伯爵家の四姉妹

桜 詩

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お下がりのドレス

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社交的デビューすると、ルナにも様々な招待状がやって来ていた。母と共に返事をしたため、準備をする。
また、ブロンテ伯爵家でも、お茶会や舞踏会の予定を組んだりと、忙しい毎日なのだ。

王都のフォレストレイク・パークは朝の社交場で、ルナも父母とステファニー、ルシアンナと散歩や乗馬に勤しんでいた。
「ブロンテ伯爵夫人、そちらはデビュタントのレディ ルナね」
夫人が声をかけてきた。
「ブロンテの姉妹は本当に美人揃いね!是非わが家の夜会にも来てくださいね」
「まあ、お誘いありがとうございます」

夫人が立ち去ると、リリアナは
「ルナ、あのご夫人には年頃の青年がいるのよ。なかなかの好青年だと聞くわ」
と、そっと耳打ちをしてくる。

「レディ ルナ!」
にこやかによってきたのは、アデリンと両親だった。
「レディ アデリン、おはようございます」
ルナはお辞儀をした。アデリンの両親は少し神経質そうな夫人と、穏やかそうな雰囲気のレイノルズ伯爵だ。
「ねぇ、明後日にお姉様のアボット伯爵邸に行くの。一緒に行きましょうよ」
アデリンは人懐こく言ってきた。
「でも、招待されていないわ」
戸惑うと
「平気!ちゃんと伝えておくから」
とアデリンが言うので、お互いの両親を見てもにこやかにみている。
「ではご一緒させてもらうわね」
ルナも微笑んだ。 
「昼過ぎにお迎えに行くわ!小さな甥っ子もいるから本当に気楽に遊びましょうね」
にこにことアデリンは微笑んだ。
「ルーファスは本当に可愛いの。レディ ルナに合わせたくって」


2日後、アデリンが迎えに来てアボット邸に行くと、
シャーロットが自ら出迎えてくれたのにルナは驚いた。
「こんにちはレディ ルナ。来てくれて嬉しいわ」
シャーロットの普段用のドレスの裾にしっかりと小さな男の子がくっついていた。
「ごめんなさいね、息子のルーファスよ。気むずかしい子で、今はわたくしから離れなくないようなの」
苦笑するシャーロットはルーファスを見下ろした。

銀髪に青い瞳の男の子はアボット伯爵のエドワードにそっくりだった。むっすりとした表情も可愛らしい。
「ルーファス~!」
アデリンがさわろうとするとさっと避ける。
ルナはルーファスの目線まで下がると、
「こんにちは、はじめまして。おばちゃんはルナっていうのよ。今日はお家に遊びに越させてもらったの」
ルーファスはじっとルナをみると、
「ルナ?」
とポツリと言った
「そう、よろしくね?握手をしてもいいかしら?はじめましての挨拶よ」
ルナが手をだすときゅっと握ってくる。
「ルナ、だっこしてもいいよ」
その言い方が可愛らしくて、
「本当に?ありがとうルーファス卿」
そっと抱き上げると、ルナの首にきゅっと手を回した。
「あら、珍しいわ。ルーファスが抱っこしてもいいなんて」
シャーロットは目を丸くした。

応接間でシャーロットがお茶を淹れてくれる間も、ルーファスはルナの膝にちょこんと座っていた。
「ルーファス、こちらに来なさい。ルナが重たいわ」
シャーロットが言うが、ルーファスはますますルナにベッタリだ。
「いいなぁ、どうしてルナならいいのかしら?」
「アデリン、うるさい」
とルーファスはぷいっと言った。
「ええ~?ひどい。ルーファスったら、こんなに可愛いのにヒドイ」
アデリンはむくれた。
そんな顔をしても、アデリンにはよく似合う。

「じゃあルーファス、ピアノを弾いてあげるわ。ルナと一緒に踊りましょう」
シャーロットは部屋にある小さめのピアノを弾きはじめる。
小さな足をぱたぱたとさせてルーファスは踊り、ルナも小さな彼に合わせてダンスをした。
「上手ねルーファス卿!」
「ぼく、じょうず!」
ルーファスも楽しそうに笑顔になる。

