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光学都市と魔石の書
決まりごと1
しおりを挟む「ところで」
一旦言葉を切って勿体をつけてから彼は言った。
「君が元は異教徒だったと言う噂は本当かな?」
全く面白味も何も無い。彼等「縛鎖教団」を構成する他の人間達と似たり寄ったりの反応だった。彼もまた、そのくだらない好奇心の所為で後日自らの愚かさに身を掻き毟る思いをする羽目になるのである。
「ええ、確かに」
いかにも慣れているといった風を装って私は応えた。
「ですが御安心下さい。私は一流の教育者によって、『再調整』されております。彼等のような無様な反応は起こしませんとも」
そう言って危なげなく他の日常的な話題へと繋げる。
正直なところ、前以て事前調査から全てのパーソナリティに関連する要素を「洗った」上で、それとなくこちらの興味を引くように親しげに話し掛けてくるこの手の人間に、何も感じない訳では無かった。そして、この年齢まで、彼等の規範に基づいた脳波センシングを潜り抜けて来た経験からすると、最も苦しいのは苦手意識による拒絶反応の隠蔽では無かった。
彼等は脳波センシングによるヒトの情緒的反応の統制と統御に至上の悦びを覚えるよう人為的にデザインされた人々である。彼等は教団に心理的抵抗を試みる人間を同じ人間として見做しはしない。日常的に心無い言葉を投げ掛けてくる人々をそれぞれ単体として恨む事もかつてはあったが、最早そのような存在であると「諦めた」時点からその気持ちをやり過ごす事を覚えた。筋から言えば彼等に下層階級を見下す習性を植え付けた人間達やシステムこそが真の敵なのだ。
「君の話はとても示唆に富んでいて実に興味深い。君程知的な話が出来る者が回帰主義者であったとは俄かには信じ難い話だよ」そう言って彼はこちらの眼を覗き込んでくる。あのタイプはこちらの動悸や息遣い、そして脳波の波形に至るまで心理的抵抗や拒絶を示す反応であればどんな些細なものも見逃すまいと敢えて挑発的な表現を一見穏やかな表現に滑り込ませて来るのだ。だから壁も檻も無い開放的な空間でさえも、私のような者には牢獄に等しい。頭上には果てのない空が広がっていてもヒトは道具の補助無しには飛べはしないのだ。なのに私達人間は今皮肉にも最先端技術の結晶である文明の利器によって心を縛り付けられ、在ろう事かこの隔たりの無い宙を丸ごと監視されている。
彼等の実に高慢で空疎な話に延々と付き合わされ数時間が経過する間、礼儀正しく上品に相槌を打ちながら私は一方で脳が癇癪を起こさないように腐心していた。そうこうしている内にやっと相手の話が終わる。
「では、今日はこれで失礼するよ。何か用向きがあればいつでも訪ねて来てくれたまえ」
そう言って教団のスポンサーでもある光学都市の幹部は、訪ねて来た時と同じように穏やかだが薄っぺらな笑みを顔に貼り付けたままで私の家を去って行った。だが油断は出来ない。「普通の人間」は自らの脳に嘘を付けない。この星系内にいる限り、そこは彼等と脳波端末越しに脳を鎖に繋がれた「普通の人間」達の庭に等しいのだ。
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