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しおりを挟む「おまたせ~」
デリバリーの夕食を食べ終え、皆で食後の珈琲を飲んでいると、赤髪の男が突然入ってきた
「頼、思ったより遅かったね?」
志野さんがそう言いつつ席を立つ
「やー、相手さんが駄々こねまくってさぁ。大野さんがキレそうになっちゃって話を纏めるのに時間食っちまった。」
頼さんは社長の隣にドカッと座ると大きく伸びをした
「それはそれはお疲れさん。その大野さんは?」
「車停めて事務所に連絡入れてる。先に資料を社長に持ってけって。」
鞄をゴソゴソして書類を出すと社長に渡した
社長が目を通し始めると、頼さんは僕をじっと見つめた
「あの……初めまして、相田彼方と申します。4ヶ月ほど前からこちらでお世話になっています。」
ペコっと頭を下げると、ニヤニヤ笑われる
「やだな~彼方君、何度も会ってるのに俺の事忘れちゃったの?」
「えっ!?」
僕こんな真っ赤な髪をした人なんて知り合いにいないんだけど…
もしかして山を転げ落ちた時記憶が飛んだ…?
いや、でも……皆の事は覚えてるし……
「頼、彼方を揶揄うな。」
ぐるぐる考えていたら叶さんがピシャリと言った
揶揄う??
「そうですよ。以前の貴方とは大分雰囲気が変わってるんですから、彼方君が分かるわけないでしょう?」
珈琲を1つ手に持ち志野さんがこちらに来る
「ごめんごめん、俺は畠山頼人。皆頼って呼んでるから頼って呼んで。
彼方に会ってた時は黒髪で長髪だったから分からんかもな。」
畠山頼人……え……でも……全然雰囲気違いすぎる……
「も…もしかして、立川さんのマネージャーさん…?」
「正解!よくマネージャーの名前まで覚えてたな!」
「ええ…まぁ……」
確かにマネージャーさんとは何度か話したことがある
まさかこの人が同一人物だなんて…
「頼は龍さんが亡くなってから、暫く休暇をとるため海外を転々としてたんだ。今回の件で丁度アメリカに居たから、ついでに連れて帰ってきたんだよ。」
「そうそう、響から連絡貰って龍さんが言ってた子がうちの事務所に入ってるわ、行方不明だわで慌てて戻ってきたわけよ」
ケラケラ笑う頼さんは珈琲をフーフーしてさっきから冷やしている
「頼、ぬるめにしてますから飲めますよ」
「あ、サンキュー!さすが俺の嫁!」
嫁?
志野さんを見れば顔を真っ赤にしている
「…志野さん?」
「かな…彼方君……これは……その……」
目を泳がせモゴモゴしている
これはもしかして……
「なに?言ってなかったわけ?俺達が結婚してる事」
やっぱりか
さっき社長が彼らの家って言ってたもんね
「頼!!」
「別に隠すような事でもないだろ?苗字だって一緒なんだし」
「あ…僕志野さんの苗字聞いてませんでした…」
「え…マジかよ……」
頼さんはジト目で志野さんを見る
「だって……同性婚は……未だに嫌悪する人もいますから…ナイーブな話でしょ?」
同性婚が日本でも認められるようになって随分経つけど、困った様な顔をする志野さんは、きっと今まで苦労した事があったんだろう
「僕の友達にも同性カップルは居ますよ。この世に男と女っていう性別しかないからって、好きでもない人と付き合ったり結婚するのは間違ってると思うし、愛し合ってるなら同性でも良いんじゃないかって僕は思います」
そう言ってニコッと笑えば、戸惑いを見せる志乃志野さん
もしかしたら志野さんは同性愛者というだけで沢山傷つけられてきたのかもしれない
「それにね僕の同性愛者の友人が結婚報告を両親にするから立ち会って欲しいって言われて、立ち会った事があるんです。
その時、彼の母親から子供も産めない男と結婚したいだなんて!気持ち悪いし世間に顔向けできない!って2人が責められたんで、その母親に言ってやったんですよ。」
今は男女で結婚した所で子供を産まない夫婦もいるし、女性でも子供を産めない人もいる。
子孫を残すためだけの結婚に、アンタの息子の幸せは何処にあるんだ。親ならまずは子供の幸せを考えろ、親は子供より先に死ぬんだから、あんた達が死んだ後、こいつを幸せにできるのは、こいつを心から愛してる人だけだろって。
友人の母親は他人は黙っとけと怒鳴ってきたけど、悲しい顔をした友人達を見たら口が止まらなかった
愛のない家庭になんの意味があるのか
愛のない夫婦の間に産まれた子供は愛を知ることも無く、険悪な言葉のやり取りを見て育つ
子供は親の玩具でも奴隷でも所有物でもない
子供の幸せも願えないような親は必要ない
同性を好きになる気持ちが理解できないのは仕方がない
けど、理解する努力もせず、自分が正しいと思って相手を攻撃するのは大間違いだ
世間がなんだよ?その世間の目から守るのがあんた達の務めだろ?
