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第4章:温かい家庭
85.王女救出作戦(3)
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エシュヴィア公国には『明日、アウレウスの様子を見てきます』と伝えておいた。
仲裁役が両国を飛び回るのは珍しいことじゃない。
怪しまれることはないはずだ。
アンナ王女には、私の部屋で一緒に寝てもらうことにした。
「まずはその足を癒しましょう」
私は治癒魔術で、アンナ王女の足の傷を癒した。
この程度の傷なら、私でも傷跡を残さないぐらい造作もない。
「わぁ、痛みが消えました!
魔術って凄いのですね!」
侍女姿のアンナ王女は、無邪気に喜んでいた。
良かった、表情は明るい。
あんな劣悪な環境での監禁生活だ。
その幼い心に、もっと傷を負っていてもおかしくなかった。
この少女は、見た目よりタフなのかもしれない。
アンナ王女にはベッドで寝てもらい、私はソファで仮眠を取る。
鍛錬の結果、古代魔法版『蜃気楼』ひとり分くらいなら、仮眠で維持できるようになっていた。
朝になり、私たちはアウレウス王国へ向かった。
急な事なので、ユルゲン兄様の部下たちはほとんど戻って来ていない。
ユルゲン兄様はわずかに戻って来ていた部下たちを在外公館に残した。
何か指示を出していたようだ。
馬車の中でユルゲン兄様に尋ねる。
「何を指示してらしたんですか?」
ユルゲン兄様はやんわりと笑って応える。
「お仕事だよ」
……今はアンナ王女が同乗してる。
詳細を口にできる状況じゃないか。
アウレウス王国とエシュヴィア公国間の国境。
そのエシュヴィア側に辿り着いた。
ここを無事通過できれば、今回の任務はほぼ終わったようなものだ。
気持ちが引き締まっていくのを感じる。
行きと同じように、私が自分で馬車の外に出て、身分を証明する。
馬車の仲も確認され、不審な点がないことを確かめられていく。
私の身分を確認し終えた兵が「行って良し!」と声を張り、取り囲んでいた兵たちが道を開けた。
私が馬車に戻ると、間もなく使節団は国境を通過していく。
馬車は無事、アウレウス王国へと戻っていった。
****
アウレウス王城の軍議室。私たちはこの部屋に、再びやってきた。
前回と違うのは、侍女を一人連れていること。
前回と同じようにアウレウス王のみが部屋に入り、扉が閉められる。
アウレウス王が椅子に腰を下ろし、私を見て告げる。
「それで、娘の奪還はどうなっている。
監禁場所の特定はできたのか」
私は侍女と、ニヤニヤと顔を見合わせた。
怪訝な顔をしたアウレウス王に対し、侍女は振り向いて「お父様!」と叫んだ。
その声に合わせ、私は彼女にかけていた魔法を解除する。
侍女が王女の姿に戻り、アウレウス王が目を見開いた。
「アンナ?!」
驚いて腰を浮かせたアウレウス王に、アンナ王女は立ち上がり飛びついていた。
二人は久しぶりの再会を喜んでいるようだった。
「アンナ……無事だったか」
「はい、レブナントの方のおかげです!
怪我も治してもらいました!」
『怪我』と聞いたアウレウス王の視線が、アンナ王女の痩せこけた頬や着る物に落ちる。
ボロボロにほつれ、薄汚れたドレス。
それだけで、どんな扱いを受けていたか、想像に難くないだろう。
「……エシュヴィア共め」
アウレウス王が憎悪に燃えた双眸を光らせ、憎々しげに吐き捨てた。
その声に私は、冷静に応える。
「まだ裏は取れていませんが、エシュヴィア宰相の独断でほぼ、間違いないと思われます。
エシュヴィア公王は、このような卑劣なことに手を染める方ではありません。
無用な血が流れない道を探っておいででした」
私は『報復を忘れ、矛を収める』という約束を念入りに確認した。
愛娘のこんな姿を見せたくはなかったけど、服を用意する暇はなかった。
アウレウス国内だとしても、王女の姿を外でさらすのは巧くない。
『こんな姿を見せることになって、申し訳ない』と謝罪した。
「――極秘裏に、無事アンナ王女を奪還してきたのです。
エシュヴィア公王との秘密会談を設け、和平を結んで頂きます」
アウレウス王は激しい怒りをなんとか腹に収め、深呼吸をしていた。
彼の目が私を確かに見つめ、深くうなずく。
「私も武人だ。交わした約束は違えぬ。
だが君らにも秘密会談には参加してもらう。
エシュヴィアには、近日中に使者を送ろう。
それまで我が国で待っていて欲しい」
私はうなずいて応える。
「わかりました。よろしくお願いいたします。
――ではアンナ王女、お元気で」
私とジュリアス、ユルゲン兄様は、王と王女を残し軍議室を辞去した。
****
王城から宿へ戻る車内で、私はユルゲン兄様に尋ねる。
「エシュヴィアに残してきた諜報部、裏を取るのにどのくらい時間がかかると思いますか」
ユルゲン兄様が、少し驚いたように応える。
「あいつらは優秀だから、数日以内には証拠も確保すると思うよ。
でも、よく私が『それ』を指示したと気付いたね」
私は苦笑で応える。
エシュヴィア宰相の独断で行われた蛮行であるという証拠が必要だ。
