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黒蓮

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第二章 冒険者生活 編

冒険者生活 19

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「初めまして、ダリア・タンジー様。この度はわたくし共の護衛の任を受けていただき感謝申し上げます」

 冒険者協会でギルさんからスタンピードにおける聖女様の護衛依頼を受けてから数日、間近に迫ったスタンピード討伐作戦の前に顔合わせが行われた。作戦と言っても冒険者協会側にはまるで概要は伝わってきていない。僕の任務にしてもただの護衛という位置づけなので、伝える必要はないと騎士団からけんもほろろに言われたとギルさんが愚痴っていた。

 顔合わせに僕が来ているのは王都に2つある神殿の内、上級貴族街にある神殿へと訪れていた。今まで国立大図書館へは良く来ていたが、神殿へは行ったことがなかった。平民街の神殿と外見は似ているがその大きさは倍以上あり、白を基調としたデザインで所々金の装飾が施された美しい建築物だ。神殿のシンボルなのか正面の入り口には花の紋様が大きくあしらわれていた。

そして、今僕がいる神殿の応接室には王国の聖女と名高いフリージア・レナード様と枢機卿たるデンゼル・レナード様、神殿騎士5人、側仕え2人と対面している。もっとも椅子に座っているのは僕と聖女様と枢機卿の3人だけで、残りの人は警護のように2人の後ろに控えている。

「初めまして、ダリア・タンジーと申します。デンゼル・レナード枢機卿猊下、フリージア・レナード様。ご尊顔を拝することが出来まして恐悦至極に存じます。本日はお招きいただき感謝申し上げます!ですが私に敬称は不要ですので、ダリアとお呼びください」

枢機卿の孫娘という立場にあるフリージア様に、ただの冒険者である僕が様付けで呼ばれるのはどうかと思い、様付けは不要であると伝えた。

「そうですか?・・・ではせっかく同じ年齢ですので、ダリア君と呼びますね!ダリア君も私の事はフリージアで構いませんよ」

そう言いながら僕に優しく微笑みかけてきた。フリージア様は薄い水色の美しい髪が腰まで伸びており、神殿の衣装なのか、白地に金の刺繍入りのローブを身に付け、その綺麗な髪には神殿のシンボルの花の髪飾りが付けられていた。同い年なのに静謐せいひつな雰囲気が漂う彼女はまさに聖女と言われるに相応しい容貌をしていた。

「ではフリージア様と呼ばさせて頂きます」

そんな僕らのやり取りを黙って見ていた枢機卿だったが、長い白髭を手で整えながら値踏みをするような視線を向けて話しかけてきた。

「ふむ、ギル殿に聞いていたように礼儀はしっかりしているようだな。今回の討伐において君の周りはそれなりの肩書きの者達ばかりだ、礼儀を知らぬ者だと無用な軋轢あつれきを生みかねんからな。しかもその年でフェンリルをも単独で討伐していると聞いているが、本当かね?」

ギルさんからある程度僕の事は聞いているのだろう、僕がどの程度の冒険者なのか確認するような聞き方で尋ねてきた。

「はい、フェンリルは何頭も討伐していますし、最近だと深層のケルベロスも討伐しました」

 これはケルベロスの毛皮の納品依頼があったので受注したものだ。ケルベロスの毛皮は通常は黒色なのだが、魔力を流すと深紅の赤に変わる珍しい特性が貴族からは人気で需要が高いらしい。ただ、上級魔獣の中でも上位の強さを持つケルベロスは基本的に指名依頼でしか達成困難なものらしいのだが、指名料をけちった依頼人が出したものだったらしい。

「まぁ、あのケルベロスを!?凄いですね!」

「ほほぅ、話しに違わぬ力の持ち主のようだな。そうでなければ、あのギル殿が推薦するはずはないか・・・」

「ギルさんはそんなに有名なのですか?」

「知らないのかね?今は冒険者協会の会頭だが、以前の彼はダイヤランク冒険者として名を馳せていたのだよ?」

初耳の事に多少驚いたが、そう言われて考えてみれば、まだ若いのに冒険者協会の会頭という立場にいることや、貴族のツテを使って大図書館への入館を取り次いでくれた事にも、ギルさんがダイヤランク冒険者だったと言われると合点がいった。それほど優秀な人なのだろう。