それができないなら、あんた達こそ親失格だよ。
そう言ったら反論してこなかった
父親の方は、最後に好きにしなさいって言ってた
母親の事は気にしなくて良いとも
「……なかなかハッキリえげつない事言うんだな……」
頼さんは苦笑いをする
「でも実際そうでしょ?親だからって子供の幸せを勝手に決めていいわけじゃない。ましてや他人が、人を愛する事に口を出すべきじゃない。
口を出していいのは、その人を生涯幸せにできる人だけだと僕は思います。」
「彼方君…ありがとう」
そう言った志野さんは潤んだ瞳で凄く可愛らしい顔で笑った
僕達がそんな話をしている間に、大野さんと言う弁護士さんが到着した
挨拶を交わし、話が始まった
「今回の嫌がらせの件と拉致の件ですが、この2つは繋がっている事が分かりました。」
大野弁護士の言葉に衝撃が走った
「大野さん、どういう事?」
眉間に皺を寄せ、叶さんが続きを促す
「相田さんに嫌がらせをしていた主犯格の生田と高松ですが、スタプロから引き抜きの話が出ていました。
スタプロに入れば、アイドルとしてデビューさせてやる、その代わりにPEPの稽古の仕方や役者の育て方の情報を流すよう契約書を書かされていましたよ。」
スタプロって、歌手ばかりの大手のプロダクション…
「企業秘密なども盗む為、マネージャーの細井も一緒に引き抜く予定だったみたいです。」
「アイツもか……ってことは最初から………」
「彼らはスタプロから、一緒に引き抜けそうな奴を生田達がよく行くキャバクラへ連れてくるよう言われていたようです。
その報酬に金銭を貰っていました。
金回りが良かったのはその為です。
キャバクラでスタプロが品定めし、お眼鏡に叶うと言葉巧みに引き抜く手筈だったようです。
相田さんもキャバクラにしつこく誘われたでしょう?」
「はい、ずっと断り続けました。そうしたら次は嫌がらせが始まって…」
「彼らは、相田さんを引き抜けないと分かり、次の行動に移しました。スタプロから、将来有望でも引き抜けないやつは潰せと言われていたようです。細井にも同じ指示がありました。今迄にもPEPを突如辞めた子はそういった経緯があったようですね。」
「……スタプロって腐ってますね」
ボソッと志野さんが言った
「細井が相田さんを拉致して山に置き去りにしたのはその為だと思います。彼らは焦っていたのでしょうね。」
「焦る?舞台のオーディションの日程が出たからですか?」
拉致されたのは明日からオーディションが行われるって聞かされた日だったし…
「それもですが、響君が戻ってくるまであまり時間がなかったからでしょう。
響君が戻ってくれば、また志野君が相田さんに張り付く、そうなれば彼らが手を出すチャンスが無くなる。」
確かに、志野さんが戻ってきたら、僕の送り迎えや仕事の付き添いは志野さんがするって言ってた
だからって山に置き去りにするか?
下手したら死んでたかもしれないのに……
「それで?細井達にそれを指示した証拠はあったの?ずっと上手く隠蔽してたけど」
叶さんが首を傾げる
確かに、指示したなら口頭だったのかもしれない
「あったよ~、俺がちゃーんと速攻で見つけてきたから。細井も用心深い男でね、アイツに振り分けてる事務所ロッカーに銀行の金庫の鍵があって、金庫の中にはスタプロから貰った大金とUSBが隠されてた。
USBの中のファイルには音声とデジタル契約書に色々な写真、毎日の日記にメールのやり取りまで入ってたよ。
多分、スタプロが裏切った時の手札にするつもりだったんだろうねー」
「……それなのに持って逃げなかったのか」
呆れたような叶さんに、頼さんはニヤッと笑う
「そりゃ無理でしょ?彼方が行方不明になってから、響の指示でずっと志野や他のマネージャーが常に見張って行動を共にしてたし、元々細井はロッカーなんて使ってなかった。
急にロッカーを使えば不審に思われるだろ?」
「なるほどな。で?向こうとの話し合いはどうなったんだ?」
「それがねぇ…」
頼さんはわざとらしく深ーい溜息を吐いた
「証拠も揃ってるのに、うちは関係ないの一点張りだったから、警察に全て提出して向こうの社長は教唆犯で豚箱行きにする事にした。
証拠も渡したから逮捕状が出しだい警察が逮捕するはずだよ。
だけど、こっちは彼方をいじめていた奴らを解雇しないといけないから、警察には外で待ってもらってる。
あと、向こうの副社長は全くの寝耳に水だったみたいで、彼方への慰謝料と事務所への慰謝料を払う事で事務所自体を潰すのは辞めといた。
一応在籍の子達が居るからね。その子達に罪はないし。」
警察が外で待ってる…?
え?呑気に話してる場合じゃないよね!?
「おいおい!警察待たせてるなら先に言えよ!!」
社長も慌てて何処かに電話をかけ出した
「彼方、今から生田達がここに連れてこられる。後のことは任せて家に帰ろう。」
耳元で叶さんに囁かれて擽ったい
「え…でも……引き金は僕の件ですし…当事者が先に帰るなんて……」
「相田さん、気にせず帰って休んでください。明日の事情聴取は私も御一緒しますので、また明日お会いしましょう」
大野弁護士にそう言われると、さすがに残る事はできない
叶さんに連れられて僕は事務所を後にした
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