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難しい関係 (E)
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社交シーズンを前に、王都には少しずつ貴族たちが一族を連れてまた戻ってくる。また華やいで賑やかになる季節がやって来たのだ。
エリアルドは執務室でショーンの訪問を受け思い思いに椅子に座って少し寛いでいた。
「エリアルド」
従者たちが下がり二人きりになれば、幼馴染みの気安さでショーンはそう呼びかけた。と言うことは、砕けた話をするぞと言うことだ。
「そろそろ結婚生活にも慣れたか?」
そう聞かれて、ショーンにはエリアルドの表情のほんの僅かな動きから、苦悩を読みとったらしい。
「…うまくいっていないのか?…」
「それなりに上手くいっているとは思っていたが…。やはり若い女の子というのは扱いが難しい。どこで機嫌が悪くなるやら…」
エリアルドはよそよそしくなったきっかけは、と……最後に行った乗馬を思い出す。
どこでフェリシアの機嫌を損ねたのか……。
思いきって近づいてから、上手く行き始めたとそう思っていたし、二人で出掛ける乗馬の時間はその時が終わるのがあっけなく感じるほど大切な時間だった。
「エリアルドは、カーラと比べすぎてはいないか?」
カーラは、エリアルドたち共通の幼馴染みで身内以外では唯一親しく付き合ってきた女性だが、なぜ比較されるのかとショーンを見返した。
「カーラの事は関係ない」
「いや、あるだろう。お前がいつまでも忘れないから上手くいかないんじゃないか?」
忘れないも何も…カーラは幼馴染みでフェリシアとは別だ。ショーンがなぜ繋げてくるのか、まだわからない。
「ショーン、私はすでにフェリシアと結婚したのだから……」
「そんな事は誰だってわかってる」
「それに、私が思うにフェリシアには……だな」
「なんだ?」
「好きな相手が居たのだと思う」
「なんだって?」
「それにカーラは私にとっては妹のような存在で忘れるも何も、フェリシアと比べる存在ではないんだ」
「……お前はそうでも、周りはそうは思っていない」
ショーンの言葉にエリアルドは、いつも湛えている笑みを消して紫の瞳を見返した。
「……どういうことだ」
「この王宮では……エリアルド殿下はカーラ・グレイを想っているというのは、密かに噂される有名な話だそうだ」
「……確かに失明しなければカーラが私の婚約者の候補であったことは確かだろう。身分といい年齢といい申し分なかった。だが選んだのはフェリシアだ」
「選んだ……ね、選ばれたとは言わないんだな?」
「ショーン、私には確かに立場ゆえにどうしようも出来ない事もある。国が決めた私の結婚は、自分が決定したことで何よりフェリシアを大切に想ってる」
「……それを聞いて安心したよ」
ショーンはそういって笑みを深くした。
「クリストファーがさ、求婚するんだってさカーラに」
「へぇ?それはいいな」
マールバラ公爵家のクリストファー・リーヴィスは幼馴染みの中でも年長で一番しっかりしていてカーラの事をいつも気にかけていたのは記憶に根付いている。
親しい二人が上手くいき結婚という結果になればエリアルドも嬉しいと感じる。
「クリストファーが……もしもエリアルドとカーラが噂通り相思相愛なら……と躊躇いがあったらしい。俺はそんな事はないと思っていたけど、火のない所に煙はたたないともいうしな」
「カーラと二人であったことすら無いのにな。そんな噂に振り回されるなんてな」
エリアルドはショーンに笑いかけ、ショーンもまた可笑しそうに笑った。
「で……なんでフェリシア妃には好きな相手がいると?」
「影に、恋人が居るのに他の人と結婚したら、その相手を愛せるか……と聞いてきた」
「影?」
「黒騎士だ、俺の」
と言うよりはエリアルド自身なのだが、変装してまで近づいていたとは、ショーンにも打ち明けられない。
「それでエリアルドはそれは、彼女自身の事だと思ったわけか?」
肯定するように軽く頷いた。
「そういう相手が居ても可笑しくはないだろう?」
「なるほど」
「調べたらブロンテ家のカントリーハウスのある領地の祭りがあるんだが、年頃の男女が仮装して踊るんだそうだ。フェリシアはそこで踊るのを楽しみにしていたみたいだな」
「その誰かと?」
「はっきりと確認した訳じゃない」
「確認すればいいじゃないかそれで、解決する。もしくはきっぱり無視しろ。結婚してしまった以上誰にもどうにも出来ないんだからな」
「そんな事は出来ない。もしもそれで………相手の名を告げられたら?俺は……そいつをどうする?情けないことに……フェリシアの前ではとても俺は臆病だ」
そういって、脚を組んで整えた髪をかきあげた。
そして、その日の夜。
王族揃っての晩餐の後、突然……というように見えた。
フェリシアは先に立ち去ってしまった。
近頃はエリアルドによそよそしくさえあるフェリシア。
エリアルドが追いかけても……もしかすると本音は聞くことが出来ないかもしれない。もしも……影の姿になら……いつも口しない言葉を告げてくれるだろうか?
