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あれは夢を見ていたの?
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「ジョージアナ様、フレデリック卿がお見えです」
「えっ?」
今日は具合が悪いからと断ったのに…。
先日の事が思い出されるが、これといって今は会えないという理由をつくって告げることも出来ずにジョージアナは、しぶしぶフレデリックの待つ玄関ホールに向かった。
ジョージアナを待っていたフレデリックはこれからまさに夜会に向かうといった黒のテールコート姿。
「ジョージアナ…具合が良くないんだって?心配で来たんだよ」
微笑みの中に気遣わしげな表情が覗いた。
「少し頭痛がするだけなの。心配はいらないわ」
あなたのせいよと本当は言ってしまいたかった。
「今日はこれをお見舞いに持ってきたよ」
はい、とチョコレートの箱。それはジョージアナの好きな店の箱。
「甘いものは好きでしょ?」
にこっと人好きのする笑みを向けられ、この笑顔を見ていればあのフレデリックはまるでジョージアナの勘違いのようだ
「ええ、ありがとうフレデリック」
じゃあと部屋に帰ろうとすると
「明日はオペラを見に行こうよ」
フレデリックが微笑んで言った。
「きっと明日は具合がよくなってるだろう?ジョージアナ」
いつものように笑うと細くなる目元。優しくフレデリックが言う。
やっぱり夢でも見ていたんだろうか?
そんな気がしてしまうくらいにいつものフレデリックの口調と態度。
「わかったわ…行くわ…」
オペラには苦い思い出がある…。しかし、断る理由もない。
-翌日-
チェルシーが、ジョージアナの好みで尚且つ柔らかな印象のふんわりとしたシンプルなドレスを選んで着せる。
お目付け役には、大伯母のカミラが付いてくる事になっていて、二人きりにならないことに少しホッとする。
フレデリックが、黒のテールコートに白いタイの正装で迎えに来た。柔らかな印象の笑顔をジョージアナにむけて、誉め言葉を口にした。
「ジョージアナ、今日も綺麗だね!」
「ありがとうフレデリック…」
この所どうしてもフレデリックの真意を考えてしまう。
こうして普通の会話をしていても…
カミラは高齢とはいえ、昔ながらの厳しい人である。彼女が側についていればフレデリックもおかしな真似は出来ないだろうと思うと安心出来る…。少し残念な…、…残念な?いえ。
ジョージアナはカミラと共に馬車に乗るとフレデリックの前に座った。アシュフォード家の四頭だ馬車だ。
着飾った人たちて込み合う劇場。
笑いさざめく人々の声。衣擦れのかすかな音。ジョージアナとフレデリックのいる上流層のフロア。
筆頭貴族の二人は、ここに溶け込むように自然にそこにいた。
思えば…ギルバートはここに来るのは嬉しくなかったのだろうか?彼はいまの身分は教師…。貴族では中の下になる…。世界が違うと彼に感じさせたのだろうか?
ジョージアナは考えなしだったのか?ギルバートを誘うならもっと違う…彼の世界に合わせるべきだったのかも知れない。
そう思い至らないほどジョージアナはあの時お子様だったのだ。
「席に行こうか」
息をするように自然な動作でジョージアナをエスコートするフレデリック。
彼もまたジョージアナのように幼い頃から叩き込まれたに違いない洗練された一連の動きが目に美しく映る。
砕けた口調をしていても、隠しきれない育ちのよさ
改めてフレデリックを見てみると、ジョージアナは彼の事をきっと深く理解出来るに違いない…そんな気がした。
そしてフレデリックもまたジョージアナを深く理解出来るかも知れないとそう思った。
あのとき、小川のほとりでジョージアナが外していた公爵令嬢の仮面。それを見たフレデリックもまた仮面を外してみせたのか…?
