Epitaph 〜碑文〜

たまつくり

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発展著しいドルトミルアン国の王都にあるアパルトマンの一室、そこで一組の男女が対峙していた。

決して色っぽい様子はなく、かといってギスギスした様子もない。

むしろ女は飄々と、男は正反対でどこか落ち着かない様子でソワソワしている。

どういった関係なのか?見る人が見れば疑問に思うだろうが、部屋には二人きり。

うら若きご令嬢だったら二人きりというシチュエーションを躊躇うかもしれないが、二人ともそこそこ年齢を重ねている。

子どもの一人や二人いるだろう見た目。

そんな二人だから同じ部屋で二人きりというのも問題ないのだろう。

「その、久しぶりだな…」

とうとう言葉を発したのは男の方だった。

「そうですね、お久しぶりです」

女は言われたから答えたという体だ。

「元気だったか?」

「ええ、まあ…」

二人の間に話題はないのか、会話のキャッチボールは続かない。

何か話題をと男が口を開いたときだった。

ーコンコンー

部屋を叩く音が響いた。

「どうぞ…」

入ってきたのは侍女だろうか、ティーワゴンを押して入室してきた。

「失礼いたします、お茶をお持ちいたしました」

「ご苦労さま、あとはやるから下がっていいわ」

「承知いたしました」

椅子から立ち上がった女は杖を使いティーワゴンまで歩き、慣れた様でお茶を淹れると、男に「どうぞ」と渡す。

「侍女を雇えるくらい生活は充実しているんだな」

男は女が生活に困窮しているのではないか、と不安だった。それは罪悪感からそうさせているのだろう。

「ここのアパルトマン付きの使用人です、月に一定額払えばいいので、個人で雇うよりかは格安です」

「そ、そうなのか…」

「ええ、自分の身の回りの世話は自分で出来ますから。洗濯物や今のようなお茶の用意はやってもらいます」

聞いたことのないシステムで、男は困惑してしまう、使用人は一人の主人、或いは仕える一族のために存在している者、それが男の価値観。

男はドルトミルアン国に赴いてから困惑しきりだ。事実、このアパルトマンで生まれてはじめてエレベーターというものに乗ったのだ。

「その、着替えも自分でやっているのか?」

「ええ、着替えも入浴も料理も出来ますわ」

「不便ではないのか?」

「特には、慣れましたから」

男の疑問は至極真っ当なものだと考えられる、男が知っている女は生まれたときから生粋の貴族だからだ。

ただ二十年会っていない、その間女に何かがあったのだろう、とは容易に想像がつく。そしてその状況を作った一人が自分だということも。

「お茶でも飲んで落ち着かれては?」

思っている以上に動揺が表に出ていたようで、女にそう窘められる。

手元のティーカップを見ると、ガラスの器に青いお茶が注がれていた。

「青い、お茶?」

「ええ、亡き母の祖国の特産品ですの。私、大好きで小さい頃からよく自分で淹れて飲んでましたわ」

知らなかった、男は女を幼い頃から知っていた。いわゆる幼馴染だ。

それなのに女が好きなお茶を知らなかった?

しかも自分で淹れていた?

おかしいではないか?
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