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3人の候補
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王宮に招き入れられたフェリシアたち候補の令嬢は、それぞれ賓客を迎え入れる部屋に滞在することになり、フェリシアは王宮の春の棟一階にある部屋に入った。アイリーンは三階で、エリーは二階の部屋をそれぞれ与えられていた。
室内は豪華すぎる事を除けば、とても素晴らしく広いし、不足している物などない。
大きなバルコニーと、腰掛けの飾り窓が二つ。バルコニーからは目の前の庭に降りる階段があり、その庭は春の棟にふさわしく、まさに色とりどりの花が咲こうと蕾をつけていた。
花のアーチがある先には高い生け垣で作られた迷路のガーデンが広がっていた。
それに天蓋つきのベッドと、そして書棚と机とテーブル。ドレッサーとクローゼット。それにソファセットとキャビネット。
白と金の調度類は艶やかに輝いていて、ロイヤルブルーの絨毯と相性が良い。
女性を意識して整えられた部屋は、そこかしこにレースがあしらわれ、花模様のファブリックが華やかで愛らしい。
そこにおかれている、例えば手鏡やブラシ、香水瓶等も細工の美しい物が置かれていた。
フェリシアの侍女についたアミナとユーリエは姉妹だという。二人は余計なおしゃべりもしないし、王立学院の教育を受け卒業していた有能ぶりだった。
そして何よりもフェリシアの好むものや似合うものをすぐに理解した。
特に、お茶の淹れ方は驚くほど上手で、どの茶葉でも美味しく淹れてみせた。
王宮の行儀見習いとは、本当に建前でフェリシアたちのすることと言えば、普段の家での過ごし方と変わらない。そこに時々クリスタ王妃や、エリアルドとのお茶の時間がやって来るというだけだ。
日頃用意されているのはピアノや刺繍などと、それから読書。そして、王族の晩餐会にも招かれた。王族と言っても、フェリシアたち貴族よりもいいものを食べているわけではないのだと知った。
まだ馴染まない部屋で寛ぐ事も出来ず、フェリシアは庭におりた。
警護された王宮の昼の庭は、春めいてきてあちこちに新たな小さな命が芽生えているのが、目を楽しませる。庭師達が仕事をしたあとで、あちこちの葉やちらほらと咲き始めた花びらに雫がついているのがキラキラと宝石のようで笑みが浮かぶ。
同じように庭に出てきたエリーと、フェリシアはそこで偶然会った。20歳のエリーは落ち着いてて柔らかな雰囲気だ。
「おはようございます。レディ エリー」
「おはよう、レディ フェリシア」
そっと顔を伏せてしまう。どうやら内気だと言うのは年下の女性に対してもなようだ。
「少し…お話しませんか?」
躊躇いがちに頷くエリーと、そのまま迷路の生け垣に入っていく。早く攻略するつもりもないので、揃って行きつ戻りつ歩く。
「フェリシアと、どうぞお呼びください」
「では、私の事もエリーと…」
か細い声で答えがあった。
エリーは…どこまで知っているのだろうか?フェリシアに言われた密約の事を。
「私は…貴女と争うつもりはないの」
長い沈黙の後、エリーはぽつりとそう言った。
迷路の抜けた先、エリーとフェリシアの前には庭の緑を映して鏡のようになった温室のガラス…そこに二人の姿が映る。
「分かるでしょう?貴女のように美しい人の方が、人々を圧倒するのよ。誰もが、ひれ伏したくなるような…あなたが妃なのよ」
「エリー?」
「一目見れば…誰だってそう思うわ」
「貴女は…全く望まないの?ここに呼ばれてきたのに」
「ええ。望まないわ。だって、私は単なる数合わせだもの」
エリーに、してはとてもきっぱりと言った。
何となく理解はしていたが、不快だった。
「誰かが選ばれ、誰かは選ばれない。それはどんな立場だってそう」
「ええ…確かに」
例えば貴族の舞踏会は、未婚の男女のお見合いの場で、男たちも娘たちも家の意向で相手を決める。
