侍女の恋日記

桜 詩

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エセルの章

贈り物

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 エセルは夢のデビューが叶えられる事に本当にウキウキしていた。

叔父には、二人の娘がおり、伯爵家を継ぐ跡継ぎがいないため、叔母は二人の娘の為に、お金をかけていた。

エセルの父は、エセルが生まれてすぐに病にかかり、弟である叔父に、家督を譲り、そして七才の頃になくなってしまった。
ずっと衣食住の面倒を見てくれていた叔父夫婦にお金のかかる社交界デビューをお願いするのはしのびないと、母と二人で話し合い、諦めていたのだ。父のいないエセルにとって、貴族とはいえ、社交界に出るにはあまりにも経済力がなかった。

それが思わぬ形で叶えられる事になり、エセルは本当にウキウキワクワクドキドキしていた。

新年の宮廷舞踏会を皮切りに始まる社交シーズンは、春を過ぎて本格化して、今はまさに王都中が華やいだ季節を迎えていて、連日あちこちでお茶会、舞踏会や、夜会、晩餐会、サロンなどなどが開催され、街は活気あふれていた。

今年は、またシュヴァルド王太子の結婚式があるということで王都全体が浮き立っていた。
そして、なにより。この春から雑誌や新聞がこぞって、書き立てたのは、7月14日はセント・ヴァレンタインデーとして、女性が男性に告白しても良い日として、紹介された。そして、8月14日にはセント・ホワイトデーとして、告白された男性は返事を返すという。

去年のこの日、シエラ・エアハート嬢がユージン・アンブローズ侯爵に逆告白し、そして、二人は8月に結婚すると告知されている。そのロマンスにあやかろうと、この新しいイベントが生まれたのだ。
女性たちはその新しいイベントにウキウキ、男性たちももしかしたら、とそわそわ。

「皆はどうなの?セント・ヴァレンタインデー。」
セラフィーナが尋ねる
みんなこの新しいイベントが楽しみで仕方ない。
「私は特に残念ながら…誰もあてがないわ」
エミリアがいった。
「…実は私は、ちょっと気になる方がいるから、頑張ってみようかしら…?」
ステラははにかみながら、ぽつりと言った。
「やだ!素敵!ステラどなたなの?」
セラフィーナが身を乗り出して聞く。
「私と同じくソフィア王女に配属されていらっしゃる、アレクシス様よ」
ポッと顔を赤らめて恥ずかしそうにいうステラは本当にかわいらしくて、みんなステラにくぎ付けに、なった。 
エミリアは、アレクシスの情報収集をすると張り切った。 
ステラは、アレクシスの真面目で、堅実な所と、時々見せる笑顔が素敵なのだ、と友人たちに話した。

「エセルは殿下に何を贈るの?」
エミリアが当然というようにそういえばと、きいてくる。
「えっ、えっ、殿下に?」
「やだ、エセル。だめよ、ちゃんとこういう時にしておかないと。」
セラフィーナもエミリアに同意する。
「でも、私が殿下にあげれるものなんて」
「気持ちよ!気持ち!」
「でも、私殿下の事を異性として好きだなんて思ってないし」
「普段たくさんいただいている、お礼もあるし、私もその方がいいと思うわ」
ステラにも言われてエセルはそれもそうかも。と納得した。
「うーん?でも何がいいのかしら?」
「ハンカチにイニシャルを刺繍をしたらどうかしら?」
エミリアが言った。
「それがいいんじゃない?エセルでも用意できるし、そっと渡せるし」
エミリアが絹のハンカチを実家に頼んで用意してくれるという。
ステラが贈ろうとしている手袋もエミリアが手配すると請け負った。 

エセルは白いハンカチに、銀の刺繍糸と、黒に銀の刺繍糸をすることにした、Aの飾り文字と、アルベルトの紋章を刺繍することにした。
紋章は複雑なので、勤務のあとにちまちまと縫い進める事にした。エセルは刺繍は比較的特異なので、そこそこ上手に完成することができた。
エミリアのアドバイスで、ラッピングして、メッセージガードをつくる。これで準備は大丈夫!

間もなく、結婚式という事で、主役であるシュヴァルドといえば、さしていつも通りといった感じで、エセルの仕事も増えたりということはない。
王太子の結婚式というだけあり、当日は大聖堂で挙式、パレード、舞踏会という流れで、特にパレードの警備に関しては、王都にいる軍総出の事になるようで、訓練もさかんに行われた。
エセルはそのための書類を運ぶ、特に、将軍と近衛騎士団長、衛士長にお使いがとても増えていた。

衛士長執務室にいった帰り道、庭の中を歩いていると、
「エセル!」
と前からアルベルトが走ってきた。あいかわらず脱走が上手いアルベルトは、エセルの前にいきなり現れては、貢ぎ物を、手渡して去っていく、ということが続いていた。
エミリアいわく、以前よりは真面目に王子様業をしているらしく、脱走しても、すぐに戻っているらしい。
「殿下。また脱走ですか?」
「違うよ、今はちゃんと休憩中。真面目にしないとエセルに会えないからさ」
とにこにこと、言う。
今日の貢ぎ物は香水だった。
「わぁ、可愛いビン!」
香りも、爽やかなきつすぎない、少し甘さのあるもので、ピンク色の細やかな細工のきれいなビンにはいっていた。
「ありがとうございます!殿下」
「アルで良いって言ってるのに」
「そうは行きませんよ~ここは王宮の中ですからね」
「エセル、ドレスは大丈夫だった?支度はできそうかな?」
「はい、支度も同室の友人たちが手伝ってくれると言ってくれています。」
「そう?母上が気にしていてね。もし、困ったことがあったら俺に言って」
アルベルトがにこにこといった。破天荒なアルベルトだけど、こういう優しい所もあり、エセルは
「ありがとう、アル」
こそっと言った。アルベルトは少し目を見開いてうれしそうにわらう。かわいいなぁとエセルはアルベルトを見て思った 

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