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見えない心 (E)
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政略
そう言ったフェリシアの言葉が忘れられない。
「ショーン……。俺たちはやっぱり政略なんだよな?」
ボソッと執務中に言ってしまい
「すまない、忘れてくれ」
「なるほど……政略か……そうでないか……しかし、婚約し結婚する。この事実にはなんの違いもない。ただ心構えが違うだけだ」
一言でどんな悩みなのか悟ったらしい幼馴染みは、そう語るが……。
「ショーンだって独身じゃないか……そんな風にわかったように語られると騙された気分だな」
「殿下がそんなに、年下の令嬢に振り回されるなんてな……見ていて楽しいよ」
「楽しむなよ」
振り回されている……確かに、執務中に思い出すなんてそう言われても仕方がない。
「だけどな……小さいときから見てる俺だからわかる変化で、普通ならまず気づかないな……。いつだって完璧な王子さまだ」
「だったら……それでいい。そうでなくてはいけないからな」
「器用なのか、不器用なのか……。分かりづらいんだから、ちゃんと好きなら好きだと言葉にだして伝えろよ?」
あっさりとその単語を口にしたショーンを軽くねめつけた。
しかし……分かりにくい……そう言われて、エリアルドはここ数日具合の悪いフェリシアを見舞う事にしてみた。
部屋を訪ねれば室内用のドレス姿のフェリシアは無防備で……見てしまったことを後悔するくらい愛らしかった。
「そうやって…化粧もせず髪も下ろしたままだと、君がまだ16歳だと思い出されるね」
「こんな姿をお目にかけるつもりはありませんでした」
恥ずかしそうなのにより心がざわついてしまう。
「具合が悪いんだから、楽にしていたらいいよ」
カウチソファにいたフェリシアに、エリアルドは近づいてそっと覗きこむと、居心地が悪そうに顔を背けてしまう。
「事前に、知らせてくださらないと」
どうやら無防備な姿であるのが心許ないようで、ストールを羽織る。
「悪かった。でも、私たちは結婚するんだ。こうして歩み寄るのは大切な事じゃないか?」
エリアルドはその柔らかな頬に手を当てて、背けてしまった顔を己に向けて視線を合わせた。
「フェリシア…私に怒ってるのか?」
「いいえ、そんな事は」
「じゃあ、顔も見たくないほど嫌ってる?」
「いいえ」
エリアルドは心からよかったと、一言小さく呟いてフェリシアの髪を思わず撫でていた。
「少し、顔色は良くなったね」
数日前に青かった顔は今はずいぶんと良くなって見える。
「はい、殿下」
「ずいぶん、良くなりましたから」
「そう、じゃあ明日は食事を共に出来るね?」
「ええ、きっと…」
遠慮がちにも、だか素直に答えてくれたフェリシアの額に軽くキスをした。それくらいは……許されるだろうと。
「今は…誰も見ていませんでした」
「そうだね」
「睦まじくする必要は無かったのでは?」
「見られてる方がいい?」
そのエリアルドの言葉にフェリシアの頬が赤く染まる。
「冗談だよ」
意地悪を言ってしまった気がして、エリアルドはそう言うと立ち上がる。
「明日…待ってる」
嫌われてはいない。
……それに心を強くしていたある日……。
夜、エリアルドはまた歌声が聞こえて……フェリシアの部屋のバルコニーに立った。
フェリシアは影の姿のエリアルドを見て少し笑うと、顔を覗かせていた飾り窓を閉めて、バルコニーの窓を少しだけ開けて、その前に座る。
「おい、お嬢様」
絨毯に直に座ったその姿に少し驚いたからだ。
「独り言を…今から言うの。影に向かって」
以前に……確かに独り言を言うつもりで、なんでも話せと確かに言ったと思い出す。
「…おう…」
エリアルドはフェリシアと同じように小さくバルコニーに座った。
「影は、結婚してるの?」
独り言と言ったのに、何故か質問だ……。
「それ、独り言じゃないからな」
「恋人は?」
「あー、まぁ。いるといえばいる」
他ならぬ、質問主であるフェリシアは、エリアルドの婚約者なのだから。
「もしもよ?」
フェリシアは一旦言葉を切った。
「ここでの会話は、誰にも秘密よ?言えば…貴方に襲われたって言っちゃうから」
確かに今は夜に二人きりという環境ではある。
「おい、どんな脅しだ…」
「例えば…。上司から、結婚しなさいって言われてどうしても、断れないとするでしょ?貴方はどうする?彼女と別れて、その人と結婚する?結婚しても、彼女と付き合い続ける?ね?どうする?」
「なんだって、そんな事…」
「ねぇ?どうする?」
「…悩むなぁ…。別れる…かな、付き合い続けるのは誠実じゃない」
そもそも……好きな彼女と、別れられるのか……。
しかし決められている事ならば、せめて、どちらにも誠実ではありたい。
「…それで、その奥さんのことは愛せると思う?」
「…わからないな…相手次第だ」
「結婚して一緒にいても…やっぱり保障はないってことよね?」
そこにきて、エリアルドはこれはフェリシア自身の事なのかと眉をひそめた。だから……誰にも告げるなと言ったのか……
「お嬢様…これって…もしかして」
「独り言って言ったでしょ?誰の事でもないの、単に…そうふと誰かに聞いてみたくなっただけ」
「聞いてくれてありがとう。これ、恋人にでもあげて」
フェリシアは、部屋から取ってきたハンカチ包みをそっと隙間に差し入れて渡す。
「おい、一方的に終わりかよ」
「いつでも聞いてやるって言ったのは貴方でしょ?」
フェリシアには……誰か思う相手がいたということか……。
