約束が繋ぐキミとボク

黒蓮

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第二章 勇者候補と英雄候補

魔界会談

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 私以外の3人の英雄候補はそれぞれ、アザンプール国が推薦するレイクという男性で、年齢は28歳。身長は170センチくらいだろうか、そのほっそりとした見た目から、生粋の魔法使いであることが窺える。
次にヴェステル国が推薦するダグラスという男性。こちらは29歳で、身長2メートル程の筋骨粒々とした偉丈夫だ。おそらくは剣術を主体とする戦闘方法を得意としているのだろう。
そして最後はベイジング国が推薦するバックスという男性で、年齢は23歳。身長は180センチ程で、バランスのとれた体つきをしている。おそらくは私同様に魔法も剣術も使いこなすような戦闘スタイルを得意としているのかもしれない。

私が15歳ということを考えれば、今回各国から選出された英雄候補の中でも群を抜いて年齢は下だ。身長も150センチ少ししかない私は、彼らと比べ頭1つ2つ低い。となれば当然というか必然というか、こんな疑問も出てくるわけだ。

「ところで、ダスティニア国の英雄候補殿は今年成人したばかりとか・・・大丈夫なのですかね?その、いろいろと」

各国から一通り英雄候補についての為人《ひととなり》の説明が済むと、ベイジング国の宰相の男性が、遠慮した声音で私について疑問を投げ掛けてきた。何故遠慮したような様子かといえば、この会談には魔界の現英雄である叔父様が出席しており、しかも私は叔父様直々に英雄候補としての推薦を受けている。そんな叔父様の判断を疑うような言い方にならないよう、気を使ってのものなのだろう。

「疑問の声ももっともだろう。彼女は成人したとはいえ、肉体的には未だ完成しているとは言い難い」
「そ、そうなのですね・・・」
「ただ、その実力は確かだ。私が保証しよう」

疑問の言葉に応えたのは、叔父様本人だった。既によわい50歳を越えており、武人としてのピークは過ぎているはずなのだが、その雰囲気は強者特有のものを醸し出しており、この場にいる全ての人達は、叔父様の一挙手一投足から目を離せないでいるようだった。

「グラビス殿、よろしいでしょうか?」

叔父様の雰囲気に圧倒される議場の中で、一人手を挙げながら発言したのは、ヴェステル国が推薦する英雄候補、ダグラスさんだった。

「どうしたかな、ダグラス?」
「はい。魔界を代表する英雄ともなれば、その存在だけで兵達の士気を向上させる存在とならねばなりません。しかしながら、リーア嬢にその役割がこなせるものでしょうか?」

言外に、女性には英雄は務まらないとでもいうような言葉を匂わせたダグラスさんに対し、叔父様は口元に笑みを浮かべながら質問に返答する。

「英雄足るに必要なのは、信頼と実績だ。確かな実力は兵達を安心させ、士気を向上させるだろう。ただ、彼女は今年成人したばかりで、その実績や功績が無いのは事実。であるならば、今日という日は行幸だな。各国の為政者達も集まるこの会談で、リーアの実力をその目で確認できるというものだ」
「っ!模擬戦を行うということでしょうか?」

叔父様の言葉に驚きの声をあげたのは、最初に私の実力に疑問を投げ掛けてきたベイジング国の宰相だ。

「そこまで大きく捉えることもない。英雄候補同士の単なる手合わせ程度だ」
「て、手合わせですか・・・」

叔父様の言葉に、宰相は額から流れる脂汗を拭いていた。何故手合わせにそれほどの忌避感を漂わせているかといえば、4人の英雄候補の中で、現時点の優劣がついてしまうからだ。各国とも自分の国の候補が英雄となることを望んでいるが、叔父様提案の手合わせで自国の候補が無様を晒せば、英雄から遠ざかってしまうどころか、早々と脱落する可能性もあるからだ。

「それはいい提案ですな!是非その実力を確認したい!」

円卓に座る各国の為政者達が微妙な空気を発する中、何も考えていなさそうな声で、ダグラスさんが笑みを浮かべていた。

「ふむ、私は遠慮しておきましょう。無闇やたらと力をひけらかすのは性分では無いので」
「では、私も」

レイクさんとバックスさんは今回の手合わせの本質を理解しているのか、何食わぬ顔をしながら断りの言葉を伝えた。

「何だお主達、張り合いがないのう。みなの実力を確認できる良い機会ではないか!」

ダグラスさんは叔父様に対しての口調から一転して、他の英雄候補に対しては幾分フランクな話し方をしている。おそらくこれが彼本来の話し方なのだろう。ただ、ダグラスさんの能天気な発言に、ヴェステル国の国王陛下も宰相も頭を抱えていた。どうやら今回の様な考えなしの発言は、割といつものことのようだ。それでも彼を英雄候補として国が推薦しているのだから、その実力は本物なのだろう。

「私は、自分の力を魔族の為に使いたいと考えておりますので、自らの力を誇示するような催しに興味はないのですよ」
「まぁ、そのような考えなら致し方ないな。バックス殿はどうか?」

レイクさんの返答に、ダグラスさんは納得げな表情を浮かべ、次いでバックスさんにも真意を確かめていた。

「私は見て分かる通り、魔法を主体とした戦闘を行いますからね。正面からの一騎打ちとなる手合わせでは、本領が発揮できませんから」
「なるほど。それもそうだな」

バックスさんの言葉に、またしても納得した表情を浮かべるダグラスさんに対して、私は内心で大きなため息を吐いた。

(ダグラスさんは典型的な脳筋かな・・・レイクさんは計算高くて腹黒そう。バックスさんは・・・何考えてるか分かり難い人ね)

そんな事を考えていると叔父様が立ち上がり、自らに注目を集めるためか、両腕を広げながらの大仰な仕草で口を開いた。

「ではこれより場所を移し、我が弟子リーアと、ヴェステル国の英雄候補であるダグラスとの公開手合わせを行う!審判は私が勤めよう。お互い、相手を死に至らしめるような攻撃は厳禁だが、英雄候補として恥ずかしくない手合わせをするように!」
「「はっ!!」」

叔父様の言葉に、私とダグラスさんは右の拳を左胸に押し付ける敬礼姿勢をとった。そして、そのまま叔父様に引きつられるような格好で議場を後にし、隣接している広場に移動した。
当然、今回の会談に出席しているほぼ全員も同じように移動したのだった。
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