自分の意思で選んでいるようで、そうでもない。もしも本当に自由に選んでいるというならば、他の釣り合いのとれない相手を選ぶ人が増える筈で、実際に身分違いの恋なんてほとんどがあり得ない事。
「フェリシアには悪いけれど、貴女がいて良かったわ…。本当にホッとしたの。私ではどうしたってクリスタ王妃よりも美しくないと、そう比べられる…。貴女みたいに人前で歌うなんて本当に無理。フェリシアは理想の未来の王妃だわ」
ガラスに映ったフェリシアとエリー。
その背後にゆらりと、背の高い人影が映りフェリシアもエリーもそちらを向いた。
「おはよう。エリー、フェリシア」
朝の空気を、張りつめさせたエリアルド。
磨かれて光を反射してる剣のような、鋭い雰囲気が彼にはある。
「「おはようございます、王太子殿下」」
彼の後ろにはジョエルとクリフォード、それに従者と近衛騎士が二人従っている。
「一緒に朝のお茶でもどうかな?」
「ええ、喜んで」
フェリシアが言うと、
「私は…少し疲れましたから、このまま部屋で休みます」
「そうか…残念だが…。ライナス、レディ エリーを」
そう言うと、キラキラの美形騎士はエリーを部屋まで送っていく。
(二人に…させるなんて…)
従者が準備してきたティーセットを受けとり、それをガーデン横のテーブルにセットする。
「わたくしが、させて頂きます」
フェリシアはそう言うと、アミナとユーリエに教えてもらったお茶の淹れ方を試してみる。
「アイリーンとは、もう話したか?」
「いいえ、まだ」
「そうか…。まぁ、接触は少ないに越したことはない」
その言い方にどこか引っかかる物を感じる。
「この前の、襲撃を知らせたのは、アイリーンだ」
「え?」
「偶然、聞いたらしい。いっそ排除するかと話していたのを」
「レディ アイリーンが…」
「本当か否かは不明だが、とこっそりと手紙で伝えてきた」
「だから、黒騎士を手配してくれたのですね?」
そうだとエリアルドは頷いた。
(アイリーンが……私を助けた?)
どんな思いでフェリシアを助けたのかは分からないけれど、命を軽視する女性ではなく、またその行動力に感心した。
室内は豪華すぎる事を除けば、とても素晴らしく広いし、不足している物などない。
大きなバルコニーと、腰掛けの飾り窓が二つ。バルコニーからは目の前の庭に降りる階段があり、その庭は春の棟にふさわしく、まさに色とりどりの花が咲こうと蕾をつけていた。
花のアーチがある先には高い生け垣で作られた迷路のガーデンが広がっていた。
それに天蓋つきのベッドと、そして書棚と机とテーブル。ドレッサーとクローゼット。それにソファセットとキャビネット。
白と金の調度類は艶やかに輝いていて、ロイヤルブルーの絨毯と相性が良い。
女性を意識して整えられた部屋は、そこかしこにレースがあしらわれ、花模様のファブリックが華やかで愛らしい。
そこにおかれている、例えば手鏡やブラシ、香水瓶等も細工の美しい物が置かれていた。
フェリシアの侍女についたアミナとユーリエは姉妹だという。二人は余計なおしゃべりもしないし、王立学院の教育を受け卒業していた有能ぶりだった。
そして何よりもフェリシアの好むものや似合うものをすぐに理解した。
特に、お茶の淹れ方は驚くほど上手で、どの茶葉でも美味しく淹れてみせた。
王宮の行儀見習いとは、本当に建前でフェリシアたちのすることと言えば、普段の家での過ごし方と変わらない。そこに時々クリスタ王妃や、エリアルドとのお茶の時間がやって来るというだけだ。
日頃用意されているのはピアノや刺繍などと、それから読書。そして、王族の晩餐会にも招かれた。王族と言っても、フェリシアたち貴族よりもいいものを食べているわけではないのだと知った。
まだ馴染まない部屋で寛ぐ事も出来ず、フェリシアは庭におりた。