これはアウレウス王をきちんと納得させる材料となる。
私が先走って、証拠もないままに王女を奪還してしまった。
「――諜報部には、その尻拭いをさせることになってしまい、申し訳なく思っています」
ユルゲン兄様が柔らかく微笑んで応える。
「いや、証拠が揃うのを待っていたら、アンナ王女の命がなかった可能性が高い。
今回は、君の判断が正しかったよ」
そうか、兄様がそう言ってくれるなら、少しは気が楽かな。
兄様が嬉しそうに言葉を続ける。
「それにしても、本当に期待以上の働きを見せてくれたね。
兄として、君を誇らしく思うよ」
「ありがとうございます。
――でも、和平はまだ成っていません。
最後まで気は抜けませんよ」
私の言葉に兄様は「君は心配性だね。父上の言う通りだ」と明るく笑っていた。
****
アンナ王女奪還から二週間後、アウレウス王から呼び出された。
秘密会談の日程が決まったのだ。
「会談の場所は、エシュヴィア公国の王城だ」
私はその言葉に驚き、聞き返す。
「エシュヴィアの王城で秘密会談を行うのですか?」
緊張状態は続いている。
秘密会談を設定するとしたら、両国の中間地点で目立たないように行われると思っていた。
アウレウス王がニヤリと微笑んで告げる。
「エシュヴィア公王から提案され、私が応じた。
特に問題はあるまい?」
「問題は……ありませんが」
あれだけ不信感をあらわにしていたアウレウス王が、エシュヴィアに赴くの?
なんだか納得ができない。
アウレウス王は楽しそうに笑いながら告げる。
「まぁ君も、楽しみにしてるがいい」
私が、楽しみに?
横に居るユルゲン兄様を見る。
やはりニヤニヤと企んでるような笑みだ。
ジュリアスは落ち着いた雰囲気で、黙ってアウレウス王を見つめていた。
そういえば兄様から、『”蜃気楼”はまだ解くな』と言われてる。
――そう、アンナ王女を模した『蜃気楼』は健在だ。
感覚的にどこかに移動をしてるみたいなのはわかる。
でもどこに移動したのかまでは、さすがにわからない。
私はこの二週間、『蜃気楼』を維持するために仮眠しか取れてない。
すっかり目の下にクマができてしまった。
古代魔法版だからできる芸当とはいえ、二十日以上の『蜃気楼』維持だ。
ちゃんと維持できているのか、不安になる。
その翌日、私たちは、アウレウス王と共にエシュヴィア公国へ出発した。
仲裁役が両国を飛び回るのは珍しいことじゃない。
怪しまれることはないはずだ。
アンナ王女には、私の部屋で一緒に寝てもらうことにした。
「まずはその足を癒しましょう」
私は治癒魔術で、アンナ王女の足の傷を癒した。
この程度の傷なら、私でも傷跡を残さないぐらい造作もない。
「わぁ、痛みが消えました!
魔術って凄いのですね!」
侍女姿のアンナ王女は、無邪気に喜んでいた。
良かった、表情は明るい。
あんな劣悪な環境での監禁生活だ。
その幼い心に、もっと傷を負っていてもおかしくなかった。
この少女は、見た目よりタフなのかもしれない。
アンナ王女にはベッドで寝てもらい、私はソファで仮眠を取る。
鍛錬の結果、古代魔法版『蜃気楼』ひとり分くらいなら、仮眠で維持できるようになっていた。
朝になり、私たちはアウレウス王国へ向かった。
急な事なので、ユルゲン兄様の部下たちはほとんど戻って来ていない。
ユルゲン兄様はわずかに戻って来ていた部下たちを在外公館に残した。
何か指示を出していたようだ。
馬車の中でユルゲン兄様に尋ねる。
「何を指示してらしたんですか?」
ユルゲン兄様はやんわりと笑って応える。
「お仕事だよ」
……今はアンナ王女が同乗してる。
詳細を口にできる状況じゃないか。
アウレウス王国とエシュヴィア公国間の国境。
そのエシュヴィア側に辿り着いた。
ここを無事通過できれば、今回の任務はほぼ終わったようなものだ。
気持ちが引き締まっていくのを感じる。
行きと同じように、私が自分で馬車の外に出て、身分を証明する。
馬車の仲も確認され、不審な点がないことを確かめられていく。
私の身分を確認し終えた兵が「行って良し!」と声を張り、取り囲んでいた兵たちが道を開けた。
私が馬車に戻ると、間もなく使節団は国境を通過していく。
馬車は無事、アウレウス王国へと戻っていった。
****
アウレウス王城の軍議室。私たちはこの部屋に、再びやってきた。
前回と違うのは、侍女を一人連れていること。
前回と同じようにアウレウス王のみが部屋に入り、扉が閉められる。
アウレウス王が椅子に腰を下ろし、私を見て告げる。
「それで、娘の奪還はどうなっている。
監禁場所の特定はできたのか」
私は侍女と、ニヤニヤと顔を見合わせた。
怪訝な顔をしたアウレウス王に対し、侍女は振り向いて「お父様!」と叫んだ。
その声に合わせ、私は彼女にかけていた魔法を解除する。
侍女が王女の姿に戻り、アウレウス王が目を見開いた。
「アンナ?!」
驚いて腰を浮かせたアウレウス王に、アンナ王女は立ち上がり飛びついていた。
二人は久しぶりの再会を喜んでいるようだった。
「アンナ……無事だったか」
「はい、レブナントの方のおかげです!