アデリンも一緒に踊り、応接間は賑やかな音楽と笑い声で満たされた。
「つぎルナ」
ルーファスに言われて、
「ルナはお母様ほど上手じゃないのよ?」
「大丈夫よ、弾いてやってくれる?」 
シャーロットに言われて、ルナは楽しい定番曲を弾きながら歌う事にした。
どちらかと言うと、歌う方が得意なのだ。

ルーファスも舌足らずながら、一緒に歌う。
「ルナの声、とっても綺麗ね!」
アデリンが感嘆の声をあげた。
「ありがとうアデリン」
ルナは赤くなりながら礼を言った。

応接間がノックされ、エドワードが入ってきた。
「楽しそうだね、ルーファス」
微笑みながら言う、エドワードの後ろには男性客がいた。フェリクスと、それから舞踏会で紹介された、キース、アルバートだった。
「こんにちは、お邪魔しております」
ルナはお辞儀をした。
ルーファスは男性たちをみると、またむっすりとした表情になりルナに抱っこの手を伸ばしてきた。
ルナもそれにこたえて抱上げた。
「珍しくルーファスがなついてるね、驚いた。私もなかなか抱かせてくれないのに」
エドワードが苦笑しつつ言った。
「そうなのですか?」
ルナは首を傾げて言った。

お茶とお菓子が持ってこられて、世話がかりがルーファスを迎えに来たがルーファスがルナにベッタリでルナもまた「よければこのままで」と言ったので、彼も大人の社交場にいることになったのだ。
ルナの隣にはフェリクスが来て、
「小さい子に慣れてるんだね?面倒を見慣れてる?」
「そういうわけでもありませんわ」
ルナはルーファスにお菓子を食べさせてやりながらフェリクスにこたえた。

「ルナはレオノーラの妹だと聞いたが」
エドワードの言葉についにこの名前が出たと身構えたが
「3月で騎士団を辞められるそうだね」
「えっ?お姉様が?」
ルナには少なくとも初耳だった。
「聞いてなかった?」
しまったかなという表情をエドワードがした。
「きっと私にはまだ伝えていないだけなのだと思います」
ルナはルーファスを抱っこしながらお茶をそっと飲んだ。
「レオノーラ様が辞められるとなると、さぞかし王宮が淋しくなってしまいますね」
シャーロットが残念そうに言うと
「1度あの、近衛騎士姿のレオノーラ様に踊って頂きたかったわ」
アデリンが首を傾げてふりながら言った。

少したつとルーファスははしゃぎ疲れたのか、こっくりこっくりと船をこぎだした。ルナは転がらないようにしっかりと抱き締めた。それに気づいたシャーロットがルーファスを受け取りにきた。
ルナはそっと立ち上がりルーファスをシャーロットの腕に託した。ルナの腕は少し痺れてきていて、そろそろ限界が近かった。

みんなそっと静かにし、シャーロットはルーファスを連れていった。
「あぁ、ルナ。申し訳ない、ドレスが皺になってしまった」
エドワードがルーファスが去ったルナのドレスに目をやった。
「着替えを用意させるよ」
「いえ、それには及びませんわ。平気です、あとは帰ってまた着替えですから」
ルナは微笑んで言った。
みると、皺にお菓子のクズに涎の跡もあったがルナはまったく気にならなかった。
「エドワード、ルナは私がちゃんと責任をもって送るよ」
フェリクスがルナに微笑んでからエドワードに伝えた。
エドワードはフェリクスをみて、ルナをみて
「そうか?じゃあ新しいドレスをフェリクスに作るよう頼んでおこう」
くっくっと笑いながらエドワードは言った。
「作るなんて、そんな…うちにはたくさんドレスがあるのです。姉が3人もおりますから…」
ルナは赤くなってうつむいた。
「だったら尚更フェリクス様につくってもらってはどう?ルナ」
アデリンが勢いこんで言った。
「ア、アデリン??」
「お下がりばかりなんでしょう?」
「でも、ほとんど着てないのもたくさんあるのよ?レオノーラお姉様はほとんどドレスは着ないし、ステファニーもルシアンナも新しいドレスが好きだし…私は何でも…お姉様たちと違って地味な容姿だから…」
「何言ってるの、ルナったら!」
アデリンは俄然張り切ってきて
「絶対新しいのを作ってもらってね!ドレスの1着や2着、フェリクス様にとっては大したことない出費なんだから遠慮しないで!それにルナはとっても可愛らしいのに」
アデリンの勢いに思わず言葉を失った。
「あ、ありがとうアデリン」
とルナは微笑んだ。ここでは引き下がった方がよさそうだ…
キースとアルバートもうなずいて、アデリンに加勢している。