しかし、前に別離を告げたフェリシアはもう影にさえ何でもない、と告げたのみだった……。エリアルドにはもう、どうやって彼女との距離を縮めれば良いのか分からなくなってしまった。
エリアルドは執務室でショーンの訪問を受け思い思いに椅子に座って少し寛いでいた。
「エリアルド」
従者たちが下がり二人きりになれば、幼馴染みの気安さでショーンはそう呼びかけた。と言うことは、砕けた話をするぞと言うことだ。
「そろそろ結婚生活にも慣れたか?」
そう聞かれて、ショーンにはエリアルドの表情のほんの僅かな動きから、苦悩を読みとったらしい。
「…うまくいっていないのか?…」
「それなりに上手くいっているとは思っていたが…。やはり若い女の子というのは扱いが難しい。どこで機嫌が悪くなるやら…」
エリアルドはよそよそしくなったきっかけは、と……最後に行った乗馬を思い出す。
どこでフェリシアの機嫌を損ねたのか……。
思いきって近づいてから、上手く行き始めたとそう思っていたし、二人で出掛ける乗馬の時間はその時が終わるのがあっけなく感じるほど大切な時間だった。
「エリアルドは、カーラと比べすぎてはいないか?」
カーラは、エリアルドたち共通の幼馴染みで身内以外では唯一親しく付き合ってきた女性だが、なぜ比較されるのかとショーンを見返した。
「カーラの事は関係ない」
「いや、あるだろう。お前がいつまでも忘れないから上手くいかないんじゃないか?」
忘れないも何も…カーラは幼馴染みでフェリシアとは別だ。ショーンがなぜ繋げてくるのか、まだわからない。
「ショーン、私はすでにフェリシアと結婚したのだから……」
「そんな事は誰だってわかってる」
「それに、私が思うにフェリシアには……だな」
「なんだ?」
「好きな相手が居たのだと思う」
「なんだって?」
「それにカーラは私にとっては妹のような存在で忘れるも何も、フェリシアと比べる存在ではないんだ」
「……お前はそうでも、周りはそうは思っていない」
ショーンの言葉にエリアルドは、いつも湛えている笑みを消して紫の瞳を見返した。
「……どういうことだ」
「この王宮では……エリアルド殿下はカーラ・グレイを想っているというのは、密かに噂される有名な話だそうだ」
「……確かに失明しなければカーラが私の婚約者の候補であったことは確かだろう。身分といい年齢といい申し分なかった。だが選んだのはフェリシアだ」
「選んだ……ね、選ばれたとは言わないんだな?」
「ショーン、私には確かに立場ゆえにどうしようも出来ない事もある。国が決めた私の結婚は、自分が決定したことで何よりフェリシアを大切に想ってる」
「……それを聞いて安心したよ」
ショーンはそういって笑みを深くした。
「クリストファーがさ、求婚するんだってさカーラに」
「へぇ?それはいいな」
マールバラ公爵家のクリストファー・リーヴィスは幼馴染みの中でも年長で一番しっかりしていてカーラの事をいつも気にかけていたのは記憶に根付いている。
親しい二人が上手くいき結婚という結果になればエリアルドも嬉しいと感じる。
「クリストファーが……もしもエリアルドとカーラが噂通り相思相愛なら……と躊躇いがあったらしい。俺はそんな事はないと思っていたけど、火のない所に煙はたたないともいうしな」
「カーラと二人であったことすら無いのにな。そんな噂に振り回されるなんてな」
エリアルドはショーンに笑いかけ、ショーンもまた可笑しそうに笑った。
「で……なんでフェリシア妃には好きな相手がいると?」
「影に、恋人が居るのに他の人と結婚したら、その相手を愛せるか……と聞いてきた」
「影?」
「黒騎士だ、俺の」
と言うよりはエリアルド自身なのだが、変装してまで近づいていたとは、ショーンにも打ち明けられない。
「それでエリアルドはそれは、彼女自身の事だと思ったわけか?」
肯定するように軽く頷いた。
「そういう相手が居ても可笑しくはないだろう?」
「なるほど」
「調べたらブロンテ家のカントリーハウスのある領地の祭りがあるんだが、年頃の男女が仮装して踊るんだそうだ。フェリシアはそこで踊るのを楽しみにしていたみたいだな」
「その誰かと?」
「はっきりと確認した訳じゃない」
「確認すればいいじゃないかそれで、解決する。もしくはきっぱり無視しろ。結婚してしまった以上誰にもどうにも出来ないんだからな」
「そんな事は出来ない。もしもそれで………相手の名を告げられたら?俺は……そいつをどうする?情けないことに……フェリシアの前ではとても俺は臆病だ」
そういって、脚を組んで整えた髪をかきあげた。
そして、その日の夜。
王族揃っての晩餐の後、突然……というように見えた。
フェリシアは先に立ち去ってしまった。
近頃はエリアルドによそよそしくさえあるフェリシア。
エリアルドが追いかけても……もしかすると本音は聞くことが出来ないかもしれない。もしも……影の姿になら……いつも口しない言葉を告げてくれるだろうか?
しかし、前に別離を告げたフェリシアはもう影にさえ何でもない、と告げたのみだった……。エリアルドにはもう、どうやって彼女との距離を縮めれば良いのか分からなくなってしまった。
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