怪我も治してもらいました!」
『怪我』と聞いたアウレウス王の視線が、アンナ王女の痩せこけた頬や着る物に落ちる。
ボロボロにほつれ、薄汚れたドレス。
それだけで、どんな扱いを受けていたか、想像に難くないだろう。
「……エシュヴィア共め」
アウレウス王が憎悪に燃えた双眸を光らせ、憎々しげに吐き捨てた。
その声に私は、冷静に応える。
「まだ裏は取れていませんが、エシュヴィア宰相の独断でほぼ、間違いないと思われます。
エシュヴィア公王は、このような卑劣なことに手を染める方ではありません。
無用な血が流れない道を探っておいででした」
私は『報復を忘れ、矛を収める』という約束を念入りに確認した。
愛娘のこんな姿を見せたくはなかったけど、服を用意する暇はなかった。
アウレウス国内だとしても、王女の姿を外でさらすのは巧くない。
『こんな姿を見せることになって、申し訳ない』と謝罪した。
「――極秘裏に、無事アンナ王女を奪還してきたのです。
エシュヴィア公王との秘密会談を設け、和平を結んで頂きます」
アウレウス王は激しい怒りをなんとか腹に収め、深呼吸をしていた。
彼の目が私を確かに見つめ、深くうなずく。
「私も武人だ。交わした約束は違えぬ。
だが君らにも秘密会談には参加してもらう。
エシュヴィアには、近日中に使者を送ろう。
それまで我が国で待っていて欲しい」
私はうなずいて応える。
「わかりました。よろしくお願いいたします。
――ではアンナ王女、お元気で」
私とジュリアス、ユルゲン兄様は、王と王女を残し軍議室を辞去した。
****
王城から宿へ戻る車内で、私はユルゲン兄様に尋ねる。
「エシュヴィアに残してきた諜報部、裏を取るのにどのくらい時間がかかると思いますか」
ユルゲン兄様が、少し驚いたように応える。
「あいつらは優秀だから、数日以内には証拠も確保すると思うよ。
でも、よく私が『それ』を指示したと気付いたね」
私は苦笑で応える。
エシュヴィア宰相の独断で行われた蛮行であるという証拠が必要だ。
これはアウレウス王をきちんと納得させる材料となる。
私が先走って、証拠もないままに王女を奪還してしまった。
「――諜報部には、その尻拭いをさせることになってしまい、申し訳なく思っています」
ユルゲン兄様が柔らかく微笑んで応える。
「いや、証拠が揃うのを待っていたら、アンナ王女の命がなかった可能性が高い。
今回は、君の判断が正しかったよ」
そうか、兄様がそう言ってくれるなら、少しは気が楽かな。
兄様が嬉しそうに言葉を続ける。
「それにしても、本当に期待以上の働きを見せてくれたね。
兄として、君を誇らしく思うよ」
「ありがとうございます。
――でも、和平はまだ成っていません。
最後まで気は抜けませんよ」
私の言葉に兄様は「君は心配性だね。父上の言う通りだ」と明るく笑っていた。
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アンナ王女奪還から二週間後、アウレウス王から呼び出された。
秘密会談の日程が決まったのだ。
「会談の場所は、エシュヴィア公国の王城だ」
私はその言葉に驚き、聞き返す。
「エシュヴィアの王城で秘密会談を行うのですか?」
緊張状態は続いている。
秘密会談を設定するとしたら、両国の中間地点で目立たないように行われると思っていた。
アウレウス王がニヤリと微笑んで告げる。
「エシュヴィア公王から提案され、私が応じた。
特に問題はあるまい?」
「問題は……ありませんが」
あれだけ不信感をあらわにしていたアウレウス王が、エシュヴィアに赴くの?
なんだか納得ができない。
アウレウス王は楽しそうに笑いながら告げる。
「まぁ君も、楽しみにしてるがいい」
私が、楽しみに?
横に居るユルゲン兄様を見る。
やはりニヤニヤと企んでるような笑みだ。
ジュリアスは落ち着いた雰囲気で、黙ってアウレウス王を見つめていた。
そういえば兄様から、『”蜃気楼”はまだ解くな』と言われてる。
――そう、アンナ王女を模した『蜃気楼』は健在だ。
感覚的にどこかに移動をしてるみたいなのはわかる。
でもどこに移動したのかまでは、さすがにわからない。
私はこの二週間、『蜃気楼』を維持するために仮眠しか取れてない。
すっかり目の下にクマができてしまった。
古代魔法版だからできる芸当とはいえ、二十日以上の『蜃気楼』維持だ。
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