「そうだったんですね、知りませんでした。そんな人から評価されているとは光栄ですね」

そんな事を話していると、徐々に値踏みする表情が薄らいでいった。そして、雑談からスタンビートへと話しは移っていった。

「さて、本題だが、作戦当日にはフリージアの安全は聖騎士が守るので、君にはドラゴンの討伐に専念してもらいたい」

「・・・それでは殿下の反感を買ってしまうのではないでしょうか?」

さすがに手柄を上げようと考えている王子の最大の獲物を横取りしては、反感どころか秘密裏に処刑されるとか王都に居られないようにされるとかされそうだ。今の僕としては王族を敵に回す気はさらさら無い。

「もちろん表立ってではなく、秘密裏に討伐して欲しい。その為の側仕えだ。君と背丈の似た側仕えに変装させ、護衛である君は常にフリージアと共に居たと周囲に印象付ける。ドラゴンはいつの間にか誰かによって討伐されたという事だ」

「殿下のチームでは討伐は不可能なのですか?」

「私からは言い難い事だな・・・聖騎士長!変わりに頼む」

枢機卿が後ろに控えている聖騎士を見もせずに説明を代わるように命令した。その言葉に一人の聖騎士が一歩前に出た。

「はっ!それでは僭越ながら聖騎士長を勤めております私が説明致します!ゲンティウス殿下のチームの戦力は———

 聖騎士長からの説明では、チームは王子を含めて5人で構成されており、王子以外の騎士の実力はプラチナランク冒険者に匹敵するらしい。では肝心の王子はとなると、本人は第三位階火魔法と剣術を得意としており、さらに5つの才能持ちで将来有望なのは間違いないという事だ。

ただ、という言葉通り、現在の実力で言えば銀ランクの上位程度で、チームとして活動しているからこそ認められた金ランクという事らしい。そのことについて王子自身も不満に思っており、周囲に自分の実力を認めさせるために今回の様な無茶なことを言い出したのではないかという事だった。

また、今回確認されているドラゴン種はワイバーンで、ドラゴンの中では下位に位置するが十分超級の魔獣で、プラチナランクでも5人ほどが取り囲むように討伐してようやくという事らしく、王子のチームだけでは不安が残るという事だった。

「さすがに他の騎士達も参戦して討伐すれば大丈夫なのでは?」

「それが・・・魔獣達の数を考えると戦力を集中することが出来ないのです。ドラゴンに掛かり切りで気付いたら王都に魔獣が攻め込んでいましたとはいかないですからね。それに自分以外が討伐しないように他のチームは近付かないようにとのげんでして」

「それを周りの方は認めたのですか?」

「色々と事情があるのですが・・・結果としてはその通りです」

話だけ聞けば王子の我儘で王都が危機に曝される可能性があるのにどうなっているんだ、というのが正直な感想だった。ただ、僕も絶対討伐可能かと言われると疑問が残るところだったので、そこは素直に枢機卿に告げておく。

「分かりました。とはいえ私も確実にドラゴンを討伐出来るかは分からないのですが?」

「最悪殿下のチームと共闘して討伐出来れば良いが、くれぐれも正体が分からぬようにして欲しい。フリージアは光魔法で負傷者を治療するので多くの人の目に晒される。当然護衛として居る君に変装した側使えもだ。にも関わらずその君が殿下のチームの前に現れたら今回の企み事が殿下にバレてしまうからな」

枢機卿の僕に対するかなり高い評価には恐縮してしまうが、なぜこれほどまで信頼されているのかは疑問だ。

「分かりました。微力を尽くします!」

「すべては王都に住まう全ての民達の為だ!ダリア・タンジー、頼むぞ!フリージアは彼に聞きたいことはあるかね?」

枢機卿からの話は終わったのか、隣で笑顔で大人しくされていたフリージア様に話を振った。

「そうですね、今回の事とは関係ないのですが、わたくしは同年の友人が少ないもので、今回の依頼が終わっても良き友人としてお付き合いくだされば幸いです」

「はい、もちろんですよ!」

この時は年相応の笑顔を見せていたフリージア様に僕も友人が出来て嬉しかったが、後に彼女の隠された趣味を知ることになり後悔するのだった。
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