とんでもない展開になったものだとルナは困惑してしまった。

ルナはこれまで姉たちのお下がりのドレスを直して着ていて、それでいいとルナは何とも思っていなかったのだ。
戻ってきたシャーロットもアデリンの意見に大賛成して、ルナは約束させられた。
「ルーファスがきっとまた貴女に会いたがるわ。また遊びに来てくれるかしら?ルナ」
「もちろんです、レディ シャーロット」
「シャーロットでいいわ、待ってるわね」
シャーロットは微笑んで送り出してくれた。

帰りはフェリクスの操る馬車で変えることになった。
小型の二人のりの馬車は座席が高く、フェリクスが腰を持ってのせてくれた。
フェリクスは御するのもうまく、ルナは感心した。
「一人でいつも移動されるんですか?」
フェリクスはちらりとルナの方をみると、
「その方が気楽に動けるからね」
フェリクスは地位のわりに意外と気さくなのだろう。だからルナにも親切なのだ。
「あの、ドレスなんですけれど、本当にいいですから…。あの場ではそうお約束しましたけれどいただくわけには…」
「ルナは、本当に控え目なんだね?」
フェリクスはルナの目をじっと見てきたので、ルナは恥ずかしくなり目を自分の手の方にやった
「私としてはルナが素直に受け取ってくれた方が紳士冥利に尽きるんだけど、ルナは私を無作法な男にしたいのかな?」
「そんなつもりでは…」
「早ければ明日にでも仕立て屋をブロンテ邸に手配するから、遠慮せずにドレスを作ってほしいな」
フェリクスはにっこりと笑い馬を走らせた。

ブロンテ邸に馬車をつけると、フェリクスは先におりてまたルナを抱き下ろしてくれる、今度は自分の下にフェリクスがいてルナは見下ろす形になった事にどぎまぎとした。

フェリクスはそのまま玄関までエスコートしてルナが邸に入るのを確認してから去っていった。

「今のってフェリクス卿よね?ルナ」
どういう事かとステファニーが寄ってきた。
「アボット伯爵邸でお会いして、送ってくださったの」
ルナは肩を竦めていった。
「それで、二人のりの馬車で?」
ルナはうなずいた。
「どうするの?噂になるわよ」
ステファニーがルナを連れて、父アルマンのいる書斎に連れていった。

「お父様、ルナったらフェリクス卿の馬車で二人で帰ってきたのよ」
ステファニーの言葉に父は目を見開いた。
「ごめんなさい、いけないことだと思わなかったの…」
「いや、いけなくはないんだが…」
アルマンもどうしたものかと思案しているようだ。
「あと、ドレスも作って下さるって…」
ステファニーが驚きを顕にして、アルマンもルナにからだごと向き直った。
「あの、小さなルーファス卿にドレスを汚されてしまって、気を使って下さったの」
エドワードとアデリンが言い出したことは黙っておこうとルナは思った。

「…フェリクス卿はいったいどういうつもりなのか…」
小さくアルマンが呟いた。
「ドレスを貰うなんて!ルナまさかプロポーズでもされたの?」
ルナはまさか!と首をふった
「汚しから、そのお詫びにってことよ?」
「ああ、わかった。ルナ、ご好意に甘えておきなさい、フェリクス卿は思っていたよりずっと親切な紳士だということだな」
「フェリクス卿が親切な紳士だなんて聞いたことがないわ!」
ステファニーがアルマンに言ったが、アルマンは首を軽くふってステファニーを制した。
「それでルナ自身はフェリクス卿に頂くこと自体は了承して、嫌ではないと思っていいのだろう?」
「もちろんよ、お父様。フェリクス卿は立派で素敵な方だわ」
「それなら良い」
アルマンは微笑んで娘たちを下がらせた

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