あれは夢でも幻でもなくて、真実のフレデリックの姿…。
ひた隠しにしてきたお互いの素顔。
ジョージアナも知らないジョージアナ。
フレデリックも知らないフレデリック。
馬鹿な事を考えてしまった…。
けれど迷子になっているジョージアナの本当の心…それが僅かな気配を見せた…これまでジョージアナでさえ気づかなかったその存在。
「何を考えてるの?」
にこやかに覗きこむフレデリック。
「…わたくしと貴方の事…」
思わずポロリと言うと、フレデリックは驚いた顔をした。それはジョージアナが見つけたフレデリックの本当の顔。それにジョージアナは少し微笑みを返した。作った微笑みではなくて…。
ジョージアナの何かが変わった。
からくり箱のひとつめの鍵が音をたてて開いたかのようなそんな感覚。
ボックス席にはジョージアナの右隣にフレデリック、左の斜め後ろにカミラが座った。
厳格なカミラだが、人当たりのよいフレデリックには好感を持っているようで、微笑ましく二人を見守っている。
オペラの演目は、身分違いの恋を題材にしたもの。
王子がお忍びで行った森で、乙女と出会う。すぐに惹かれあう二人…。
人目を忍んで何度も逢瀬を重ねあい、周囲にその関係を知られて反対される二人はより燃え上がる。
そんなありきたりなストーリー。
乙女と王子の掛け合いの歌が見事に重なりあい、感動的なシーンが訪れ、ジョージアナも集中して見ていた。
右手に、フレデリックの手が重なって思わずはっとして顔を見る。フレデリックの顔は舞台の方…。
右手にフレデリックの左手がしっかりと指を絡めるように重なる…
ちらりとカミラを見ると、高齢の彼女はうとうととしていた…夜は辛いようだ。
フレデリックとは何度も踊っていて手を握ったことなんて数えきれないほど経験があるはずなのに…。
背中がぞくりとするほど、右手の指の間から、その感触が全身を駆け巡る。
ジョージアナの細くしなやかな指を、フレデリックの長い指がそっと撫でる。
舞台では、愛を伝えあう王子と乙女。
隣で船を漕ぐようにしているカミラ…。
フレデリックの青い瞳…。触れあう右手と左手。
薄暗い劇場…高らかな愛の歌…カーテンで仕切られたボックス席…。
そっと絡み合う視線、そしてそっと触れあう唇と唇…。
オペラに酔う、ジョージアナとそしてフレデリック…
「えっ?」
今日は具合が悪いからと断ったのに…。
先日の事が思い出されるが、これといって今は会えないという理由をつくって告げることも出来ずにジョージアナは、しぶしぶフレデリックの待つ玄関ホールに向かった。
ジョージアナを待っていたフレデリックはこれからまさに夜会に向かうといった黒のテールコート姿。
「ジョージアナ…具合が良くないんだって?心配で来たんだよ」
微笑みの中に気遣わしげな表情が覗いた。
「少し頭痛がするだけなの。心配はいらないわ」
あなたのせいよと本当は言ってしまいたかった。
「今日はこれをお見舞いに持ってきたよ」
はい、とチョコレートの箱。それはジョージアナの好きな店の箱。
「甘いものは好きでしょ?」
にこっと人好きのする笑みを向けられ、この笑顔を見ていればあのフレデリックはまるでジョージアナの勘違いのようだ
「ええ、ありがとうフレデリック」
じゃあと部屋に帰ろうとすると
「明日はオペラを見に行こうよ」
フレデリックが微笑んで言った。
「きっと明日は具合がよくなってるだろう?ジョージアナ」
いつものように笑うと細くなる目元。優しくフレデリックが言う。
やっぱり夢でも見ていたんだろうか?