警護された王宮の昼の庭は、春めいてきてあちこちに新たな小さな命が芽生えているのが、目を楽しませる。庭師達が仕事をしたあとで、あちこちの葉やちらほらと咲き始めた花びらに雫がついているのがキラキラと宝石のようで笑みが浮かぶ。
同じように庭に出てきたエリーと、フェリシアはそこで偶然会った。20歳のエリーは落ち着いてて柔らかな雰囲気だ。
「おはようございます。レディ エリー」
「おはよう、レディ フェリシア」
そっと顔を伏せてしまう。どうやら内気だと言うのは年下の女性に対してもなようだ。
「少し…お話しませんか?」
躊躇いがちに頷くエリーと、そのまま迷路の生け垣に入っていく。早く攻略するつもりもないので、揃って行きつ戻りつ歩く。
「フェリシアと、どうぞお呼びください」
「では、私の事もエリーと…」
か細い声で答えがあった。
エリーは…どこまで知っているのだろうか?フェリシアに言われた密約の事を。
「私は…貴女と争うつもりはないの」
長い沈黙の後、エリーはぽつりとそう言った。
迷路の抜けた先、エリーとフェリシアの前には庭の緑を映して鏡のようになった温室のガラス…そこに二人の姿が映る。
「分かるでしょう?貴女のように美しい人の方が、人々を圧倒するのよ。誰もが、ひれ伏したくなるような…あなたが妃なのよ」
「エリー?」
「一目見れば…誰だってそう思うわ」
「貴女は…全く望まないの?ここに呼ばれてきたのに」
「ええ。望まないわ。だって、私は単なる数合わせだもの」
エリーに、してはとてもきっぱりと言った。
何となく理解はしていたが、不快だった。
「誰かが選ばれ、誰かは選ばれない。それはどんな立場だってそう」
「ええ…確かに」
例えば貴族の舞踏会は、未婚の男女のお見合いの場で、男たちも娘たちも家の意向で相手を決める。
自分の意思で選んでいるようで、そうでもない。もしも本当に自由に選んでいるというならば、他の釣り合いのとれない相手を選ぶ人が増える筈で、実際に身分違いの恋なんてほとんどがあり得ない事。
「フェリシアには悪いけれど、貴女がいて良かったわ…。本当にホッとしたの。私ではどうしたってクリスタ王妃よりも美しくないと、そう比べられる…。貴女みたいに人前で歌うなんて本当に無理。フェリシアは理想の未来の王妃だわ」
ガラスに映ったフェリシアとエリー。
その背後にゆらりと、背の高い人影が映りフェリシアもエリーもそちらを向いた。
「おはよう。エリー、フェリシア」
朝の空気を、張りつめさせたエリアルド。
磨かれて光を反射してる剣のような、鋭い雰囲気が彼にはある。
「「おはようございます、王太子殿下」」
彼の後ろにはジョエルとクリフォード、それに従者と近衛騎士が二人従っている。
「一緒に朝のお茶でもどうかな?」
「ええ、喜んで」
フェリシアが言うと、
「私は…少し疲れましたから、このまま部屋で休みます」
「そうか…残念だが…。ライナス、レディ エリーを」
そう言うと、キラキラの美形騎士はエリーを部屋まで送っていく。
(二人に…させるなんて…)
従者が準備してきたティーセットを受けとり、それをガーデン横のテーブルにセットする。
「わたくしが、させて頂きます」
フェリシアはそう言うと、アミナとユーリエに教えてもらったお茶の淹れ方を試してみる。
「アイリーンとは、もう話したか?」
「いいえ、まだ」
「そうか…。まぁ、接触は少ないに越したことはない」
その言い方にどこか引っかかる物を感じる。
「この前の、襲撃を知らせたのは、アイリーンだ」
「え?」
「偶然、聞いたらしい。いっそ排除するかと話していたのを」
「レディ アイリーンが…」
「本当か否かは不明だが、とこっそりと手紙で伝えてきた」
「だから、黒騎士を手配してくれたのですね?」
そうだとエリアルドは頷いた。
(アイリーンが……私を助けた?)
どんな思いでフェリシアを助けたのかは分からないけれど、命を軽視する女性ではなく、またその行動力に感心した。
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