがある者の脳神経のを丹念に時間をかけて調べ上げ、思想調査をしながらその潜在的な脅威を有すると目された大小様々な市民集団の脆弱性が何処にあるのかをリストアップし、来たる有事に備えたのである。
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