その可能性は思いもしておらず……。
しかし、そうだとすれば……どこか距離のあるフェリシアの態度も納得が出来る気がした。
そう言ったフェリシアの言葉が忘れられない。
「ショーン……。俺たちはやっぱり政略なんだよな?」
ボソッと執務中に言ってしまい
「すまない、忘れてくれ」
「なるほど……政略か……そうでないか……しかし、婚約し結婚する。この事実にはなんの違いもない。ただ心構えが違うだけだ」
一言でどんな悩みなのか悟ったらしい幼馴染みは、そう語るが……。
「ショーンだって独身じゃないか……そんな風にわかったように語られると騙された気分だな」
「殿下がそんなに、年下の令嬢に振り回されるなんてな……見ていて楽しいよ」
「楽しむなよ」
振り回されている……確かに、執務中に思い出すなんてそう言われても仕方がない。
「だけどな……小さいときから見てる俺だからわかる変化で、普通ならまず気づかないな……。いつだって完璧な王子さまだ」
「だったら……それでいい。そうでなくてはいけないからな」
「器用なのか、不器用なのか……。分かりづらいんだから、ちゃんと好きなら好きだと言葉にだして伝えろよ?」
あっさりとその単語を口にしたショーンを軽くねめつけた。
しかし……分かりにくい……そう言われて、エリアルドはここ数日具合の悪いフェリシアを見舞う事にしてみた。
部屋を訪ねれば室内用のドレス姿のフェリシアは無防備で……見てしまったことを後悔するくらい愛らしかった。
「そうやって…化粧もせず髪も下ろしたままだと、君がまだ16歳だと思い出されるね」
「こんな姿をお目にかけるつもりはありませんでした」
恥ずかしそうなのにより心がざわついてしまう。
「具合が悪いんだから、楽にしていたらいいよ」
カウチソファにいたフェリシアに、エリアルドは近づいてそっと覗きこむと、居心地が悪そうに顔を背けてしまう。
「事前に、知らせてくださらないと」
どうやら無防備な姿であるのが心許ないようで、ストールを羽織る。
「悪かった。でも、私たちは結婚するんだ。こうして歩み寄るのは大切な事じゃないか?」
エリアルドはその柔らかな頬に手を当てて、背けてしまった顔を己に向けて視線を合わせた。
「フェリシア…私に怒ってるのか?」
「いいえ、そんな事は」
「じゃあ、顔も見たくないほど嫌ってる?」
「いいえ」
エリアルドは心からよかったと、一言小さく呟いてフェリシアの髪を思わず撫でていた。
「少し、顔色は良くなったね」
数日前に青かった顔は今はずいぶんと良くなって見える。
「はい、殿下」
「ずいぶん、良くなりましたから」
「そう、じゃあ明日は食事を共に出来るね?」
「ええ、きっと…」
遠慮がちにも、だか素直に答えてくれたフェリシアの額に軽くキスをした。それくらいは……許されるだろうと。
「今は…誰も見ていませんでした」
「そうだね」
「睦まじくする必要は無かったのでは?」
「見られてる方がいい?」
そのエリアルドの言葉にフェリシアの頬が赤く染まる。
「冗談だよ」
意地悪を言ってしまった気がして、エリアルドはそう言うと立ち上がる。
「明日…待ってる」
嫌われてはいない。
……それに心を強くしていたある日……。
夜、エリアルドはまた歌声が聞こえて……フェリシアの部屋のバルコニーに立った。
フェリシアは影の姿のエリアルドを見て少し笑うと、顔を覗かせていた飾り窓を閉めて、バルコニーの窓を少しだけ開けて、その前に座る。
「おい、お嬢様」
絨毯に直に座ったその姿に少し驚いたからだ。
「独り言を…今から言うの。影に向かって」
以前に……確かに独り言を言うつもりで、なんでも話せと確かに言ったと思い出す。
「…おう…」
エリアルドはフェリシアと同じように小さくバルコニーに座った。
「影は、結婚してるの?」
独り言と言ったのに、何故か質問だ……。
「それ、独り言じゃないからな」
「恋人は?」
「あー、まぁ。いるといえばいる」
他ならぬ、質問主であるフェリシアは、エリアルドの婚約者なのだから。
「もしもよ?」
フェリシアは一旦言葉を切った。
「ここでの会話は、誰にも秘密よ?言えば…貴方に襲われたって言っちゃうから」
確かに今は夜に二人きりという環境ではある。
「おい、どんな脅しだ…」
「例えば…。上司から、結婚しなさいって言われてどうしても、断れないとするでしょ?貴方はどうする?彼女と別れて、その人と結婚する?結婚しても、彼女と付き合い続ける?ね?どうする?」
「なんだって、そんな事…」
「ねぇ?どうする?」
「…悩むなぁ…。別れる…かな、付き合い続けるのは誠実じゃない」
そもそも……好きな彼女と、別れられるのか……。
しかし決められている事ならば、せめて、どちらにも誠実ではありたい。
「…それで、その奥さんのことは愛せると思う?」
「…わからないな…相手次第だ」
「結婚して一緒にいても…やっぱり保障はないってことよね?」
そこにきて、エリアルドはこれはフェリシア自身の事なのかと眉をひそめた。だから……誰にも告げるなと言ったのか……
「お嬢様…これって…もしかして」
「独り言って言ったでしょ?誰の事でもないの、単に…そうふと誰かに聞いてみたくなっただけ」
「聞いてくれてありがとう。これ、恋人にでもあげて」
フェリシアは、部屋から取ってきたハンカチ包みをそっと隙間に差し入れて渡す。
「おい、一方的に終わりかよ」
「いつでも聞いてやるって言ったのは貴方でしょ?」
フェリシアには……誰か思う相手がいたということか……。
その可能性は思いもしておらず……。
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