そんな気がしてしまうくらいにいつものフレデリックの口調と態度。
「わかったわ…行くわ…」
オペラには苦い思い出がある…。しかし、断る理由もない。
-翌日-
チェルシーが、ジョージアナの好みで尚且つ柔らかな印象のふんわりとしたシンプルなドレスを選んで着せる。
お目付け役には、大伯母のカミラが付いてくる事になっていて、二人きりにならないことに少しホッとする。
フレデリックが、黒のテールコートに白いタイの正装で迎えに来た。柔らかな印象の笑顔をジョージアナにむけて、誉め言葉を口にした。
「ジョージアナ、今日も綺麗だね!」
「ありがとうフレデリック…」
この所どうしてもフレデリックの真意を考えてしまう。
こうして普通の会話をしていても…
カミラは高齢とはいえ、昔ながらの厳しい人である。彼女が側についていればフレデリックもおかしな真似は出来ないだろうと思うと安心出来る…。少し残念な…、…残念な?いえ。
ジョージアナはカミラと共に馬車に乗るとフレデリックの前に座った。アシュフォード家の四頭だ馬車だ。
着飾った人たちて込み合う劇場。
笑いさざめく人々の声。衣擦れのかすかな音。ジョージアナとフレデリックのいる上流層のフロア。
筆頭貴族の二人は、ここに溶け込むように自然にそこにいた。
思えば…ギルバートはここに来るのは嬉しくなかったのだろうか?彼はいまの身分は教師…。貴族では中の下になる…。世界が違うと彼に感じさせたのだろうか?
ジョージアナは考えなしだったのか?ギルバートを誘うならもっと違う…彼の世界に合わせるべきだったのかも知れない。
そう思い至らないほどジョージアナはあの時お子様だったのだ。
「席に行こうか」
息をするように自然な動作でジョージアナをエスコートするフレデリック。
彼もまたジョージアナのように幼い頃から叩き込まれたに違いない洗練された一連の動きが目に美しく映る。
砕けた口調をしていても、隠しきれない育ちのよさ
改めてフレデリックを見てみると、ジョージアナは彼の事をきっと深く理解出来るに違いない…そんな気がした。
そしてフレデリックもまたジョージアナを深く理解出来るかも知れないとそう思った。
あのとき、小川のほとりでジョージアナが外していた公爵令嬢の仮面。それを見たフレデリックもまた仮面を外してみせたのか…?
あれは夢でも幻でもなくて、真実のフレデリックの姿…。
ひた隠しにしてきたお互いの素顔。
ジョージアナも知らないジョージアナ。
フレデリックも知らないフレデリック。
馬鹿な事を考えてしまった…。
けれど迷子になっているジョージアナの本当の心…それが僅かな気配を見せた…これまでジョージアナでさえ気づかなかったその存在。
「何を考えてるの?」
にこやかに覗きこむフレデリック。
「…わたくしと貴方の事…」
思わずポロリと言うと、フレデリックは驚いた顔をした。それはジョージアナが見つけたフレデリックの本当の顔。それにジョージアナは少し微笑みを返した。作った微笑みではなくて…。
ジョージアナの何かが変わった。
からくり箱のひとつめの鍵が音をたてて開いたかのようなそんな感覚。
ボックス席にはジョージアナの右隣にフレデリック、左の斜め後ろにカミラが座った。
厳格なカミラだが、人当たりのよいフレデリックには好感を持っているようで、微笑ましく二人を見守っている。
オペラの演目は、身分違いの恋を題材にしたもの。
王子がお忍びで行った森で、乙女と出会う。すぐに惹かれあう二人…。
人目を忍んで何度も逢瀬を重ねあい、周囲にその関係を知られて反対される二人はより燃え上がる。
そんなありきたりなストーリー。
乙女と王子の掛け合いの歌が見事に重なりあい、感動的なシーンが訪れ、ジョージアナも集中して見ていた。
右手に、フレデリックの手が重なって思わずはっとして顔を見る。フレデリックの顔は舞台の方…。
右手にフレデリックの左手がしっかりと指を絡めるように重なる…
ちらりとカミラを見ると、高齢の彼女はうとうととしていた…夜は辛いようだ。
フレデリックとは何度も踊っていて手を握ったことなんて数えきれないほど経験があるはずなのに…。
背中がぞくりとするほど、右手の指の間から、その感触が全身を駆け巡る。
ジョージアナの細くしなやかな指を、フレデリックの長い指がそっと撫でる。
舞台では、愛を伝えあう王子と乙女。
隣で船を漕ぐようにしているカミラ…。
フレデリックの青い瞳…。触れあう右手と左手。
薄暗い劇場…高らかな愛の歌…カーテンで仕切られたボックス席…。
そっと絡み合う視線、そしてそっと触れあう唇と唇…。
オペラに酔う、ジョージアナとそしてフレデリック…
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