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王子と距離
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冬の棟のサロンで、フェリシアはエリアルドと二人で朝食をたべる。その部屋は庭に面していて、明るくそして暖かい。
窓から見えるガーデンは日の光を浴びて、緑と花たちの色が鮮やかに輝いている。
まだ朝だが、エリアルドはきっちりとフロックコートを着ていて、この後にはすぐに仕事に取りかかるのだとそう思わせた。
「部屋はどう?昨日は眠れた?」
エリアルドはそう尋ねた。朝から冴えない顔色をしているからだろうか…。
「ええ、広すぎて落ち着きませんけれど…」
「そう」
エリアルドには何の落ち度もない…。彼の立場であるならばカーラの事もフェリシアの事もいずれも仕方のないこと。
それを気にするのはフェリシアの事情。
フェリシアは無理矢理笑みをつくり、彼に向けた。
(カーラの事は…私にはどうしようもない。出来ることは…彼の妃を演じること)
「色々な事がこれまでと違うだろう。何かあれば私に話すといい。きっと何とかしよう」
「何とか…。出来ないことはあったでしょう…貴方にも」
カーラの目が治っていれば…。
みんなが幸せだったのに。
理解している事と、感情は必ずしも一致しない。
フェリシアの言葉にエリアルドは片眉をくいっと上げた。
「ごめんなさい…。意地悪な事を言ったわ」
何故だかイライラが…、収まらない。
エリアルドはフォークを置くと、
「どうした?」
「きっと、疲れたの。色々とあって…頭痛がするから休ませてもらいます」
フェリシアはそのまま席を立って、階段を上がる。朝から微かにあった頭痛は少しずつ辛くなって来ていた。
自室は、フェリシアだけのもの。そこへは彼は…婚礼前の今はまだ追いかけては来れないし、追いかけても来ないだろう。
アミナがベッドに臥せっているフェリシアにおそるおそる声をかける。
本当に具合が悪くなってきた。青ざめた顔をしているのに気づいたようだ。
「いかがされました?フェリシア様」
「頭が痛いの」
「まぁ…では侍医を呼びますわ」
こくん、とフェリシアはうなずいた。
頭も痛いし、気分も悪い。
しかし、少したつと原因は分かった。いつもより早く来てしまった月のものだ。
しかし、こんな具合が悪くなったのははじめてだ。
「環境が変わったせいで狂ったのでしょう。症状を和らげる薬を出しましょう」
「ええ、お願い」
鈍痛が下腹部を襲い、食べた食事も戻してしまった。
甲斐甲斐しく世話をされても、こればかりはしばらくどうしようもない。 イライラも…このせいだった?
そうだったら…いい。
どちらにせよ…具合が悪いのは辛いけど、時間が…エリアルドと次に会うまでの時間が出来たことは、良かったことかも知れない。
臥せってから3日たつとさすがに具合は良くなっていたが、顔を見たくなくてフェリシアはまだ部屋で食事をとり過ごしていた。
ノックがして、侍女だろうとそのまま入ってくるだろうと思って放っておいた。
「入るよフェリシア」
それは明らかに男性の声でフェリシアは狼狽え、それと同時に無情にも扉は開かれた。
「殿下…何をしに…」
「何を、とは酷いね。恋人を心配して見舞いに来てはいけなかったかな?」
エリアルドは昼過ぎの今、すこし仕事が落ち着いたのだろうか…
すっかり油断して、コルセットのいらない完全に部屋用のワンピースを着ていたし、髪は少女のように下ろし少しだけサイドを編んだだけだった。つまりはとても、大人のレディらしからぬ無防備な姿だったのである。
「そうやって…化粧もせず髪も下ろしたままだと、君がまだ16歳だと思い出されるね」
「こんな姿をお目にかけるつもりはありませんでした」
「具合が悪いんだから、楽にしていたらいいよ」
カウチソファにいたフェリシアに、エリアルドは一気に近づき、しゃがみこむようにして、高さを合わせてきた。
フェリシアは側にあったレースのショールを肩にかけて顔を背けた。
「事前に、知らせてくださらないと」
「悪かった。でも、私たちは結婚するんだ。こうして歩み寄るのは大切な事じゃないか?」
エリアルドは頬に手を当てて、フェリシアの背けた顔を己に向けさせた。
「フェリシア…私に怒ってるのか?」
「いいえ、そんな事は」
「じゃあ、顔も見たくないほど嫌ってる?」
「いいえ」
エリアルドは、よかったと、一言小さく呟くとフェリシアの髪を撫でた。
「少し、顔色は良くなったね」
「はい、殿下」
覗き込まれてフェリシアの心臓が跳ね上がる。
「ずいぶん、良くなりましたから」
「そう、じゃあ明日は食事を共に出来るね?」
「ええ、きっと…」
額に軽くキスをされてフェリシアは目を見開いた。
「今は…誰も見ていませんでした」
「そうだね」
「睦まじくする必要は無かったのでは?」
「見られてる方がいい?」
くっと笑われてフェリシアは思わず頬を赤らめた。
「冗談だよ」
エリアルドはそう言うと立ち上がる
「明日…待ってる」
触れられた額と、髪が敏感になっている。
(どうしよう…また、どう会えばいいのか…分からなくなってしまった)
部屋を出ていくエリアルドは、やはりとても素敵な男性で、それは揺るぎない事実として知らしめる。
近づくのは怖い。何かが代わりそうで…
(優しく、しないで…)
特にこんな…人目のないところで…。その優しさが本物だと勘違いしたらどうするの?
窓から見えるガーデンは日の光を浴びて、緑と花たちの色が鮮やかに輝いている。
まだ朝だが、エリアルドはきっちりとフロックコートを着ていて、この後にはすぐに仕事に取りかかるのだとそう思わせた。
「部屋はどう?昨日は眠れた?」
エリアルドはそう尋ねた。朝から冴えない顔色をしているからだろうか…。
「ええ、広すぎて落ち着きませんけれど…」
「そう」
エリアルドには何の落ち度もない…。彼の立場であるならばカーラの事もフェリシアの事もいずれも仕方のないこと。
それを気にするのはフェリシアの事情。
フェリシアは無理矢理笑みをつくり、彼に向けた。
(カーラの事は…私にはどうしようもない。出来ることは…彼の妃を演じること)
「色々な事がこれまでと違うだろう。何かあれば私に話すといい。きっと何とかしよう」
「何とか…。出来ないことはあったでしょう…貴方にも」
カーラの目が治っていれば…。
みんなが幸せだったのに。
理解している事と、感情は必ずしも一致しない。
フェリシアの言葉にエリアルドは片眉をくいっと上げた。
「ごめんなさい…。意地悪な事を言ったわ」
何故だかイライラが…、収まらない。
エリアルドはフォークを置くと、
「どうした?」
「きっと、疲れたの。色々とあって…頭痛がするから休ませてもらいます」
フェリシアはそのまま席を立って、階段を上がる。朝から微かにあった頭痛は少しずつ辛くなって来ていた。
自室は、フェリシアだけのもの。そこへは彼は…婚礼前の今はまだ追いかけては来れないし、追いかけても来ないだろう。
アミナがベッドに臥せっているフェリシアにおそるおそる声をかける。
本当に具合が悪くなってきた。青ざめた顔をしているのに気づいたようだ。
「いかがされました?フェリシア様」
「頭が痛いの」
「まぁ…では侍医を呼びますわ」
こくん、とフェリシアはうなずいた。
頭も痛いし、気分も悪い。
しかし、少したつと原因は分かった。いつもより早く来てしまった月のものだ。
しかし、こんな具合が悪くなったのははじめてだ。
「環境が変わったせいで狂ったのでしょう。症状を和らげる薬を出しましょう」
「ええ、お願い」
鈍痛が下腹部を襲い、食べた食事も戻してしまった。
甲斐甲斐しく世話をされても、こればかりはしばらくどうしようもない。 イライラも…このせいだった?
そうだったら…いい。
どちらにせよ…具合が悪いのは辛いけど、時間が…エリアルドと次に会うまでの時間が出来たことは、良かったことかも知れない。
臥せってから3日たつとさすがに具合は良くなっていたが、顔を見たくなくてフェリシアはまだ部屋で食事をとり過ごしていた。
ノックがして、侍女だろうとそのまま入ってくるだろうと思って放っておいた。
「入るよフェリシア」
それは明らかに男性の声でフェリシアは狼狽え、それと同時に無情にも扉は開かれた。
「殿下…何をしに…」
「何を、とは酷いね。恋人を心配して見舞いに来てはいけなかったかな?」
エリアルドは昼過ぎの今、すこし仕事が落ち着いたのだろうか…
すっかり油断して、コルセットのいらない完全に部屋用のワンピースを着ていたし、髪は少女のように下ろし少しだけサイドを編んだだけだった。つまりはとても、大人のレディらしからぬ無防備な姿だったのである。
「そうやって…化粧もせず髪も下ろしたままだと、君がまだ16歳だと思い出されるね」
「こんな姿をお目にかけるつもりはありませんでした」
「具合が悪いんだから、楽にしていたらいいよ」
カウチソファにいたフェリシアに、エリアルドは一気に近づき、しゃがみこむようにして、高さを合わせてきた。
フェリシアは側にあったレースのショールを肩にかけて顔を背けた。
「事前に、知らせてくださらないと」
「悪かった。でも、私たちは結婚するんだ。こうして歩み寄るのは大切な事じゃないか?」
エリアルドは頬に手を当てて、フェリシアの背けた顔を己に向けさせた。
「フェリシア…私に怒ってるのか?」
「いいえ、そんな事は」
「じゃあ、顔も見たくないほど嫌ってる?」
「いいえ」
エリアルドは、よかったと、一言小さく呟くとフェリシアの髪を撫でた。
「少し、顔色は良くなったね」
「はい、殿下」
覗き込まれてフェリシアの心臓が跳ね上がる。
「ずいぶん、良くなりましたから」
「そう、じゃあ明日は食事を共に出来るね?」
「ええ、きっと…」
額に軽くキスをされてフェリシアは目を見開いた。
「今は…誰も見ていませんでした」
「そうだね」
「睦まじくする必要は無かったのでは?」
「見られてる方がいい?」
くっと笑われてフェリシアは思わず頬を赤らめた。
「冗談だよ」
エリアルドはそう言うと立ち上がる
「明日…待ってる」
触れられた額と、髪が敏感になっている。
(どうしよう…また、どう会えばいいのか…分からなくなってしまった)
部屋を出ていくエリアルドは、やはりとても素敵な男性で、それは揺るぎない事実として知らしめる。
近づくのは怖い。何かが代わりそうで…
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